4.5億光年のかなたで、ひとつの星がブラックホールに引き裂かれ、一瞬だけ強烈に輝いた。その閃光のおかげで、天文学者が何十年も探しあぐねていた「中くらいの大きさ」のブラックホールが、ようやく姿を現したかもしれない。ブラックホールに大小があるのは知られていたのに、その中間だけは、ほとんど見つかっていなかった。

巨大楕円銀河の外れの星団で、中くらいのブラックホールが星を引き裂いて一瞬輝くイメージ

軽いのと重いのはいる、なのに中くらいがいない

ブラックホールと聞いて思い浮かぶのは、たぶん二種類だ。 ひとつは、重い星が一生の最後に自分の重さで潰れてできるもの。太陽の100倍より軽い範囲に収まり、天の川銀河だけでも数百万個あるとされる。 もうひとつは、銀河の中心にどっかり座る超大質量ブラックホール。こちらは太陽の数百万倍から数十億倍という、けた違いの重さだ。

問題は、その間である。 太陽の数百倍から数十万倍——ちょうど中間にあたる重さのブラックホールが、長いあいだほとんど見つかってこなかった。中質量ブラックホール(IMBH、太陽の数百〜数十万倍)と呼ばれるこの階層は、理屈のうえでは存在していいはずなのに、観測の網にかからない。

太陽質量を対数で並べると、恒星質量と超大質量の間がぽっかり空いている

軽いのと重いのはいる。なのに中くらいがいない。生まれたての子犬と成犬はいるのに、その間の時期の犬を誰も見たことがない、みたいな奇妙さだ。だからこの中間層は「ミッシングリンク(失われた環)」と呼ばれてきた。

そもそも、ブラックホールはどうやって見つけるのか

ここで素朴な疑問がわく。光すら逃げ出せない天体を、どうやって見つけるのか。 答えは、本体ではなく「まわり」を見ることだ。ブラックホールへ吸い込まれていくガスは、落ちる前に猛烈な速さで渦を巻き、高温になって強い光(とくにX線)を放つ。その光を望遠鏡でとらえる。

超大質量ブラックホールが見つけやすいのは、まわりに大量のガスや星があって、絶えず何かを飲み込んでいるからだ。いわば食事中はこうこうと光っている。見えているのは本体ではなく、落ちていくものが上げる悲鳴のような光だ。

ところが中質量ブラックホールは、そこまでガツガツ食べない。 まわりに飲み込むものが少ないので、普段はほとんど光らない。真っ暗なまま、静かにそこにいる。これが中間層の見つからなかった最大の理由だと、研究チームは考えている。

白状すると、私はずっと「中くらいのブラックホールは珍しいから見つからない」のだと思い込んでいた。そうではなく、いても光らないから気づけないのだ。

星を一個、丸ごと引き裂いた

では、光らないものがどうして見つかったのか。 きっかけは、2009年にNASAのX線天文衛星チャンドラがとらえた、奇妙なX線源だった。場所はヘルクレス座の方向にある巨大楕円銀河 NGC 6099。地球から約4.5億光年のかなたにある。

このX線源は、ただ光っていただけではなかった。 2009年の検出のあと、2012年には明るさがピークに達する。その輝きは2009年のおよそ100倍。そこからは下り坂で、2023年まで減り続けた。

一瞬ふくらんで、しぼんでいく。 この光り方こそが、正体を暴く手がかりだった。ブラックホールのそばを通りかかった星が、強烈な重力(潮汐力)で引き裂かれ、ガスとなって飲み込まれる——潮汐破壊イベント(TDE)と呼ばれる現象だ。星という大きなごちそうを一口食べたせいで、普段は暗い天体が一時的にまばゆく輝いた。

2009年の検出から2012年に約100倍まで増光し、2023年まで減光した一過性の光り方

飲み込まれたガスの温度は、約300万度に達していた。太陽の表面がおよそ6000度だから、その500倍の熱さだ。面白いのはここからで、この明るさの変化の仕方が、中質量ブラックホールという解釈にぴたりと合うのだという。

