私たちが住んでいる天の川銀河を真上から眺められたとしたら、中心を貫く光の「棒」と、そこから伸びる渦の腕が見えるはずだ。この形は、銀河がじゅうぶんに歳をとってからでないと作れない、と長く考えられてきた。

ところがJWST(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)が、宇宙がまだ12億歳ほどだった頃の光の中に、その「棒」を見つけてしまった。

今から約126億年前の銀河が、もう天の川そっくりの姿で回っていたのだ。

宇宙が12億歳の頃の渦巻

見つかった銀河には、M1149-BSG-z5という素っ気ない名前がついている。観測チームの報告によれば、この銀河の赤方偏移(光が宇宙膨張で引き伸ばされる度合い)はz=5.102。宇宙が生まれてまだ12億年ほどしか経っていない時代の姿だ。

チームはこれを、これまでに見つかった中で最も遠い棒銀河の候補だとしている。

赤方偏移が大きいほど、その光は遠くから、つまり古い時代からやってきている。遠くを見ることは、そのまま昔を見ることでもある。z=5.102の光は、126億年もの旅を経て、いまJWSTのセンサーに届いた。私たちが目にしているのは、この銀河の「今」ではなく、はるか昔の姿だ。

宇宙誕生から約12億年後の時点に棒銀河がすでに存在したことを示す時間軸

この数字、最初は誤植かと思った。宇宙の年齢は約138億年。つまりこの銀河は、宇宙全体の一生を1日に例えるなら、朝の2時間しか経っていない頃に、もう大人びた形を完成させていたことになる。

なぜ「棒がある」だけでそんなに驚くのか。話はそこから始まる。

棒はなぜ「大人の銀河」の証なのか

棒渦巻銀河の「棒」とは、銀河の中心を一直線に貫く、恒星が密集した細長い構造のことだ。天の川銀河もこのタイプに分類されている。

厄介なのは、この棒がかなり気難しい構造だという点にある。棒ができるには、円盤の中の星々が同じ向きにきれいに揃って回り、その回転が長い時間かけて落ち着いている必要がある、と考えられてきた。言い換えれば、棒は円盤が「大人になった」しるしなのだ。

白状すると、私はこの仕組みを長いこと逆に理解していた。棒は銀河が若くて荒っぽいからできるのだと思い込んでいた。実際は反対で、荒れた円盤ほど棒は育たない。

初期の宇宙の銀河は、ガスが渦を巻きながら激しくぶつかり合う、いわば思春期のような状態だったと見られている。星の動きはバラバラで、円盤そのものが安定していない。そんな環境では棒は崩れてしまう。だから「昔の宇宙には棒銀河は少ないはずだ」というのが、これまでの相場観だった。

しかも棒は、ただの飾りではない。棒は円盤のガスを中心へ向かってかき集めるベルトコンベアのような役割を果たし、中心での星づくりや、中心にあるブラックホールの成長を後押しすると考えられている。棒があるということは、その銀河が内側から自分を組み替える段階に入っている、という意味を持つ。

その相場観に、M1149-BSG-z5が一石を投じたわけだ。

天の川の棒と、ほぼ同じ長さ

面白いのはここからだ。この銀河の棒は、単に「ある」だけではなかった。

観測チームの構造解析では、棒の長さはおよそ4.5kpc(キロパーセク)と見積もられている。1kpcは約3260光年なので、換算すると約1.5万光年。渦状腕はさらに外側、半径5.5kpc(約1.8万光年)あたりまで伸びていた。

M1149-BSG-z5の棒の長さは天の川銀河の棒とほぼ同じという比較

ここで少し立ち止まってほしい。この4.5kpcという棒の長さは、私たちの天の川銀河が持つ棒と、おおむね肩を並べる大きさなのだ。

126億年前の、宇宙が赤ちゃんだった頃の銀河が、いま私たちが住んでいる銀河とほぼ同じスケールの棒を、すでに完成させていた。

もしこの銀河の円盤の上に立てたとしたら、頭上には天の川によく似た光の川が架かっていたかもしれない。周りの宇宙はまだ若く、銀河どうしの間隔も今より近い。にぎやかで、少し騒がしい空だっただろう。

