宇宙がまだ生まれて8億年しか経っていないころ、5つの銀河が一か所でぶつかり合っていた。しかも、その衝突で作られた酸素が、銀河の外へだだ漏れになっていた。

いまの宇宙の年齢は138億年。8億年というと、その最初の6%にも満たない、まだ生まれたてのころだ。そんな時代に、これだけ賑やかな現場が見つかるとは正直思っていなかった。

見つけたのはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)。研究チームはこの銀河群を「JWSTのクインテット(五重奏)」と名づけた。

8億年前の宇宙で、銀河が5つ団子になっていた

まず、何が写っていたのかから話したい。

Weida Hu さんや Casey Papovich さんらの研究チームが観測したのは、みなみのうお座のあたり、GOODS-South と呼ばれる領域だ。そこに、少なくとも5つの銀河がぎゅっと寄り集まっていた。研究チームによれば、銀河サイズの塊は17個以上も数えられるという。

この銀河群までの距離は、赤方偏移(せきほうへんい/遠い天体ほど光が引き伸ばされて赤くなる量)でいうと z=6.7。ビッグバンから約8億年後の姿だ。

宇宙138億年の歴史のうち、この銀河群は生まれてわずか8億年後の姿として見えている

ここで思い出してほしいのが、遠くを見ることは過去を見ることだ、という宇宙の大原則。光の速さには限りがあるから、130億年かけて届いた光は、130億年前の姿をそのまま運んでくる。つまり私たちはいま、宇宙のごく初期の一場面を、リアルタイムの録画のように眺めている。

しかも、この5つがひしめいている範囲がやたらと狭い。研究チームの測定では、差し渡しはおよそ24キロパーセク、光の速さでいえば8万光年ほどしかない。天の川銀河の直径とほぼ同じ空間に、銀河が5つと、17個以上の塊が押し合いへし合いしている勘定になる。

星と星のあいだが何光年もすかすかに空いている天の川に慣れた目からすると、ずいぶん密度の高い、渋滞したような光景だ。集まった星をぜんぶ足すと、太陽およそ100億個ぶんの質量になると見積もられている。

若い宇宙は、もっとおとなしい場所だと思われがちだった。でも実際には、銀河どうしが激しくぶつかる修羅場が、すでに始まっていたわけだ。

ぶつかると、銀河は猛烈な勢いで星を作る

では、ぶつかると何が起きるのか。

銀河どうしが接近すると、たがいの重力でガスがかき混ぜられ、ぎゅっと圧縮される。ガスが濃く冷たくなると、そこから新しい星が次々に生まれる。衝突は、星の大量生産のスイッチなのだ。

このクインテットがどれくらいの勢いで星を作っているか。研究チームの見積もりでは、1年あたり太陽240〜270個ぶんの材料を星に変えているという。

この銀河群は年に太陽240〜270個ぶんの星を作り、いまの天の川銀河の100倍以上の勢いがある

数字だけだとピンとこないので比べてみる。いまの天の川銀河が1年に作る星は、ざっと太陽1〜2個ぶんくらい。つまりこの銀河群は、私たちの銀河の100倍を軽く超える勢いで星を量産している計算になる。

言いかえると、天の川がのんびり100年以上かけて作る星を、この現場はたった1年で作ってしまう。ぶつかり合いのエネルギーが、それだけ乱暴に星づくりを加速させているということだ。

生まれたての宇宙に、こんなに元気な星工場があった。ここまではまだ「すごい合体現場だね」で終わる話なのだが、面白いのはここからだ。

酸素は、どこからやってきたのか

この現場でいちばん驚かれたのは、星の数でも星を作る勢いでもない。酸素だった。

なぜ酸素が驚きなのか。話はビッグバン直後にさかのぼる。生まれたばかりの宇宙にあった元素は、ほぼ水素とヘリウムだけ。酸素や炭素のような重い元素(天文では「金属」とまとめて呼ぶ)は、まだこの世に存在しなかった。

