お風呂の蛇口を思い浮かべてほしい。赤いマークがお湯で、青いマークが水。これはもう体に染みついた感覚だ。
ところが夜空では、この感覚がまるごとひっくり返る。赤い星のほうが「ぬるく」、青白い星のほうが灼熱なのだ。
しかも、星の色は気分や派手さで決まっているわけではない。色そのものが、その星の表面温度を正直に映した目盛りになっている。
赤い星はぬるく、青い星は灼熱
同じ夜空にある星でも、よく見ると色が違う。オレンジがかって見える星もあれば、青白く鋭く光る星もある。
一番わかりやすいのが冬のオリオン座だ。右上の肩にあるベテルギウスは赤っぽく、左下の足もとにあるリゲルは青白い。この2つを見比べれば、肉眼でも星の色の違いがはっきりわかる。
で、ここが直感に逆らうところなのだが、赤く見えるベテルギウスのほうが表面温度は低い。青白いリゲルのほうがずっと熱い。
ざっくりした数字で言うと、赤い星の表面はおよそ3,000度。青白い星は3万度を超える。10倍ちがう。
白状すると、私もしばらく「赤い星=燃えさかっていて熱い」と思い込んでいた。炎のイメージに引きずられるのだ。でも実際は逆で、赤はいわば「火力が弱い」側にいる。
ではなぜ、温度が色になって現れるのか。
色が温度計になる仕組み
鍛冶屋が鉄を熱する場面を思い出してほしい。最初は黒いままの鉄が、温度が上がるにつれて暗い赤になる。さらに熱すると明るい赤からオレンジへ、もっと熱すると白っぽく輝きだす。
電気コンロやトースターのヒーターが赤く光るのも、同じ理由だ。熱せられたものは、その温度に応じた色の光を出す。
星もこれと同じ。巨大な高温のガスの球で、表面の温度に応じた色で光っている。だから色を見れば、温度が読めてしまう。
ここで少し立ち止まってほしい。鉄は「赤→白」までしか見たことがないかもしれない。でも、もっともっと熱くすると、光の色は白を通り越して青い側へ寄っていく。
熱いものほど、出てくる光のピークが赤い側(波長の長い光)から青い側(波長の短い光)へずれる。これは物理のウィーンの変位則として知られる、温度と色のきっちりした関係だ。
だから温度の低い星は赤く、温度の高い星は青く見える。星の色は感覚的な印象ではなく、表面温度という1つの数字に結びついている。
じつは家の照明にも同じ目盛りがある
この温度と色の関係、実は毎日お世話になっている。LED電球のパッケージだ。
「電球色」「昼白色」「昼光色」という表示を見たことがあるだろう。あれはオレンジっぽい暖かい光から、青白い涼しげな光までの違いを指している。そしてパッケージの隅には、たいてい「2700K」「5000K」「6500K」といった数字が小さく刷られている。
このKはケルビン、つまり温度の単位だ。オレンジっぽい電球色が約2,700ケルビン、青白い昼光色が約6,500ケルビン。数字が大きい(=高温)ほど青白くなる。
妙な話だが、照明メーカーは星の色分けとまったく同じ物差しで電球に目盛りを振っている。寝室を落ち着かせたくて選んだ「電球色」は、星で言えば赤っぽい低温の星の色。勉強部屋の「昼光色」は、青白い高温の星に近い色、というわけだ。
夜空の星と、机の上のデスクライト。両方に同じ温度の目盛りが隠れていると思うと、ちょっと見る目が変わってこないだろうか。
太陽は、ちょうど真ん中の黄色
では、私たちの太陽はどの位置にいるのか。
太陽は黄色い星だ。赤でも青でもなく、ちょうど中間にいる。NASAによれば、太陽の表面(光球)の温度はおよそ5,500度。分類としては「黄色矮星(G2型)」と呼ばれる、ごくありふれたタイプの星だ。
