21,000光年のかなたで、ひとつの星の死骸が高速で宇宙を走っている。その後ろには、光る粒子の尾が37光年も伸びている。太陽から最も近い恒星までの距離の、およそ9倍の長さだ。

見た目が回転灯そっくりなので、天文学者はこの天体を「Lighthouse(灯台)星雲」と呼んでいる。中心にいるのは、パルサーと呼ばれる死んだ星。そして2026年、NASAのX線望遠鏡がこの灯台の「磁場の向き」を、人類で初めて直接測ってみせた。

正直、この画像を初めて見たとき、宇宙の縮尺が一瞬わからなくなった。順番に、ほどいていこう。

「灯台」と呼ばれる、星の死骸の正体

主役は PSR J1101-6101 という名前のパルサーだ。数字と記号の羅列で覚えにくいが、正体は太陽より重い星が寿命を終えて潰れた「中性子星」である。

中性子星は、都市がまるごと入るくらいの大きさ(直径20kmほど)に、太陽より重い質量を詰め込んだ天体だ。ぎゅっと圧縮された結果、密度も磁場も桁外れになる。角砂糖ひとかけらぶんの中身が、地球上の山ほどの重さになる、といえば異常さが伝わるだろうか。

パルサーは、その中性子星が高速で自転しながら、磁極から光のビームを飛ばしているものを指す。ビームがこちらを向くたびに点滅して見える。灯台の光が一定の周期でこちらを照らすのと、理屈はよく似ている。

中性子星は都市サイズに太陽より重い質量を詰め込み、回転しながら光のビームを放つ

このパルサー、なんと1秒間に16回も回っている。都市ほどの大きさの物体が、目にも留まらぬ速さで自転していると思ってほしい。回るたびにビームが空を掃くので、灯台の光にたとえられるわけだ。

では、なぜ後ろに長い尾が伸びるのか。ここからが本題だ。

尾の長さ37光年を、実感に翻訳する

このパルサーは、生まれたときの爆発の反動で、星々のあいだを高速で突っ走っている。走りながら高エネルギーの粒子をまき散らし、それが背後に細長い尾となって残る。

尾が光って見えるのは、加速された粒子が磁場に巻きつきながらエネルギーを放っているからだ。つまりこの尾は、ただの煙の筋ではなく、粒子と磁場がせめぎ合っている現場そのものである。

その長さが、37光年。数字だけ見てもピンとこないので、身近な距離に置き換えてみよう。

太陽から最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリまでは、約4.2光年。つまりこの尾は、地球のご近所さんまでの距離を9回ぶん、一直線に並べたくらい長い。1本の尾なのに、である。

37光年の尾は、太陽から最も近い恒星までの距離の約9倍にあたる

NASAとチャンドラの解説によれば、これは天の川銀河の中で見つかっている天体の尾(ジェット)としては最も長いという。銀河の中を走る1個の星が、これだけ長大な航跡を引いているのは、それ自体がかなり異例なのだ。

しかも本体は、地球から約21,000光年も離れている。天の川銀河の中心方向に、これくらいの距離を隔てている勘定だ。そんな遠くの、街ひとつ分の星の死骸が引く尾を、人類はどうやって「見た」のだろう。

4色の光を重ねて、はじめて全体像が見えた

答えは、1台の望遠鏡ではなく、波長の違う複数の望遠鏡を重ね合わせたことにある。同じ天体でも、見る「光の種類」を変えると、まったく違う顔が現れる。

今回の合成画像は、4つの観測を1枚に重ねている。それぞれが担当する光を整理しておこう。

  • 紫:NASAのチャンドラX線望遠鏡がとらえたX線
  • 青:NASAのIXPEがとらえたX線
  • 緑:オーストラリアのATCA(電波望遠鏡)がとらえた電波
  • 背景の星々:2MASSがとらえた可視・赤外の光

