宇宙でいっとう男前の岩
権田さんの岩は、犬がちょこんとお座りしたような形で、会でも評判だった。本人は「ポチ」と名づけてかわいがっている。今年の品評会こそ、いちばん大きい岩の一等を取る気でいた。
宇宙を舞台にした、ちょっと不思議な物語たち。
176作品
権田さんの岩は、犬がちょこんとお座りしたような形で、会でも評判だった。本人は「ポチ」と名づけてかわいがっている。今年の品評会こそ、いちばん大きい岩の一等を取る気でいた。
宇宙ステーションの引越し屋。上も下もない場所なんだから、荷物なんてどう積もうが同じでしょ――威勢のいい若手はそう言って箱を放り込む。古株のじいさんは、何があろうと箱に筆で四文字を書きつづける。
遠い星の家族へ毛布や保存食を送る人は多い。でも片道十一年、検疫、星ごとに違う箱の寸法。善意はたいてい宛先に届かず、返送記録簿にたまっていく。年の暮れ、返送係が今年最後の一件の送り主欄に目を落とす。
この集合住宅では、物は置いとくだけで薄くなって消える。しかも数の少ないものから先に。だからおれは何も持たない。失くすものがなければ嘆くこともない。向かいのガラクタだらけのトメさんとは大違いだ。
光る生きものを売るナカオの店では、赤く燃える子ほど高く、青白い子は値引き札を重ねられて売れ残る。本部あての今月の報告書も、やっぱり赤い子がよく売れたと書いてある。ただ、返品の欄だけが少しずつ伸びて。
この部屋の火は、けっしてゆれない。息をかけても、ドアが開かないかぎり、まっすぐ立ったまま。彼女はその静けさが好きだった。ある夜、火がふっと窓のほうへ傾くまでは。
重い星のすぐそばで三年働いて戻ったら、顔も体もすっかり変わっていた。近づくと吸い込まれる、と町のみんなが遠巻きにする。だから私は指輪を送り返し、暗い部屋にこもった。そこへ、ノックの音。
越してきた晩、カツラギはベランダで固まった。向かいにひとつ、ばかみたいに明るい窓がある。電気を全部つけっぱなしの、とんだ見栄っぱりだ。負けてたまるかと、彼は翌朝、金物屋で特大のランプを買ってきた。
町はどこもかしこも茶色い。でも夕方になると、西の空にひとつだけ、ばかみたいにきれいな星が光る。だれもがあこがれる宇宙一いい住所。その抽選に、見栄っぱりのカワベさんが当たってしまった。
六十日、ただ寝ているだけで四十万円。おれはこの仕事にもぐり込んだ。動かないのは得意だ。カーテン一枚はさんだ隣のベッドには、ひと言もしゃべらない相手がいて、退屈しのぎに、おれは毎日その人へ話しかけた。
父は三十年、居間のすみで塔の模型を作りつづけた。でも、ある高さをこえると、きまってどちらかへかたむいて倒れる。亡くなったあと、宇宙ステーションで働く息子が、倒れかけの塔を箱にしまって持って上がった。
うちのハルキは、ずっと遠くの基地で働いている。となりの吉田さんに教わって、母さんはあの子の心ぞうの音が地球から見られるアプリを入れた。画面の小さな山が、ある晩ぴょんと跳ねて——。
タケルが夜ごと窓から見上げる、空いっぱいのとなりの星。見慣れたでこぼこの顔の反対がわに、このごろ、定規で引いたようにまっすぐな線があらわれた。数日に一度、角がひとつずつ増えていく。
この星の空は一日に何度も色を変える。ハルにとっては、それがふつうだ。ところが遠くの星から来たおばあちゃんは、来るたびにカーテンを閉めて回る。「こんな落ち着かない空、かわいそうに」と言いながら。
空には月が二つ。大きくて立派なほうは兄のもので、みんなが写真を撮る。小さくて地味なほうが、ぼくの月だ。名前もない。兄ちゃんはいつも、ぼくの月を月じゃないと言って笑う。