5,500度と言われてもピンとこないかもしれない。身近なものでたとえると、鉄が溶けだす温度がだいたい1,500度ちょっと。太陽の表面はその3倍以上も熱い。
面白いのはここからで、青白い星は太陽よりさらに5倍以上も熱い。もし太陽が今の黄色ではなく青白く輝く星だったら、地球の環境はまったく別物になっていただろう。
ちなみに、昼間の太陽が黄色っぽく見えるのは地球の大気の影響もある。大気の外で見れば、太陽はもっと白っぽい。それでも「赤でも青でもない中間」という立ち位置は変わらない。
毎朝のぼってくる太陽が、星のカタログの中では「ほどほどの温度の、黄色いふつうの星」だ。知ると少し愉快な話だと思う。
星を温度順に並べた「OBAFGKM」
天文学では、星をこの色(=温度)の順番で7つのグループに分けている。高温の青いほうから順に、O・B・A・F・G・K・M という記号が振られている。
左端のO型が一番熱くて青く、右端のM型が一番冷たくて赤い。太陽はちょうど真ん中あたりのG型にいる。虹を温度の順に並べ直したようなものだと思えばいい。
NASAの解説によると、名前は赤く見える「赤色矮星」でも、実際にはむしろオレンジがかって見えるという。赤といっても、燃える炎のような真っ赤ではなく、どちらかといえば暖色のランプのような色味だ。
この分類が効いてくるのは、色を測るだけで星の素性がかなり読めてしまう点にある。色から温度がわかる。温度がわかれば、その星の重さや、一生を駆け抜ける速さまで、おおよその見当がつく。
遠い星まで行って温度計を差し込むことは、もちろんできない。それでも、届いてくる光の色さえ調べれば、何千光年も離れた星の表面温度が手に取るようにわかる。光は、星が送ってくる温度の便りなのだ。
色は、星の一生のあいだに変わる
ここまで「星の色=温度」と言ってきたが、その色は一生のあいだずっと同じではない。
星はガスの雲の中で生まれ、中心で水素をヘリウムに変える核融合で輝く。この安定した期間が、星の一生で一番長い時代だ。太陽もいま、この時代のちょうど半ばあたりにいる。
やがて燃料が尽きてくると、星は膨らんで赤っぽい巨星に姿を変える。NASAによれば、太陽も数十億年後には外側のガスを吹き払うという。あとに残るのは、地球くらいの大きさの燃えかす——白色矮星(はくしょくわいせい)だ。
妙な話だが、重い星ほど派手で短命だ。青白く激しく輝く重い星は、燃料を一気に使うので、わずか数百万年で一生を終えて爆発する。いっぽう暗くて冷たい赤い星は、燃料をちびちび使って、何兆年という気の遠くなる時間をかけてゆっくり燃える。
同じ「星」でも、重さ一つで寿命が何万倍も違ってくる。そして色は、その星が重いのか軽いのか、いま人生のどのあたりにいるのかまで、こっそり教えてくれている。
つまり夜空の青白い星は、若々しく激しく生きる短命な星だ。赤い星には、静かに長生きする星と、一生の終わりに膨らんだ星の両方が混じっている。色は温度計であると同時に、その星の人生の記録でもある。
夜空は、無数の温度計が並んだ風景
次に晴れた夜、空を見上げてみてほしい。もう、ただの「光る点の集まり」には見えないはずだ。
赤っぽい点を見つけたら、それは表面が3,000度ほどのぬるい星。青白く鋭い点があれば、3万度を超える灼熱の星。あいだの黄色っぽい星は、太陽の仲間だ。
冬ならオリオン座が一番わかりやすい。赤いベテルギウスと青白いリゲルを見比べれば、何光年も離れた2つの星の温度差を、自分の目だけで読み取っていることになる。
星の色は、気まぐれな装飾ではなかった。それは一つひとつの星が掲げている温度の数字で、夜空はそのまま、無数の温度計が散らばった巨大なパネルなのだ。