宇宙小説
宇宙を舞台にした、ちょっと不思議な物語たち。
ショートショート
いちばん正確な灯だけが、だれもいない場所を指した
湊いちばん古い迎え船トモには、灯台さんの光そのものではなく、その一つ先の暗がりを指す変な癖があった。新しい正確な灯がお披露目される晩、湊守の子ノエは、みんなが拝む光がとうに通り過ぎたあとのものだと気づく。
逃げ文句だった「曇ったら」に、空が本気で応えた朝
この星で「曇ったら」は「やらない」の丁寧語だった。だからみんな、約束を守らずに済んできた。ところがある朝、空にほんとうに白い雲がわいて——。
燃えつきた火のそばに残った姉が、いちばん近くて暖かかった
オヤビという火が消えても、その重さは残って、家々はぐるぐる回りつづける。明るい火へ逃げた弟が、暗い火に残った姉を迎えに行くと、消えた火のそばのほうが、ずっと暖かかった。
百年ごしの返事は、だれも覚えていない問いへの「はい」だった
遠い星からの便りは、一年に一行しか届かない。一通を読み終えるには人ひとりの一生がいる。五十年写しつづけた老女がはじめて最後まで読んだ一通は、町自身がとうに忘れた問いへの、たった一語の返事だった。
宇宙一こわい穴の隣で、みんなお玉ばかり守っていた
婚約者の実家は、宇宙でいちばんこわい穴のすぐ隣にあった。ごみは放れば消えるし、汚れ水も勝手に流れていく。便利だと笑う家族の前で、ぼくだけが一日じゅうびくびくしていた。
燃えつきた星の宝を、欲ばりが自分で灰と書いた
光の消えた古い星のまわりを、小さな灯が五十年、目で追えないほど速く回っている。その灰は奥で固く光る石に変わっていた。だが宝を掘るには、灯を引きとめる重さを、ぜんぶ運び出すしかない。
町いちばんの通り過ぎ屋が、淡い環を撮り消した
はだか星には何もない――町いちばんの通り過ぎ屋ハヤは、いちばん近くから一枚撮ってそう決めた。でも暗い窓から毎晩ながめていた甥のツグは、そこに淡い環があるのを知っていた。明るくするほど見えなくなるものの話。
数に入らない小さなものが、家をいちばん重くしていた
今夜を逃せば、次に明るい世界へ渡れるのは一生あと。タカは大きな物を家から捨てて岩から浮かせようとするが、家はびくともしない。帳面に載らない、こぶしより小さなものたちの話。
町いちばんまぶしい子を、地味な子だけが見つけた
光るのがいちばんえらい町で、まぶしすぎるタケはかくれんぼに勝てない。今日こそはと、自分より明るい常夜灯のそばに隠れた夜。だれにも見つからない場所で、地味なスズだけが、そっと手をかざした。
じいちゃんのほら話を、孫が砂ひとつまみで本当にした
むこうの星の生まれだと五十年言い張るゲンじい。証言でも思い出でもなく、持ち帰った砂ひとつまみだけが出自を決めるこの町で、孫はむこうへ旅立った。帰ってきた孫が、生まれ壺にした一手の話。
どっしり構えた親方は、一年たっても振り向けない
この町では、えらい人ほどゆっくり回る。町いちばん重い回り親方トクは、一年に一度しか正面を向かない。速く回りすぎるのが恥ずかしい女の子ミナは、そのどっしりした親方に憧れていた。
会ったこともない次の番人に、月の家を明け渡す
月の家は番人がひとりきり。去る便と来る便は地上でそろわず、次に来る人とは一生会えない。十二年ぶりに帰るトノ婆さんは、顔も知らない相手のために、きちんと棚を高くしておく。
空じゅうが騒がしい夜に、娘は父さんの顔だけを見ていた
百代に一度、空のはしとはしに二つのあかりが出る夜。父は幼い娘に西の大玉を見せようとするが、ノノはずっと父さんの顔ばかり見ている。二度と来ない古い光と、今夜しかない顔の話。
こわいもの知らずの祖父の手が、命綱の先でふるえていた
