M51、通称「子持ち銀河」の渦のなかで、生まれたばかりの星団がひとつ、自分を包むガスの繭を内側から食い破っている。ところがその現場は、可視光で見るとほとんど真っ暗だ。生まれたての星団は分厚いガスと塵にくるまれていて、私たちの目に届く光をほとんど通さない。
面白いのは、この「繭を破る速さ」が星団ごとにはっきり違うことだ。しかも、重い星団ほど早く抜け出す。
2026年に公表された解析が、数千個の星団を一つずつ数えて、それを突き止めた。
ガスの繭に埋もれた星団たち
星は、巨大なガス雲(分子雲)の濃い部分が自分の重さで縮んで生まれる。しかも一粒ずつではなく、まとまって群れで生まれる。これが星団だ。
生まれた直後の星団は、材料の残りかすであるガスと塵にすっぽり包まれている。この繭が可視光をさえぎるので、従来の望遠鏡では姿が見えない。実際、この研究でも星団のかなりの割合が「可視光では写らない、埋もれたままの状態」だったという。
ここで効いてくるのが赤外線だ。赤外線は塵を透かして届くので、繭の奥に隠れた星団まで拾い出せる。研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測を組み合わせた。調べたのは、4つの近傍銀河 ― M51、M83、NGC 628、NGC 4449 ― にある数千個の若い星団だ。可視光で光る星団と、赤外線でしか見えない星団。この両方を数えたのがミソだ。
繭に完全に埋もれて、紫外線すら外に漏れていない最初の段階は、ごく短いと考えられている。研究チームの見積もりでは、せいぜい100万〜200万年ほどだ。問題はその先で、いつ繭を吹き払いきって「素顔」をさらすのか。そして、その速さは何で決まるのか。
重い星団は、軽い星団より数百万年早く抜ける
ここが今回の核心だ。星団を重さ(星団に含まれる星の総質量)ごとに分けて、繭を抜けきるまでの時間を測ると、きれいな傾向が出た。
重い星団は、およそ500万年で繭を抜ける。いっぽう軽い星団は、700万〜800万年かかる。差にして数百万年、重いほうが早く抜け出していた。この解析を主導したのは、ストックホルム大学のAlex Pedrini氏やAngela Adamo氏らのチームだ。星団の重さと抜け出す速さのあいだには、強い相関があると報告している。
数百万年、と言われてもピンとこないかもしれない。太陽の一生はおよそ100億年だ。それに比べれば、500万年も800万年も、まばたきのような一瞬でしかない。
もっとも、抜け出す速さは星団の重さだけで決まるわけではない。研究チームによれば、4つの銀河のなかでも M51 は繭を抜けるのに時間がかかる傾向があり、一部では900万年ほどに達していた。まわりの環境も効いているらしい。そもそもこの「抜け出す時間」を実際に測るのは難しく、星がどう生まれ育つかというサイクルを理解するうえでの基礎的な物差しになる。研究チームは、今回の結果が星形成とフィードバックのシミュレーションにとって手強い課題になっているとも指摘する。いまの計算機実験は、星団が生まれて繭を抜けるまでの過程を、まだ十分には再現しきれていないからだ。
なのに、その一瞬のわずかな差 ― 2、3百万年 ― が、星団のその後の役回りを分けてしまう。なぜ重い星団のほうが早いのか。答えは、繭を破る「力」の出どころにある。
繭を破るのは、超新星が爆発する前の光と風
星団のなかで繭を吹き飛ばす主役は、少数の「重い星」だ。太陽の15倍を超えるような重い星は、まわりに桁違いのエネルギーをまき散らす。
その手段はいくつかある。強烈な紫外線でガスを電離させ(光電離)、星の表面から高速のガスを吹き出し(星風)、光そのものの圧力でガスを押す(放射圧)。そして最後に超新星爆発。これらをまとめて「星のフィードバック」と呼ぶ。
重い星団ほど、こういう重い星をたくさん抱えている。だから繭を壊す力が強く、早く抜けられる。理屈としてはシンプルだ。
やや細かい話になるが、ここを飛ばすと後で効いてこない。重い星の寿命は、これまた数百万年しかない。燃料を派手に使い切って、最後に超新星として爆発する。すると、こう思えてくる ― 繭を吹き払っているのは、その爆発の衝撃なのでは?