チャンドラの紫・IXPEの青・ATCAの緑・2MASSの星々を1枚に重ねて全体像が見えた

X線は高温・高エネルギーの現象を、電波はまた別の粒子の動きを教えてくれる。1つの波長だけでは尾の一部しか見えないが、重ねると尾の全長と構造がつながって浮かび上がる。人間の目に見える光は、宇宙が出しているごく一部の光にすぎないのだ。逆に言えば、望遠鏡を増やすほど、同じ天体から引き出せる情報は増えていく。

複数の望遠鏡を重ねて謎を解く手口は、いまや天文学の定番だ。天王星の外側の環でも同じように複数の望遠鏡を組み合わせた研究が答えを出している。

さて、ここで気になるのが青、つまりIXPEの担当分だ。IXPEは他の望遠鏡と何が違うのか。

IXPEが測った「光のふるえの向き」

IXPEは、X線の「偏光」を測る専門の衛星だ。この偏光こそ、今回の科学的な目玉になっている。

偏光と言われてもピンとこないかもしれない。光は波なので、進みながら細かくふるえている。そのふるえの向きがそろっている状態を、偏光と呼ぶ。

身近な例が偏光サングラスだ。水面やガラスの反射をカットできるのは、特定の向きにふるえる光だけを通したり止めたりしているから。IXPEは同じ理屈で、宇宙から届くX線のふるえの向きを読み取る。ふつうのX線望遠鏡が「どこがどれだけ明るいか」を撮るのに対し、IXPEは「光がどちらにふるえているか」まで測れる。

なぜそれが磁場につながるのか。荷電粒子が磁場に巻きつきながら出すX線は、磁場の向きに応じて、ふるえの向きがそろう性質がある。だから偏光を測れば、光を出している現場の磁場の向きが逆算できるのだ。

白状すると、この「光のふるえから磁場の地図を描く」という発想を、私はしばらく魔法のように感じていた。仕組みを知ると、ちゃんと物理でつながっている。

なぜ「磁場の向き」が特別な成果なのか

NASAの発表によれば、研究チームはIXPEを使って、この種のパルサーの磁場を初めて直接測った。ここでの「直接」がポイントになる。

これまで、こうした天体の磁場は理論やモデルからの推定に頼る部分が大きかった。偏光の観測は、推定ではなく実測で磁場の向きを押さえられる。いわば、間接的な状況証拠から、現場写真へと格上げされたわけだ。

スタンフォード大学などの研究チーム(J. Dinsmoreら)による今回の成果は、2026年7月9日付でアメリカの学術誌 The Astrophysical Journal に掲載された。中性子星は、宇宙で最も極端な天体のひとつだ。その内部や周囲でどう磁場が並んでいるかは、まだわかっていないことが多い。

もしあなたがこの尾のなかに立てたとしたら、まわりの空間には目に見えない磁場の筋が走り、その線に沿って粒子が光っている。IXPEが測ったのは、その見えない筋の「向き」だ。方位磁針ではとても測れない、遠すぎる極限の磁場を、光の性質だけを頼りに読んだことになる。

観測でわかったのはあくまで磁場の向きや構造の手がかりであって、中性子星のすべてが解けたわけではない。それでも、推定でしかなかった量に実測が入るのは大きい。同じ手法を他のパルサーにも向ければ、極端な磁場の地図が1つずつ埋まっていくはずだ。

死んだ星が、いまも走り続けている

ここまでの話を、ひとつの光景に畳んでみよう。21,000光年先で、街ほどの大きさの星の死骸が高速で走り、最寄りの恒星までの9倍もの光の尾を引いている。その磁場の向きを、人類はついに直接のぞき見た。

面白いのは、これが「終わった星」の話ではないところだ。星としては死んでいるのに、猛烈に回り、走り、光の筋を描き続けている。死骸というより、別の姿で暴れていると言ったほうが近い。灯台とはよく言ったもので、その光はいまも銀河の中を規則正しく掃き続けている。

夜空のどこかに、いまこの瞬間も、37光年の光の尾を引きずって銀河を横切っていく灯台がある。次にその光の向きが読めたとき、私たちは極端な星の内側を、もう一歩のぞき込むことになる。