恒星の総量も軽くはない。チームの推定では、この銀河の星の質量は太陽およそ280億個ぶんに達する。1年あたり太陽140個ぶんを超える勢いで新しい星を作り続けてもいた。若いのに、体格も食欲も一人前だったわけだ。

では、この遠くて小さな銀河の形を、私たちはどうやって見分けたのだろう。

重力レンズとJWSTの合わせ技

126億年も離れた銀河は、本来とても暗く、細部など見えない。それを可能にしたのが、二段構えの仕掛けだった。

一つ目は自然の助けだ。この銀河は、MACS J1149と呼ばれる手前の巨大な銀河団のすぐ近くの視野で見つかった。銀河団の強い重力は、その後ろから届く光の通り道を曲げてしまう。アインシュタインが予言したこの効果は重力レンズと呼ばれ、遠くの天体を天然の虫めがねのように拡大して明るく見せてくれる。

手前の銀河団の重力が遠くの銀河の光を曲げて拡大する重力レンズの仕組み

二つ目が望遠鏡だ。チームはJWSTとHST(ハッブル宇宙望遠鏡)の観測データを組み合わせ、光の明るさの等高線を丁寧になぞる手法で、棒と渦状腕の形をあぶり出した。

天然の虫めがねと、人類が持つ最高性能の目。この二つがそろって初めて、宇宙の赤ん坊の時代の銀河が、棒を持っているかどうかまで見分けられるようになった。

もし重力レンズの助けがなければ、この銀河は「ぼんやりした光の点」で終わり、棒があるかどうかなど判別しようもなかっただろう。宇宙が用意した虫めがねと、地上の技術がたまたまかみ合った場所に、この一枚は成立している。

一枚の画像の裏に、これだけの条件が重なっている。

早熟だったのは、独りじゃなかったから?

では、なぜこの銀河はそんなに早く大人びることができたのか。ここは観測された事実と、研究チームの解釈を分けて読む必要がある。

観測から分かっているのは、この銀河がまわりより銀河の密度が高い領域にいて、すぐ近くに相手役となる別の銀河を従えていることだ。中心には、周囲のガスを勢いよく飲み込む活動的なブラックホール(活動銀河核)の兆候も見つかっている。棒が中心へガスを運び、そのガスがブラックホールを太らせる——棒とブラックホールが二人三脚で成長した様子が、この一つの銀河にそろって見えている。

これらを踏まえて研究チームは、近くの銀河との相互作用が引き金になって、短い時間で棒が組み上がった可能性を挙げている。つまり、独りで静かに歳を重ねたのではなく、隣人にゆさぶられて一気に形が整った、というシナリオだ。

妙な話だが、外から乱されることが、かえって秩序を生んだのかもしれない。もっとも、これはあくまで一つの解釈で、確定した結論ではない。

はっきりしているのは、たった一つのこの発見が、「初期宇宙の銀河はまだ形が定まっていない」という私たちの思い込みに、ひびを入れたことだ。銀河が大人になるスピードは、どうやら考えていたより速い。

もちろん一例だけでは、これが特別な幸運児なのか、それとも当時ありふれた姿だったのかは分からない。だからこそ研究チームは、同じような古くて整った銀河をこれから数多く探そうとしている。1個が偶然でも、10個そろえば、それは宇宙の「普通」を書き換える証拠になる。

夜空の天の川と、126億年前の渦

宇宙が生まれてわずか12億年。その頃すでに、天の川とほとんど見分けのつかない棒渦巻が、静かに回っていた。

夏の夜、街の明かりを離れて空を見上げると、うっすらとした天の川の帯が横たわっている。あれは、私たち自身が住む棒渦巻銀河を、円盤の内側から眺めた姿だ。

同じ形の渦が、宇宙のごく初期にもう存在していた。次にJWSTが同じような「早熟な棒」をいくつ見つけるかで、銀河の成長物語は書き換わっていくはずだ。

見上げているその帯と、126億年前の一枚の画像が、まったく同じ「棒」でつながっている。