系外惑星カタログの更新は、毎週火曜の午前中に行う。
自動検出アルゴリズムが一週間ぶんの観測データを処理し、新しい惑星候補をリストアップする。私の仕事は、それを一件ずつ確認して、カタログに登録するかどうかを判定することだ。
惑星の数が十万を超えたあたりから、作業は単調になった。ホットジュピターが3件、スーパーアースが7件、ミニネプチューンが12件。パラメータを確認し、既知の惑星と照合し、登録ボタンを押す。繰り返し。
その火曜も、いつも通りだった。
リストの127件目に、奇妙なエントリがあった。
恒星のスペクトル型はG2V。質量は太陽の1.00倍。惑星の軌道長半径は1.00AU。公転周期365.25日。質量は地球の1.00倍。半径も1.00倍。
ESI(地球類似度指数)は1.000。
最初はバグだと思った。テストデータが紛れ込んだのだろう。ESIが1.000になるのは地球だけだ。定義上そうなっている。
ログを確認した。データは本物だった。前日の深夜、ロマン望遠鏡のマイクロレンズ観測で検出されていた。座標は銀河中心方向、距離は約26,000光年。
同僚のカワムラに見せた。彼は30秒ほど画面を見つめてから言った。
「偶然の一致だろ。パラメータの有効桁数が足りないだけだ」
そうかもしれない。質量が1.00倍と表示されていても、実際は1.003倍かもしれないし、0.997倍かもしれない。観測精度には限界がある。「地球と同じに見える」ことと「地球と同じである」ことは違う。
私はその惑星をカタログに登録した。仮符号はRMLP-2026-08841。特別扱いはしなかった。
翌週の火曜、アルゴリズムがRMLP-2026-08841の追加データを出してきた。大気のスペクトル分析が進んでいた。窒素78%、酸素21%、アルゴン0.93%。二酸化炭素はごく微量。
私の指が止まった。
この組成は地球の大気そのものだ。偶然の一致にしては、あまりにも正確すぎる。
カワムラに報告すると、彼は今度は笑わなかった。
「JWSTで追跡観測を申請しよう」
申請が通るまでに6週間かかった。JWSTの観測時間は争奪戦だ。だが大気組成のデータを見た審査委員会は、異例の速さで時間を割り当てた。
結果が届いたのは、申請から2か月後の火曜の朝だった。
大気中にメタンと酸素が共存していた。これは生命の存在を示す強力な指標だ。非生物的なプロセスでは、この二つのガスは共存できない。どちらかが他方と反応して消えてしまう。両方が存在し続けるには、絶えず供給する何かが必要だ。
さらに、惑星の表面温度は推定15度。海が存在する可能性が極めて高い。
研究チームは膨れ上がり、論文のドラフトが回り始めた。「第二の地球発見か」とメディアが騒ぎ始める前に、論文を仕上げなければならない。
私はカタログの更新作業を続けていた。論文は他の人に任せた。私の仕事は登録だ。
ふと、気になったことがあった。
RMLP-2026-08841の座標を銀河座標に変換し、反対側から見た場合の座標を計算した。つまり、あの惑星から見て、太陽系がどの方向に見えるかを調べた。
距離は26,000光年。銀河中心を挟んで、ほぼ正反対の位置。
あの惑星にもし知的生命がいて、もし彼らも系外惑星のカタログを作っているとしたら。彼らの望遠鏡が銀河の反対側にある小さな黄色い恒星を観測したら。
その恒星の三番目の惑星は、彼らのカタログにこう記録されるはずだ。
ESI: 1.000。
私はコーヒーを一口飲んで、128件目のエントリの確認に戻った。