村で外の壁を直すのは、子どもの憧れの仕事だ。綱を握る「おるすばん」役がいやなトトは、ある朝はじめて祖父の命綱をあずかる。息もできない外と、たった一本の綱でつながって。
町いちばんの男前は、目の前の老人だと信じてもらえない
四十年ぶりに故郷へ帰ったトビを、町はどうしても本人と認めない。西の空には旅立った晩の若い顔が、いまも町いちばんの男前として光っているのだから。
六十年、まばたきもせず星をにらむ猫がいる
うちのゴマは、朝も夜も西の空の青白い星をにらんでいる。座布団は六十年でゴマのかたちにへこんだ。孫はばかな猫だと笑う。けれど、その星が一生に一度だけかげる晩に――。
毎年ほんの少し、丘のはしの床几が遠くなる
大あかりと子あかりが、ちょうど同じ大きさに見える。正しい場所に立てば、子あかりは大あかりの中にすとんとはまる。ゼン爺さんが五十年、床几を家へ寄せてくれないわけ。
みんながまん中と信じた銅像は、真ん中じゃない
月のおへそ広場では、中心係のロボット・マルさんが毎朝まん中に白い丸を描く。ところがその丸は、毎晩ほんの少し横へずれる。ずれの先には、そばを通ったものが消える、だれも拝まない一角があった。
先にコップをふせたおれに、六十年おくれて返事が来た
遠い星へ行った幼なじみと、この町は糸電話でつながる。声がとどくのに何十年もかかる。つめたく突きはなして、さきにコップをふせた——そのおれに、六十年おくれて返事が来た夜の話。
遠くばかり見る町は、すぐ上の顔を知らなかった
うちの町では、遠くを見るのがいちばんえらい。遠見くらべで三年びりのぼくが、ある昼、洗いおけの水にうつった日ぼしの顔を見てしまう。つるんとした金の皿だと、だれもが思っていたのに。
まん中の席を奪った日、婆さんは笑って縁へ転がっていった
まわり町では、いちばん重い者がまん中に座る。ゴロはその席がほしくてたまらない。町じゅうの物がわが家へ転がり寄るよう、こつこつ仕込んで――とうとう、まん中の座布団を手に入れた日の話。
五十年ながめた死に提灯に、点がひとつ増えた
祭りの晩、ナギは近所のスエ婆さんを呼びに行く。婆さんは五十年、みんなが「死に提灯」と呼ぶ遠いあかりだけを見つづけていた。変わらないはずのそのあかりに、今夜、小さな点がひとつ灯る。
町いちばん早く巣立った兄には、あっためる雲がない
生まれた子をくるむ「うぶ雲」を、いちばん早く吹きとばした子がいちばんえらい。七つで巣立った兄カンは遠い町の目印になった。十二になっても雲がとれない弟フクは、ぐずと呼ばれる。ある晩、産婆が古い籠をのぞきに来る。
追いつきたい大木は、もうそこにいなかった
カズの灯り木は、まだ親指くらい。海のむこうの島には、生まれつき大きいままの大木が立つ。追いつきたいカズに、隣のトメ婆さんは言った。追いかけっこの相手は、もういないんだよ、と。
じっとしている灯りは、みんなまぐれだった
遠い岸に新しい灯りがつくたび、町は名前をつけて祝う。けれどヌイ婆さんだけは喜ばない。昔いちど、まぐれの灯りを本物と信じて笑われたからだ。帳面に測りつづけた末に見えたのは、町の決まりのちょうど逆だった。
もれる湯気の柱だけが、帰り道の目印だった
丘の上の暖かい家ほど、屋根から空気がもれて白い湯気の柱を立てる。夫は「もったいない」と隙間をふさぎ続けるが、もれない家は空き家と見分けがつかない。長い夜、妻はふさいだ継ぎ目に指をかける。
地元の土は、よそ者の髪から落ちた砂だった
空気のない岩の町の床屋トメは、落ちる砂で客の生まれた星を当ててしまう。地元の寄り合いに入りたい男カジが髪を整えにくるが、服にこびりついた砂は、本人よりずっと正直だった。
同じ日に生まれて、なぜか片方だけ年をとった
