空を見上げて「あの2つ並んだ光は何だろう」と思ったことはないだろうか。双子星のように見えるが実は無関係の星が偶然重なって見えているだけ、というのはよくある話だ。
でも宇宙のスケールで「本当に2つ並んでいる」天体が見つかると、話は全く違ってくる。それは偶然の一致ではなく、宇宙で最も激しい現象の証拠だ。
最近、「クエーサーペア」という発見が相次いでいる。128億光年も離れた場所で、2つのクエーサーが数千光年の距離を置いて並んで見つかったケースや、110億光年先で2つの銀河が互いの放射線でガスを焼き合いながら接近しているケースが観測されている。この現象が何を意味するか——それを理解するには、クエーサーとは何かから始める必要がある。
クエーサーとは何か ── 宇宙で最も明るい天体
クエーサー(quasar)という名前は「準恒星状天体(quasi-stellar object)」の略だ。望遠鏡で見ると星のように点に見えるが、実際は銀河の中心から放たれる、信じがたいほどの光のかたまりだ。
その明るさの源は、銀河の中心に鎮座する「超大質量ブラックホール」だ。太陽の数億から数十億倍もの質量を持つブラックホールが、周囲のガスを猛烈な速度で飲み込もうとする。ガスは直接落ちるのではなく、ブラックホールの周りに渦を巻いた「降着円盤」を形成する。
この円盤の中でガスは激しく圧縮・加熱され、数百万度を超える高温になる。そのエネルギーが、X線から可視光線まで幅広い電磁波として宇宙空間に放出される。クエーサーひとつの明るさは、普通の銀河(太陽のような星が数千億個集まったもの)の数百倍から数千倍に達することがある。宇宙で最も明るい天体クラスに位置する。
しかもこのエネルギーは、銀河ほどの大きさの空間ではなく、太陽系よりもずっと小さい領域——ブラックホールのすぐ周囲——から放出される。コンパクトな場所から銀河全体を圧倒する光が溢れ出す。その異常さが、クエーサーが長い間「謎の天体」として扱われた理由だ。
なぜ2つが並んで見えるのか
クエーサーが2つ、近い位置に並んで見つかった。これが何を意味するかを考えてみてほしい。
銀河の中心にある超大質量ブラックホールは、ふだんはそれほど派手に輝いていない。周囲にガスが十分に供給されないと、降着円盤があまり活発にならず、クエーサーとして光らないのだ。では、クエーサーが輝くときは何が起きているのか。
有力な答えは「銀河の衝突・合体」だ。
2つの銀河が互いの重力で引き合い、近づいていくと、大量のガスと塵が激しくかき混ぜられる。そのガスが銀河中心に流れ込み、超大質量ブラックホールへの「燃料供給」が急増する。その結果、ブラックホールが活発に物質を飲み込み、クエーサーとして爆発的に輝き出す。
2つの銀河が合体途中にある場合、それぞれの銀河の中心にあるブラックホールが同時にクエーサー化することがある。だから2つのクエーサーが近い位置に並んで観測されるのは、その2つの銀河が「今まさに合体しつつある」現場を見ていることを意味する。
2025年に報告されたケース(「コズミック・ジャウスト=宇宙の馬上槍試合」と呼ばれた発見)では、一方の銀河のクエーサーから放出された強烈な放射線が、もう一方の銀河のガスを変質させていることが確認された。ただのご近所ではなく、互いに影響を与え合っている。
「宇宙の夜明け」を見ている
クエーサーペアの発見でもうひとつ重要なのは、その「距離」だ。
遠い天体の光は、地球に届くまでに長い時間を旅する。128億光年先のクエーサーペアからの光は、128億年前に出発している。つまりそれは宇宙が生まれてから約9〜10億年後の姿だ。宇宙の年齢を138億年とすると、誕生直後の「赤ちゃん宇宙」の時代に当たる。
この時代に、なぜクエーサーが多いのか。それは宇宙全体が「密度が高かった」からだ。初期の宇宙は今より小さく、銀河同士の距離が近かった。ぶつかりやすく、合体が頻繁に起きた。その結果、クエーサーが活発に輝く時代が訪れた。
