カトウは自分の仕事に誇りを持っていた。

「惑星大気予測士」という肩書きは、銀河系のどこを見渡しても珍しい職業だ。正確に言うと、太陽系の外にある惑星の大気——どんな雲が浮かんでいるか、どんな気体が漂っているか——を、望遠鏡で直接確かめる前に当てる仕事だ。

当てる、というと博打めいて聞こえるが、本人はそう思っていなかった。物理の法則と、温度と圧力のデータがあれば、答えはほぼ一本道だ。カトウの予測精度は93%を超えていた。チームの中で断トツだった。


その日の朝、カトウはコーヒーを飲みながら観測データの速報を開いた。

標的はいつも通りだ。12光年先の惑星——木星の6倍くらいの大きさで、主星からたっぷり離れている。温度も測定済み。カトウは先月、予測書を提出していた。「A雲、確度97.3%」と書いた。

自信の根拠はシンプルだ。あの温度帯なら、あの成分が雲になる。標準モデルが言っているし、似た条件の惑星のデータもある。97.3%というのは控えめな数字でさえあった。


速報の最初の行を見た瞬間、カトウは「あ」と声が出た。

A雲、検出されず。代わりにB雲——別の成分の雲——が確認された、とある。

カトウはゆっくりコーヒーを置いた。

「……B雲」

もう一度読んだ。変わらなかった。


チームリーダーのヤマシタが入ってきたのは10分後だった。

「カトウさん、速報見ました?」

「見た」

「えっと、A雲じゃなかったですね」

「わかってる」

「あの……97.3%でしたよね、確度」

「わかってる」とカトウはもう一度言った。今度は少し低い声で。

ヤマシタはカトウの顔を見て、コーヒーメーカーに向かった。特に何も言わなかった。賢い判断だと思った。


カトウは一日かけてデータを見直した。

標準モデルを引っ張り出して、入力値を確認した。温度の測定値も疑った。装置の誤差も計算した。でも、結論は変わらなかった。観測が正しい。予測が外れた。それだけだ。

夕方、カトウは紙に書いた。

「なぜA雲ではなくB雲が出たか。仮説:温度の分布が均一でない可能性。あるいは、モデルの前提条件Xが成立しない場合がある。」

仮説を書き出していくと、だんだん面白くなってきた。こういう「外れた理由を追う」作業は、的中した日の翌日よりずっと楽しい。正直なところ。


翌朝、ヤマシタがまたコーヒーを持ってきた。

「昨日の件、整理できましたか」

「まあな。モデルを直す必要がある。三か所くらい」

「それって……結構大変じゃないですか」

「大変だ。でもやる」

ヤマシタは少し考えて言った。

「次の予測はいつですか?来週?」

「来週」

「確度、何%で出しますか?」

カトウはコーヒーを飲んだ。少し間を置いてから答えた。

「95%」

「えっ、また上げるんですか」

「外れた理由がわかったから、今度は自信がある」

ヤマシタは呆れたような顔をした。でもカトウは本気だった。外れた日の翌朝というのは、何かが解けた朝でもある。それを誇りにするのを、やめる理由がない。