むかし、街に落ちてくる石をひとつだけそらした男がいる。あの一撃がなぜ狙いの何十倍も効いたのか、本人にもわからないまま四十年。答えを載せた探査機が、きょう帰ってくる。
夕方になると、リクは庭のすみの山のふもとへもぐりこむ。いちばん下でずっと押されている、あたたかい平たい石に腰かけて空を見るのが好きなのだ。ある日、父が町から目ききを連れてきた。
マサじいは、町でいちばん時間に正確な爺さんだ。だれもが、じいの声で一日を始める。ところが近ごろ、西がわの人たちが口をそろえて言う。じいの時計は、遅れている、と。
皿の山のいちばん下に、ずっと文句を言っている白い皿がいた。使われるのはいつも上の皿ばかり。いつか自分もいちばん上へ行って、山ほど料理をのせてもらうんだ——そう言いつづけていた。
この星では、重いものを壁ぎわに隠すと、うしろの壁が水みたいにゆれてしまう。寛太は弟に食われる前にと、よその星の高いあられの缶をこっそり隠した。ゆれる壁を「古いから」ととぼけながら。
うちの町は、来た人がひとりも出ていかないのが自慢だ。だからあの朝、見たことのない足取りで若い人がやってきたとき、迎え委員会長のわたしは腕が鳴った。なにがなんでも、居ついてもらう。
うちのが単身赴任で火星に行って、もう半年。毎晩ビデオ通話で喧嘩するのだが、声が届くのは片道で十分かかる。だから、いつも十分前の妻と言い合っている。今夜こそ、言い負かしたい。
この社の御神体は、中まで金が詰まった一枚岩だと言い伝えられてきた。だれも開けたことはない。古い掃除機のキヨは三百年、毎朝それを宙に浮かべ、こまのように回してお清めをしてきた。
湊いちばん古い迎え船トモには、灯台さんの光そのものではなく、その一つ先の暗がりを指す変な癖があった。新しい正確な灯がお披露目される晩、湊守の子ノエは、みんなが拝む光がとうに通り過ぎたあとのものだと気づく。
この星で「曇ったら」は「やらない」の丁寧語だった。だからみんな、約束を守らずに済んできた。ところがある朝、空にほんとうに白い雲がわいて——。
オヤビという火が消えても、その重さは残って、家々はぐるぐる回りつづける。明るい火へ逃げた弟が、暗い火に残った姉を迎えに行くと、消えた火のそばのほうが、ずっと暖かかった。
遠い星からの便りは、一年に一行しか届かない。一通を読み終えるには人ひとりの一生がいる。五十年写しつづけた老女がはじめて最後まで読んだ一通は、町自身がとうに忘れた問いへの、たった一語の返事だった。
婚約者の実家は、宇宙でいちばんこわい穴のすぐ隣にあった。ごみは放れば消えるし、汚れ水も勝手に流れていく。便利だと笑う家族の前で、ぼくだけが一日じゅうびくびくしていた。
光の消えた古い星のまわりを、小さな灯が五十年、目で追えないほど速く回っている。その灰は奥で固く光る石に変わっていた。だが宝を掘るには、灯を引きとめる重さを、ぜんぶ運び出すしかない。
はだか星には何もない――町いちばんの通り過ぎ屋ハヤは、いちばん近くから一枚撮ってそう決めた。でも暗い窓から毎晩ながめていた甥のツグは、そこに淡い環があるのを知っていた。明るくするほど見えなくなるものの話。
今夜を逃せば、次に明るい世界へ渡れるのは一生あと。タカは大きな物を家から捨てて岩から浮かせようとするが、家はびくともしない。帳面に載らない、こぶしより小さなものたちの話。