こうした重い元素は、星の内部の核融合や、星が最期に起こす爆発を通してはじめて作られる。だから重い元素があるということは、そこで何世代もの星が生まれては死んでいった証拠になる。

宇宙が生まれて8億年しか経っていないのに、この銀河群はもう酸素をたっぷり抱えていた。生まれたてのわりに、ずいぶん早熟な現場だったわけだ。

短い時間で世代交代をくり返すには、星を作っては壊し、また作る、というサイクルをよほど急いで回さないと間に合わない。100倍速の星工場という前の話が、ここで効いてくる。

しかも変なのは、その酸素が銀河の「中」ではなく「外」で光っていたことだった。

引きちぎられたガスが、酸素を銀河の外へ運ぶ

JWSTは、酸素が放つ特定の光([O III]という輝線)と水素の光をとらえた。すると、その光る雲が4つの銀河を取り囲み、1本につないでいるのが見えた。

なぜガスが銀河の外にこぼれ出るのか。鍵は潮汐剥ぎ取り(ちょうせきはぎとり)だ。銀河どうしがすれ違うとき、たがいの重力が相手のガスや星を横から引っぱる。海の潮の満ち引きと同じ理屈で、引っぱられた側からガスが長い尾になって引きちぎられていく。

衝突で引きちぎられたガスが酸素の光る雲となり、4つの銀河をひとつにつないでいる

研究チームは、この酸素まじりのガスが、合体にともなう潮汐剥ぎ取りによって銀河のまわりへばらまかれたと考えている。銀河が自分の中で作った重い元素を、衝突の勢いで周囲の空間へ配り始めていた、というわけだ。

この光る雲がどれくらい広いか。差し渡しはおよそ8万光年ある。天の川銀河がまるごとすっぽり入ってしまうほどの範囲に、5つの銀河と、そこからこぼれた酸素の雲が広がっている。

ちょっと想像してみてほしい。もしあなたがその雲の中に立てたら、頭上にはぶつかり合う4つの銀河が並び、あたりには銀河から引きちぎられたばかりの、酸素を含むガスがぼんやり光っている。宇宙の材料が、まさに配達されている最中の光景だ。

銀河は、宇宙に材料を配って回っていた

ここまでを一本の線でつなぐと、こういう話になる。

銀河は静かにひとりで育つのではなく、ぶつかって育つ。ぶつかれば猛烈に星を作り、星は重い元素を吐き出す。そして合体の潮汐で、その元素は銀河の外の広い空間へまき散らされる。銀河は、宇宙に材料を配って回る配達人でもあった。

銀河が衝突で成長するという話は、実は私たちの足元でも起きている。天の川銀河も過去に小さな銀河を何度も飲み込んでいまの姿になったと考えられているし、2つの銀河が衝突する現場は近い宇宙でも見つかっている。JWSTのクインテットが特別なのは、それが宇宙のごく初期に、しかも元素のまき散らしまでセットで見えた点だ。

まき散らされた酸素は、ただ散らばって終わるわけではない。銀河のまわりに漂う重い元素は、やがて冷えてガスに混じり、次の世代の星や惑星の材料として取り込まれていく。宇宙は、こうやって少しずつ「星や惑星を作れる場所」に育っていったと考えられている。

ここで一つ区別しておきたい。観測されたのは「酸素まじりのガスが銀河の外に広がっている」という事実。「それが潮汐剥ぎ取りによるものだ」という部分は研究チームの解釈だ。ここは分けて受け取っておきたい。今回の結果は Nature Astronomy に発表されたもので、今後さらに詳しい観測が続けば、まき散らされた元素がその後どこへ行くのかも見えてくるはずだ。

最後に、少しだけ足元に返しておく。私たちがいま吸っている酸素も、体を作る炭素も、もとはどこかの銀河で星が作った重い元素だ。台所の水を沸かすときの湯気の中にも、あなたの血の中にも、その原子は混じっている。130億年前の混雑した現場で銀河が外へこぼしていた酸素と、あなたが次に吸い込む一息は、案外まっすぐつながっている。