天文学者はこの時代を「クエーサーの黄金期」と呼ぶことがある。100〜120億年前ごろにクエーサーの数が最大になり、その後は宇宙が膨張するにつれて銀河間の距離が広がり、合体の頻度が落ち、クエーサーも減っていった。
現在の宇宙ではクエーサーは非常に少ない。遠く(過去)を見ればたくさんあるが、近く(今に近い時代)を見ると少ない。この傾向自体が「宇宙の歴史の記録」として読める。
クエーサーが銀河の成長を左右する
クエーサーは単なる「明るい天体」ではない。銀河の進化そのものを左右する存在だ、ということが近年わかってきた。
クエーサーが放出する強烈なエネルギー——光や粒子——は、銀河全体のガスを吹き飛ばしたり、加熱したりする。これを「フィードバック」と呼ぶ。
コズミック・ジャウストの観測では、一方のクエーサーの放射線がもう一方の銀河のガスの性質を変えていることが確認された。ガスが過熱されると、新しい星が生まれにくくなる。つまりクエーサーは隣の銀河の「星形成を抑制」する。
正の方向にも働く。クエーサーの活動が収まった後、ガスが冷えて銀河の中心に落ちてきた段階で星形成が爆発的に進むケースもある。クエーサーは「オン」と「オフ」を繰り返しながら、銀河の中の星の生まれ方のリズムをコントロールする側面がある。
銀河と超大質量ブラックホールは一緒に成長してきた、という観測的証拠が積み上がっている。どちらが先に大きくなるのか、どうやって互いの成長を調整するのか——この問いは現代天文学のど真ん中にある。
「2つが並ぶ」は見つけにくい
ここで少し立ち止まって、観測の難しさを考えてほしい。
クエーサーペアは理論的には予測されていたが、実際に見つけるのは簡単ではない。まず、クエーサーはとても遠い。128億光年の彼方を解像するには、現代の最高性能の望遠鏡を駆使する必要がある。
さらに、2つが「近い位置に並んでいる」ため、地球からは1つの点光源に見えやすい。ハッブル宇宙望遠鏡が偶然クエーサーペアを発見した事例では、当初は1つのクエーサーとして記録されていたものを後から詳細に解析して2つに分離した。
地上の電波望遠鏡であるALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)は、ガスの分布や速度を高精度で測定できる。銀河同士が近づいているかどうか(接近速度として毎秒数百kmの「ドップラーシフト」として検出できる)を調べるのに有効だ。日本の国立天文台が関わるALMAはこうした観測で世界の前線にいる。
サブル望遠鏡(すばる望遠鏡)は、広い視野で宇宙を高解像度にサーベイし、クエーサー候補を大量に洗い出すのに向いている。「2つの赤い点が隣り合っている」異常に気づいたのは、すばるの画像を手動でスクリーニングしていた研究者だった。自動処理ではなく人間の目が最初の発見をした、というのはちょっと面白い話だ。
銀河の合体現場を「今に残る課題」として
宇宙の初期に頻繁に起きた銀河合体は、現在の宇宙の銀河の形——渦巻き銀河か楕円銀河かといった違い——を決める大きな要因だ。合体の仕方によって、星形成の歴史が変わり、超大質量ブラックホールの質量が変わり、結果として銀河の「個性」が生まれる。
クエーサーペアは、この合体現場のスナップショットだ。しかも128億光年先のものは、宇宙の歴史の中で最も活発だった頃の現場を見せてくれる。
宇宙の今を見ても銀河合体は起きている。私たちの天の川銀河と、隣のアンドロメダ銀河も、数十億年後には衝突する。その時、銀河の中心にある両方の超大質量ブラックホールが降着円盤を持てばクエーサーとして輝くかもしれない——そんな話ではあるが、実際には現在の宇宙ではガスが少なすぎてクエーサーにはなりにくいと考えられている。
2つのクエーサーが並んで光るその景色は、宇宙が若く密度が高く、何もかもが激しかった頃の名残だ。128億年かけて届いたその光を、今の望遠鏡が分離して調べている。そこには、銀河が何を食べてどう育ったかの記録が刻まれている。