光るのがいちばんえらい町で、まぶしすぎるタケはかくれんぼに勝てない。今日こそはと、自分より明るい常夜灯のそばに隠れた夜。だれにも見つからない場所で、地味なスズだけが、そっと手をかざした。
むこうの星の生まれだと五十年言い張るゲンじい。証言でも思い出でもなく、持ち帰った砂ひとつまみだけが出自を決めるこの町で、孫はむこうへ旅立った。帰ってきた孫が、生まれ壺にした一手の話。
この町では、えらい人ほどゆっくり回る。町いちばん重い回り親方トクは、一年に一度しか正面を向かない。速く回りすぎるのが恥ずかしい女の子ミナは、そのどっしりした親方に憧れていた。
月の家は番人がひとりきり。去る便と来る便は地上でそろわず、次に来る人とは一生会えない。十二年ぶりに帰るトノ婆さんは、顔も知らない相手のために、きちんと棚を高くしておく。
百代に一度、空のはしとはしに二つのあかりが出る夜。父は幼い娘に西の大玉を見せようとするが、ノノはずっと父さんの顔ばかり見ている。二度と来ない古い光と、今夜しかない顔の話。
村で外の壁を直すのは、子どもの憧れの仕事だ。綱を握る「おるすばん」役がいやなトトは、ある朝はじめて祖父の命綱をあずかる。息もできない外と、たった一本の綱でつながって。
四十年ぶりに故郷へ帰ったトビを、町はどうしても本人と認めない。西の空には旅立った晩の若い顔が、いまも町いちばんの男前として光っているのだから。
うちのゴマは、朝も夜も西の空の青白い星をにらんでいる。座布団は六十年でゴマのかたちにへこんだ。孫はばかな猫だと笑う。けれど、その星が一生に一度だけかげる晩に――。
大あかりと子あかりが、ちょうど同じ大きさに見える。正しい場所に立てば、子あかりは大あかりの中にすとんとはまる。ゼン爺さんが五十年、床几を家へ寄せてくれないわけ。
月のおへそ広場では、中心係のロボット・マルさんが毎朝まん中に白い丸を描く。ところがその丸は、毎晩ほんの少し横へずれる。ずれの先には、そばを通ったものが消える、だれも拝まない一角があった。
遠い星へ行った幼なじみと、この町は糸電話でつながる。声がとどくのに何十年もかかる。つめたく突きはなして、さきにコップをふせた——そのおれに、六十年おくれて返事が来た夜の話。
うちの町では、遠くを見るのがいちばんえらい。遠見くらべで三年びりのぼくが、ある昼、洗いおけの水にうつった日ぼしの顔を見てしまう。つるんとした金の皿だと、だれもが思っていたのに。
まわり町では、いちばん重い者がまん中に座る。ゴロはその席がほしくてたまらない。町じゅうの物がわが家へ転がり寄るよう、こつこつ仕込んで――とうとう、まん中の座布団を手に入れた日の話。
祭りの晩、ナギは近所のスエ婆さんを呼びに行く。婆さんは五十年、みんなが「死に提灯」と呼ぶ遠いあかりだけを見つづけていた。変わらないはずのそのあかりに、今夜、小さな点がひとつ灯る。
生まれた子をくるむ「うぶ雲」を、いちばん早く吹きとばした子がいちばんえらい。七つで巣立った兄カンは遠い町の目印になった。十二になっても雲がとれない弟フクは、ぐずと呼ばれる。ある晩、産婆が古い籠をのぞきに来る。
カズの灯り木は、まだ親指くらい。海のむこうの島には、生まれつき大きいままの大木が立つ。追いつきたいカズに、隣のトメ婆さんは言った。追いかけっこの相手は、もういないんだよ、と。
遠い岸に新しい灯りがつくたび、町は名前をつけて祝う。けれどヌイ婆さんだけは喜ばない。昔いちど、まぐれの灯りを本物と信じて笑われたからだ。帳面に測りつづけた末に見えたのは、町の決まりのちょうど逆だった。