町のはずれのベンチで、マツとユキは六十年ならんで座ってきた。ユキは今も『若い人』と呼ばれ、マツは年寄り扱いされる。同じ日に生まれた二人なのに。ある夕方、ユキははじめてマツの顔の反対側を見る。
落ちてきた客の故郷は、灰だけが知っている
遠くから落ちてくる客は、着いたときにはもう灰。トメ婆さんは、その灰だけでどこの空の子か言い当てる。孫のハルは一度でいいから、客の口から故郷を聞きたかった。
まっ白に塗ると、ばあちゃんの家は消える
町のはしに、まぶしい大きな光がある。そのまぶしさの中に、ばあちゃんの家はとけて見えない。孫のぼくは、みんなに見えるようにしてあげたかった。でも、ばあちゃんは、見えないほうがよかったらしい。
開けない筒が、戸棚に七本たまっている
星々に家族が散らばる町では、遠い相手へ声を送っても返事は一生分おくれて届く。だから誰も答え合わせが間に合わない。開かずにたまった筒を前に、孫娘のマキが「はっきりさせよう」と一本を開ける。
宇宙のはじまりを探す窓口が、見つけるのは子どもの歯
町でいちばん古い落とし物――なにもかものはじまりに生まれ、すぐ消えて、だれも見たことのないもの。それを四十年さがす揺れ聞きのゲンさんが、今日つかまえたのは、三軒さきの床下で鳴った小さな歯だった。
家でいちばん寒い席を、毎晩あけておく
ミナは毎晩、家でいちばん寒いすみっこに、母さんのざぶとんをしく。来る人の分だという。姉のナオは「来やしない」と笑うけれど、その席がなぜいちばん寒いのかを、ナオはほんとうは知っている。
むこうの星は、ばあちゃんの台所時計だった
弟のコウは、むこうの星の町にばあちゃんの新しい合図を見つけたと言いはる。姉のナナは、あれは七年前の光だと知っている。屋上で撮った古い一枚を引っぱり出すと、その星はもう写っていて、裏にばあちゃんの字があった。
いちばん遠くから来た石で、じいちゃんは火をおこす
畑に落ちた黒い石は、ぼくの知らないくらい遠くから来たらしい。でもじいちゃんは毎朝それを打って、いろりの火をおこすだけ。黒い旅のしるしが、だんだん小さくなっていく。
手を振ったまま、わが家を通り過ぎていく男
船に「止まる」仕掛けのない町では、速さを手放さないと岸に着けない。町いちばんの船乗りタカは、三年ぶりに立派な速さで帰ってきて、そのまま毎日、わが家の島を通り過ぎていく。
町いちばんのお人よしと、いちばん重い婆さん
この町の家は、ほうっておくと底霧の底へ沈んでいく。だから隣どうしで押し上げてやる。フデ婆さんの家は町でいちばん低くて重い。毎週きっちり同じだけ沈むその家に、若いノボルが押しにくる。町はえらい子だと褒めた。
うちでいちばんの年寄りは、生後八日の妹
おやつは年上から順に回る。いつも最後で損をするりくは、体の材料はとほうもなく昔の粒でできているとばあちゃんに教わる。ならば先週生まれた妹だって、とんでもない年上のはずだ。
いちばん明るい家の、いちばん寒い人
この町では、だれかを深く好きになるほど体が光り、そのぶん本人は冷えていく。町いちばんに明るいキヨの家は、町いちばんに寒い。気の毒がる若い隣人に、キヨが返した一言。
継ぎ当て十七枚の、いちばん古い一枚
月の谷では、賢くて高い機械から順に割れていく。型番もない初代の試作品ぺたが、なぜか十年生き残っている。継ぎ当てだらけの体には、ちょっとした自慢がある。
建ててはいけない大きさの家
小さすぎる星には、規則上ぜったいに大きな家は建てられない。なのに、でんと建っていた。二年間ひとつも違反を見つけられなかった窓口係が、初めての手柄に出かける話。
重さのわからない荷物
宇宙引越し業者の草間は、「遠くに運ぶほど軽くなる荷物」という奇妙な依頼を受けた。思い出の品を娘のもとへ届けたいという老婦人の話。規約と現実のあいだで、業者にできることは一つだった。