宇宙小説

宇宙を舞台にした、ちょっと不思議な物語たち。

ショートショート

転がって戻ってきた玉

2026年6月22日

地球の祖母は、火星の孫の誕生日ごとに変形が増える最新ロボを送り続けた。けれど七年目、火星から戻ってきた最初の玉は、片側だけがすり減っていた。

日の差さない庫

2026年6月13日

月の南極、四十六億年だれも見たことのない谷底で、古い庫がひとりでに貴重なものを作り続けていた。本部が「見える化」しろと言い出した翌月、計上はゼロになった。

建ててはいけない大きさの家

2026年6月11日

小さすぎる星には、規則上ぜったいに大きな家は建てられない。なのに、でんと建っていた。二年間ひとつも違反を見つけられなかった窓口係が、初めての手柄に出かける話。

旅立ちの夜

2026年6月10日

宇宙機器輸送会社の梱包職人・村瀬は、十年間ずっとやらなかったことを、今夜だけはついやってしまった。

午前だけの公園

2026年6月8日

火星の地方都市に、予算の都合で朝だけ出現する公園がある。利用者はひとり。終日公園にしたら、そのひとりも来なくなった。

Bブロックの風

2026年6月7日

宇宙貨物ターミナルのBブロックで、12年間ただ定位置に立ち続けた田沢という男がいた。遅延ゼロの記録の意味を、誰かが初めて理解したのは彼が退職する日だった。

片道分の重さ

2026年6月5日

惑星間急送コンテナ HC-7719 は、ルートを進むたびに少しずつ軽くなる。最終惑星に着いたとき、中身はゼロだった。

台車のほうが重い

2026年6月4日

宇宙ステーションの引越屋で働く真鍋は、中心部に引っ越す客の荷物が毎回減っていくことに気づく。荷物がなくなれば、引越屋も要らなくなる。

重さのわからない荷物

2026年6月3日

宇宙引越し業者の草間は、「遠くに運ぶほど軽くなる荷物」という奇妙な依頼を受けた。思い出の品を娘のもとへ届けたいという老婦人の話。規約と現実のあいだで、業者にできることは一つだった。

少食の隣人

2026年5月30日

宇宙ステーション商店街の定食屋に、十年間「小盛りで」と頼み続ける常連がいる。地味で、控えめで、存在を忘れそうになる人。

遠回りでお願いします

2026年5月29日

十七年のタクシー運転手・堀川は知っていた。「最短で」と言う客ほど、遅く着く。火曜日の朝、スマホのナビを見せてきた男が乗り込んできた。

近すぎる隣人

2026年5月27日

宇宙移住者向けの格安集合住宅に越してきた主婦・高田が、管理組合の苦情窓口に「隣が近すぎる」と訴えたら、思わぬことを言われた。

帯電仕上げ

2026年5月26日

木星圏のコインランドリーでは、雷で洗濯機が壊れるたびに保険を申請する。だが保険会社の回答は、いつも予想の斜め上だった。

通り抜ける人

2026年5月20日

配属された部署の成績は必ず上がり、去ると必ず下がる。安西拓也は、三年で五つの部署を渡り歩いた。本人は何もしていない。

完璧な仕事

2026年5月16日

南極基地の清掃を終えた工藤のもとに、泣きそうな声で電話がかかってきた。「床の埃、全部残しておいてほしかったんです」

異常なし調査報告書

2026年5月15日

火星の氷データを監視するバイトに就いた高校生。仕事はひたすら「異常なし」を報告するだけだった。ある夜、初めて「異常あり」のデータが届くまでは。

近すぎた記録係

2026年5月13日

岩の変形を測り続けるために送り出された探査機。近づくほど精度は上がる——そのはずだった。最接近の夜、送信バッファに入っていたのは、岩のデータではなかった。

回らない皿

2026年5月12日

商店街の回転寿司で、レーンの一か所だけが止まった。店主の滝沢は恥ずかしくてたまらない。だが直すたびに客足が減る。

軌道変更届

2026年5月11日

人類が岩石の進路を変えた日、宇宙交通管理局の窓口に一枚の書類が届いた。担当係員は判を手にしたまま、しばらく動けなかった。

通り抜けていく

2026年5月9日

何も起きなかったことを証明するのが仕事の男が、何かが起きた日に初めて直面する問題。宇宙規模の出来事と、紙一枚の書類が交差する官僚喜劇。

だいたい二兆

2026年5月6日

見えない何かが毎秒数兆個、家を通り抜けている。市の新しい手当の申請に、母は三ヶ月かけて正確な記録をつけたが、市役所の回答は予想外だった。

七年目の初日

2026年5月5日

宇宙探査プロジェクトの担当に内定してから七年。研修また研修、待機また待機を経て、ようやく辞令が出た。封を開けると——

狂いどき

2026年5月4日

商店街の時計修理店。修理済みの時計が毎年同じ時期に「また狂った」と戻ってくる。おじいちゃんの腕に欠陥があるのか——孫の美咲が台帳の一番下を見たとき、そこにはもう次の日付が書いてあった。

