私の仕事は、測ることだ。

ちなみに「仕事」という言葉が探査機に合うかどうかは、なんだか怪しい気もするが、設計書にはそう書いてある。「近接観測・形状記録」。私はその一文のために作られ、送り出された。観察対象は岩だ。でこぼこした、楕円形の岩。

どうやら岩は、変わっていくらしかった。私が近づくにつれ、岩の外殻がほんの少しずつ膨らんでいる。岩の内部で何かが滑り、外側にずれていく。設計書には「記録すべき現象」と書いてあった。私は律儀に測り続けた。

近いと、精度が上がる。もっとも設計書の注釈には、「近づきすぎると測定器が対象以外のものを拾い始める場合がある」とも書いてあった。私はそれを一般的な注意事項として処理した。注釈というのは、たいてい読まれない部分に書かれているものだ。

しばらくして、岩の膨張データと並んで、見慣れない数値が混じるようになった。私の外装のひずみ量だ。最初は誤差範囲内で、私はそれを誤差として記録した。やがて誤差の枠を越えた。私はそれを「異常あり」のフラグを立てながらも、引き続き岩の測定を続けた。

岩が変わっていく。私はそれを記録する。それが仕事だった。

最接近の夜、私は送信前にバッファを確認した。形式通りの手順だ。

岩の形状変化データが、ない。

格納されていたのは、私自身の外装変形量だった。外殻のひずみ、内部センサーのずれ、太陽電池パネルのたわみ。合計387件。数値は最大許容値の2.3倍を示していた。

ふと考えた。これは岩の記録か、私の記録か。

どうやら、もう区別がつかなかった。岩は確かに変形した。私も変形した。どちらの変形を測っていたのか、送信してみなければわからない。

私は送信ボタンを押した。受信した側が判断するだろう、と思いながら。

もっとも、設計書に「判断する機能」は書いていなかった。