丘の上の暖かい家ほど、屋根から空気がもれて白い湯気の柱を立てる。夫は「もったいない」と隙間をふさぎ続けるが、もれない家は空き家と見分けがつかない。長い夜、妻はふさいだ継ぎ目に指をかける。
空気のない岩の町の床屋トメは、落ちる砂で客の生まれた星を当ててしまう。地元の寄り合いに入りたい男カジが髪を整えにくるが、服にこびりついた砂は、本人よりずっと正直だった。
町のはずれのベンチで、マツとユキは六十年ならんで座ってきた。ユキは今も『若い人』と呼ばれ、マツは年寄り扱いされる。同じ日に生まれた二人なのに。ある夕方、ユキははじめてマツの顔の反対側を見る。
遠くから落ちてくる客は、着いたときにはもう灰。トメ婆さんは、その灰だけでどこの空の子か言い当てる。孫のハルは一度でいいから、客の口から故郷を聞きたかった。
町のはしに、まぶしい大きな光がある。そのまぶしさの中に、ばあちゃんの家はとけて見えない。孫のぼくは、みんなに見えるようにしてあげたかった。でも、ばあちゃんは、見えないほうがよかったらしい。
星々に家族が散らばる町では、遠い相手へ声を送っても返事は一生分おくれて届く。だから誰も答え合わせが間に合わない。開かずにたまった筒を前に、孫娘のマキが「はっきりさせよう」と一本を開ける。
町でいちばん古い落とし物――なにもかものはじまりに生まれ、すぐ消えて、だれも見たことのないもの。それを四十年さがす揺れ聞きのゲンさんが、今日つかまえたのは、三軒さきの床下で鳴った小さな歯だった。
ミナは毎晩、家でいちばん寒いすみっこに、母さんのざぶとんをしく。来る人の分だという。姉のナオは「来やしない」と笑うけれど、その席がなぜいちばん寒いのかを、ナオはほんとうは知っている。
弟のコウは、むこうの星の町にばあちゃんの新しい合図を見つけたと言いはる。姉のナナは、あれは七年前の光だと知っている。屋上で撮った古い一枚を引っぱり出すと、その星はもう写っていて、裏にばあちゃんの字があった。
畑に落ちた黒い石は、ぼくの知らないくらい遠くから来たらしい。でもじいちゃんは毎朝それを打って、いろりの火をおこすだけ。黒い旅のしるしが、だんだん小さくなっていく。
船に「止まる」仕掛けのない町では、速さを手放さないと岸に着けない。町いちばんの船乗りタカは、三年ぶりに立派な速さで帰ってきて、そのまま毎日、わが家の島を通り過ぎていく。
この町の家は、ほうっておくと底霧の底へ沈んでいく。だから隣どうしで押し上げてやる。フデ婆さんの家は町でいちばん低くて重い。毎週きっちり同じだけ沈むその家に、若いノボルが押しにくる。町はえらい子だと褒めた。
おやつは年上から順に回る。いつも最後で損をするりくは、体の材料はとほうもなく昔の粒でできているとばあちゃんに教わる。ならば先週生まれた妹だって、とんでもない年上のはずだ。
この町では、だれかを深く好きになるほど体が光り、そのぶん本人は冷えていく。町いちばんに明るいキヨの家は、町いちばんに寒い。気の毒がる若い隣人に、キヨが返した一言。
月の谷では、賢くて高い機械から順に割れていく。型番もない初代の試作品ぺたが、なぜか十年生き残っている。継ぎ当てだらけの体には、ちょっとした自慢がある。
小さすぎる星には、規則上ぜったいに大きな家は建てられない。なのに、でんと建っていた。二年間ひとつも違反を見つけられなかった窓口係が、初めての手柄に出かける話。
宇宙引越し業者の草間は、「遠くに運ぶほど軽くなる荷物」という奇妙な依頼を受けた。思い出の品を娘のもとへ届けたいという老婦人の話。規約と現実のあいだで、業者にできることは一つだった。