その申請書は、宇宙区画整理事務所に届いた数万件の苦情のうち、もっとも丁寧な書き方をしていた。

私は138億年前、ボイド第774区画のど真ん中に配置されました。 近隣に銀河はなく、ガスの供給も乏しく、友人と呼べる天体が一つもありません。 一方で、フィラメント交差点Aに配置された銀河たちは豊富な物質を受け取り続け、今や私の100倍以上の質量に成長しています。 これは不公平ではないでしょうか。場所の抽選をやり直していただくことはできますか。

担当官のモルは、申請書を三度読んでから、定型文のスタンプを手に取った。

しかし押せなかった。

「やり直し不可」のスタンプは何万回も押してきた。でもこれほど礼儀正しい苦情は初めてだ。138億年間、誰も来ない場所でこつこつと書類を書き続けたことが、文面の端々から伝わってきた。

モルは上司に電話した。

「ボイドの住人から苦情です。場所の抽選やり直しを求めています」

「却下」

「でも、書き方がすごく丁寧で」

「関係ない。場所は宇宙誕生時の密度のムラで決まる。担当者は存在しない」

「でも苦情先として当事務所の住所が」

「それも誰かが間違えて書いたんだ。うちに来られても困る」

モルは電話を切り、もう一度申請書を見た。

差出人の住所欄には、誰もいない空間の座標が律義に記されていた。

返信先として書かれた電磁波の周波数を確認し、モルはゆっくりと返信を書き始めた。定型文ではなく、自分の言葉で。

場所の変更はできません。しかし、138億年間記録され続けたあなたの存在は、先日JWSTという望遠鏡によって初めて地図に載りました。誰もいない場所にいたことで、宇宙の構造を測る基準点になれたのです。

送信ボタンを押してから、モルは気づいた。

電磁波が届くまで、数十億年かかる。