件名:膨張速度の公式値に関する苦情(第17回)

宇宙較正局 定数管理課 御中

拝啓、時下ますますご膨張のこととお慶び申し上げます。

さて、弊社は銀河間配送を営むヤマモト・インターステラー・ロジスティクスでございますが、貴局が公示している膨張速度(H0 = 67.4 km/s/Mpc)について、重ねて修正をお願い申し上げます。

弊社の配送車両は貴局公示の数値に基づきナビゲーションを設定しております。ところが実際の宇宙空間では、目的地の銀河が公示値より約9%速く遠ざかっており、到着予定時刻に恒常的な遅延が発生しております。

先月だけで4,827件の配送遅延クレームが届きました。

とりわけ深刻なのは生鮮品でございます。ケンタウルス座A銀河のお客様に発送した有機分子セット(生命の種キット・プレミアム)は、到着時にはすでにアミノ酸が分解しておりました。お客様は「届いた頃には惑星の冷却期が終わっていた」とおっしゃっています。

弊社独自の計測では、実際の膨張速度は73.5 km/s/Mpc前後でございます。この値でナビを再設定したところ、到着精度は劇的に改善いたしました。しかし貴局の認証を受けていない数値を使用することは宇宙航行法第4条に抵触するため、やむなく公式値に戻しております。

結果として、弊社は「正しい数値を知っているのに、法律のせいで間違った数値を使わされている」という状態に陥っております。

なお、本件については過去16回にわたり苦情を申し入れておりますが、貴局からの回答はいずれも「標準モデルに基づく理論値は正確であり、観測との差異は系統誤差の可能性がある」というものでした。

系統誤差で4,827件の配送遅延は発生しません。

添付資料として、弊社顧客からの苦情メール(抜粋3万件)および、独立した7つの測定チームによる実測値レポートを同封いたします。いずれもH0 = 73前後を示しております。

貴局におかれましては、「理論値と実測値が合わない場合、間違っているのは理論のほうである」という科学の基本原則に立ち返っていただけますよう、切にお願い申し上げます。

最後にひとつだけ。

弊社の新人ドライバーが、貴局の公式マニュアルを読んで「宇宙の膨張速度は67.4である」と覚え、初回配送で目的地を1.2メガパーセクも通り過ぎました。回収に3億年かかります。

この損害の請求先は、定数管理課でよろしかったでしょうか。

敬具

ヤマモト・インターステラー・ロジスティクス株式会社 代表取締役 山本 銀河


追伸:本状の配達も遅延しました。理由は言うまでもありません。