銀河の中心ではなく、「外れの星団」にいた

この天体には、もうひとつ変わった特徴がある。 ふつう巨大なブラックホールは銀河の中心に鎮座している。ところがこの天体——NGC 6099 HLX-1——は、銀河の中心から約4万光年も離れた外縁にいた。

4万光年という距離感がピンとこないかもしれない。 私たちの天の川銀河は、端から端までおよそ10万光年ある。太陽系から銀河中心までが約2.6万光年ほどだ。つまりHLX-1は、銀河の「都心」ではなく、だいぶ郊外に住んでいることになる。中心からずれた場所にいるブラックホールはほかの銀河でも見つかっているが、この中くらいサイズは珍しい。

ハッブル宇宙望遠鏡がこの一帯を調べると、そこには小さな星団があった。 ブラックホールは、その星団の中にいたのだ。星団の中は星がぎゅっと密集している……と言いたいところだが、それでも星と星の間隔は数光月、約8000億キロも離れている。

銀河中心から約4万光年離れた外縁の小さな星団の中にブラックホールがいる

ここで少し想像してみてほしい。もしあなたがこの星団の真ん中に立っていたら。 8000億キロは、地球から太陽までの距離のおよそ5000倍。隣に星はあるのに、はるかに遠い。空はスカスカで、足元の中心には、何も見えない真っ暗なブラックホールが静かに潜んでいる。

研究チームは、この「外れの星団」という住所に注目している。かつて小さな銀河だったものの中心核が、大きな銀河に飲み込まれて取り残された名残ではないか、と見ているのだ。そう考えると、ミッシングリンクという呼び名の意味がくっきりしてくる。小さな銀河の中心で育った中くらいのブラックホールが、やがて合体をくり返して銀河中心の超大質量ブラックホールへ育っていく。その途中段階の生き残り、というわけだ。実際、矮小銀河に不釣り合いなほど重いブラックホールも見つかっている。

まだ「有力候補」、断定はしない

ここまで読むと、もう決まりだろうと思うかもしれない。 だが研究チームは、これを中質量ブラックホールの「有力な候補」と呼ぶにとどめている。確定、とは言っていない。

理由のひとつは、観測のタイミングのずれだ。 X線で明るさを追った時期と、ハッブルが可視光で星団をとらえた時期が、うまく重なっていない。別々の時間に撮った写真をつなぎ合わせているので、同じ出来事をまっすぐ説明しきれない部分が残る。慎重になるのは当然だろう。

X線の観測では、NASAのチャンドラに加え、ESA(欧州宇宙機関)のXMM-Newtonがこの天体の変化を追った。 一瞬の閃光をとらえるには、空を広く、何度もくり返し見張る必要がある。そこで期待されているのが、大規模な掃天観測を担うベラ・C・ルービン天文台だ。研究チームは、こうした望遠鏡が数億光年先で起きる星の破壊を次々と見つけ、中くらいのブラックホールの実在を確かめてくれると見ている。一個見つかれば偶然かもしれないが、何十個も並べば、それはもう「いる」という話になる。

見えないものが、壊した一瞬だけ見える

変電所の存在を、私たちは停電するまで思い出さない。 中質量ブラックホールもそれに似ている。普段は何も飲み込まず、光も出さず、宇宙の片隅で完全に黙り込んでいる。存在していても、こちらから確かめようがない。

それが、たまたま近づいた星を一個引き裂いた、その一瞬だけ。 4.5億年前に放たれた閃光が、いま地球の望遠鏡に届き、「ここにいたよ」と知らせてくれた。星ひとつの最期と引き換えに、長らく行方不明だった中間サイズのブラックホールが、ほんの短いあいだ輪郭を見せたことになる。

ヘルクレス座の方向。その奥、肉眼ではただの暗がりにしか見えない場所で、一個のブラックホールが口を拭って、また静かに眠りについている。