倉田カメラ

2026年5月3日

教室を毎朝撮り続ける美術教師は、昨日との違いを何でも見抜く。生徒たちが恐れる「倉田カメラ」の正体は、しかし、まったく別のところにあった。

集まる鍋

2026年5月3日

何を炒めても具材が中心にきれいに寄る中華鍋がある。テレビ取材を前に、店主は自分でもその理由を知りたくなった。

近隣環境

2026年5月3日

住居移転審査端末の第7号は、同じ星域からの転出申請を次々と却下していた。却下理由はいつも同じ定型文。

五月の流れ星

2026年5月2日

毎年5月5日、ひなはおじいちゃんと庭に出て流れ星に願い事をした。翌日には必ず叶った。でも今年は、初めておじいちゃんがいない5月だった。

熱い側

2026年4月30日

非対称なデータを報告するために上司の部屋へ向かった田辺は、自分が冷静な研究者だと信じていた。

吐き出し口

2026年4月29日

ブラックホール付近の保守作業員・坂田は、なぜか毎回吹き飛ばされる。上司はもう呆れている。坂田自身もよくわかっていない。

利害一致

2026年4月29日

月面基地の建設を巡る国際交渉。崇高な理念と現実の動機の間には、ちょっとした距離がある。

目覚めた日

2026年4月28日

四十年前に沈黙した天体を、三十年聴き続けた研究者はもういない。ある六月の朝、信号は戻った。ただし、同じものではなかった。

保留扱い

2026年4月27日

宇宙サンプル遺失物取扱所の係員、田中は3ヶ月前から届いている未処理案件を片付けようとしていた。案件番号MARS-2026-0113。担当者不明、連絡先不明。処理票の底に、とんでもない数字が書いてあった。

波紋係の一日

2026年4月27日

誰にも気づかれずに何かが通り過ぎた。それを記録するのが彼女の仕事だった。今日は少し違う何かも通り過ぎたが、それは記録に残らない。

花粉のない星

2026年4月24日

花粉症がひどいので水蒸気だけの惑星に移住したい、という申請書が届いた。審査官の山本は、読みながら少しずつ黙っていった。

100億の目

2026年4月24日

宇宙の10億個の銀河を追跡する観測システムの管理者・田村は、月末の成果レポートを提出できずにいた。理由は単純で、笑えない。

青いほうは嘘です

2026年4月20日

食堂で週に一度、彗星の青い尾を『嘘だ』と言う老人がいる。その理由を聞いた観測員は呆れるが、その夜、同じ形の小さな嘘を恋人に送る。

夜勤の窓

2026年4月19日

月のまわりをぐるぐる回る小さなステーション、Gateway。30日交代で派遣された乗員は、毎晩AIが見せてくれる月の夜景を眺めていた。ある日、ふと気づいてしまう。

3分後発、火星行き

2026年4月18日

駆け込み乗車の放送は、いつの時代もあわただしい。ただ、行き先が火星になっても、そこに乗ろうとする人間の事情はそうそう変わらない。

L2の駐車場係

2026年4月18日

地球から百五十万キロ。ラグランジュ点L2にひとりで派遣された駐車場係は、今日も誰とも会えない勤務についている。

今日の太陽の機嫌

2026年4月16日

毎日「穏やかな太陽です」と伝えるだけの地味な予報番組。新人にも視聴者にも飽きられているこの仕事を、主人公はなぜ辞めずに続けているのか。

4つと1つ

2026年4月14日

にぎやかな4人きょうだいの家と、ひとりっ子の家。隣り合わせに暮らす二つの家族が、ずっと抱えていた小さな羨望の話。

最後の窓

2026年4月11日

土星の環が消えかけている時代。『環の見える部屋』のプレミアム料金で稼いでいたホテルの支配人が、最後の一室を売り損ねる。

月の入国審査

2026年4月9日

月面基地の入国審査官は、書類の不備に対して容赦がない。たとえ相手が38万キロを旅してきた宇宙飛行士でも。

窓の向こうの青

2026年4月8日

月面基地で『地球の見えない部屋』を希望した新人に、先輩は理由を聞けなかった。三ヶ月後、答えは配置転換の書類の中にあった。

最後の周回

2026年4月7日

重力波アラートを受け取った永山は、信号の中に0.3ミリ秒の異常を見つけた。ノイズだと思いたかった。

沈黙の色

2026年4月6日

惑星の大気に色をつける仕事を定年で辞めた男が、眼科で告げられた診断は予想外のものだった。