宇宙交通管理局の窓口に、書類が一枚届いたのは午後2時過ぎだった。
担当の吉田は封筒を開けて、三秒固まった。
「軌道変更届(事後申請)」とある。変更対象の欄には「ディモルフォス(小惑星)」。変更方法の欄には「宇宙船を体当たりさせた」。変更量の欄には「約33分短縮」。
吉田はつい、もう一度書類の上から下まで読んだ。
事後申請、というのがまずい。うちの規程では、軌道変更は事前に申請して承認を得てから行うことになっている。「岩石だから許可いらないと思っていました」という言い訳は通じない。岩石でも衛星でも、軌道を変えるなら届け出が要る。
吉田は判を取り出した。「受理」の判と「返送」の判、二つある。
ふと「変更理由」の欄を見た。
──隕石が地球に当たると困るから。
そう書いてあった。
吉田はなんとなく判を持ったまま、窓の外を見た。晴れた空だった。どこかに小惑星の軌道変更が効いている宇宙が続いているはずだが、ここからは見えない。
彼は「返送」の判を、書類の右上に押した。
次の申請では、変更理由の書き方の手引きを同封してもらうつもりだった。「困るから」は理由として不十分だ、と書き添えて。