フクは、十二になっても、うぶ雲がとれない。とれないと、ぐず、とばし損ない、と近所に言われるので、フクとしてはちょっと困る。

生まれた子は、みんな小さな雲にくるまって来る。ふわふわの、あたたかい雲だ。この町では、その雲をいちばん早く吹きとばした子が、いちばんえらい。とばした雲は、飛びながらぱっと光って、遠い町からも見えるようになる。「あの家の子は、もう巣立った」というわけだ。

兄のカンは、七つで吹きとばした。町でいちばん早かった。とばした雲はきれいに尾を引いて、船の通う遠い町までとどいたらしい。むこうの人たちはその光に「カン灯り」と名をつけて、夜の目印にしているという。

カンは鼻が高い。「おれの名は、この町より遠くまで届いてるんだ」と、ことあるごとに言う。もっとも、カン本人は「カン灯り」を一度も見たことがない。自分の光は、自分より先に遠くへ行ってしまって、手元にはもう残っていないのだった。

フクのほうは、十二になっても、背中にうぶ雲をひきずっている。通りの角には「早い子番付」というのが貼り出してあって、フクの名はいちばん下に、セロテープでつぎ足すように貼られている。ちなみにヨネ婆は、その番付表というものを、はなから信用していないらしかった。「あんなもん、貼り替えてるのは肉屋の息子だよ」と言う。

フクは、ぐずと言われても、あまりこたえない。むしろ雲の中はぬくくて、言われるたびに、まんざらでもない顔をした。本人は、いっそこのままでもいいと思っていたのかもしれない。とれてしまった分の雲は、ヨネ婆が神だなの下の古い籠に、こつこつ入れていく。「もったいないからねえ」と婆は言うが、何がもったいないのか、フクにはよくわからなかった。

ある晩、カンが遠くの町から使いをもらって帰ってきた。胸をそらして、いろりの真ん中の、いちばんあたたかい席に、どっかり座ろうとする。

そこへ、戸を叩く音がした。産婆のヤエだ。土間から首を突き出して言う。

「ヨネさん。籠の雲、もう足りたよ。次の子、そろそろだね」

婆は「そうかい」と、ゆっくり立った。神だなの下の籠を、両手で持ちあげる。ずっしりと、雲がつまっていた。ほとんどが、フクの、とばし損ないの雲だった。

カンが、きょとんとした。「……次の子って、なんの」

「この家の、次のあかんぼだよ」婆は籠をひとなでした。「おまえの雲は、とっくにどっか遠くへ行っちまった。あんなもん、もう帰ってこないんだよ。うちにあるあったかいのは、フクがためた分だけさ」

カンは、真ん中の席から、なんとなく腰を浮かせた。

婆は、その席の座布団を、ぐいとフクの尻の下に押しこんだ。最後のあんまんも、フクの手にのせてやる。それから、戸口でぽかんとしているカンに、ひとこと言った。

「カン。戸を閉めな。あんた、もう自分をあっためる雲、持ってないんだろ」

フクの膝の上で、とばし損ないの雲が、ひとまわり大きくふくらんだ。