ところが順番が逆だ。星団が繭を抜けるのはおよそ500万年。重い星が超新星になるのとほぼ同じか、それより前だ。つまり掃除の大半は、爆発を待たずに、紫外線と星風と光の圧力だけで済んでしまっている。派手な花火が上がる前に、地味な光と風が仕事を終えているわけだ。
抜け出した星団が、銀河を照らす側になる
繭を抜けるまでは、星団の紫外線は自分のガスに吸い取られて、外へ出ていけない。ところが繭を破った瞬間、話が変わる。せき止めていた壁が消えて、電離させる力を持つ紫外線が銀河のなかへ一気に流れ出す。
ここで重い星団の「早抜け」がじわりと効く。早く抜けるほど、まだ重い星が元気に紫外線を出している時期に外へ出られる。逆に抜けるのが遅いと、外に出たころには一番明るい星が寿命を迎えていて、放てる紫外線が減っている。研究チームは、銀河のなかへ電離放射(電離させる力を持つ紫外線)を逃がす役割で、重い星団が中心的な働きをしていると強調している。
電離放射が繭の外へ逃げ出すと、それは星団のまわりのガスを光らせ、銀河のあちこちを明るく染める。どれだけの紫外線が外へ漏れ出せるかは、星団がいつ、どんな状態で繭を抜けるかにかかっている。だからこそ、その抜け出すタイミングを数千個ぶん実測できたことに意味がある、と研究チームは位置づけている。
白状すると、私はこの話を「星団の内輪の事情」だと思って読み始めた。ところが逆で、いつ繭を抜けるかは、銀河全体がどれだけ紫外線で満たされるかに直結していた。銀河をどこが照らすのか。その答えの多くを、少数の重い星団が握っているらしい。
惑星の卵にも、タイマーがかかる
もうひとつ、この話には足元に返ってくる面がある。惑星だ。
星が生まれるとき、そのまわりには材料のガスと塵が円盤になって残る。これが惑星の卵だ。地球も太陽も、45億年ほど前にこうした円盤から組み上がったと考えられている。
ここで少し想像してみてほしい。もしあなたの太陽系が、重い星がひしめく星団のなかで生まれていたら。まわりの重い星が浴びせる強い紫外線が、惑星の卵である円盤を外側から削り、新しいガスの供給を断ってしまう。研究チームは、重い星団の環境では、こうして惑星をつくる時間に厳しい制限がかかる、と指摘している。
つまり、繭がいつ晴れて紫外線が飛び交いはじめるか ― そのタイミングが、その場所で生まれる惑星の運命にまで手を伸ばしている。私たちの太陽もおそらく星団のなかで生まれ、やがてそこから散り散りになった。もう少し重い星団だったら、地球はできていなかったかもしれない。妙な話だが、繭を破る速さの向こうに、自分の足元がつながっている。
光になって届く、繭破りの記録
M51や M83は、地球から数千万光年もかなたにある。だからいま望遠鏡に届いている光は、数千万年前にそこを出発したものだ。
その光のなかには、繭を破って素顔をさらした星団の姿と、逆にまだ繭に埋もれている星団の影が、両方まざって刻まれている。重い星団が数百万年で先に抜け、軽い星団がまだ繭のなかでもがいている ― そのタイミングのずれが、遠い銀河の一枚の画像のなかに、そのまま焼き付いている。
次にどこかで渦巻銀河の写真を見かけたら、光っている領域とほの暗い領域の境目を、少しだけ気にしてみてほしい。その境目のあちこちで、生まれたての星団が今まさに、自分の繭を内側から破っている最中なのだ。