太陽のすぐご近所、たった25光年先に、ひとつの星の「燃えかす」がある。地球ほどの大きさに、太陽くらいの重さがぎゅっと詰まった星だ。
これが太陽から数えて9番目に近い白色矮星だと、最近になってわかった。ところが不思議なことに、この星の「気配」は27年も前から気づかれていた。なのに正体がつかめないまま、四半世紀が過ぎていた。
すぐそこにあって、存在のヒントもあった。それでも見えなかった。なぜだろう。
すぐ隣にあるのに、なぜ見えなかったのか
答えは拍子抜けするほど単純で、「隣がまぶしすぎた」からだ。
問題の白色矮星は、G 203-47という星系にいる。この系にはもうひとつ、赤色矮星(太陽より小さくて暗い、赤っぽい星)が寄り添っている。白色矮星は、この赤い相棒とペアを組んでいる。
赤色矮星は暗いといっても、燃え尽きた白色矮星よりはずっと明るい。だから可視光でながめると、白色矮星は隣の光にすっかり埋もれてしまう。
夜、明るい街灯の真下に立つと、その足元の暗がりにいる人が見えなくなる。あれと同じことが、25光年先で起きていた。弱い光の白色矮星は、隣の赤い星のグレア(まぶしい光のにじみ)に飲み込まれていたのだ。
こういう「隠れた白色矮星」は、G 203-47だけではなかった。GJ 207.1、LHS 1817、Wolf 1130という3つの星系にも、同じように相棒が潜んでいた。合わせて4つ。どれも地球から65光年以内、宇宙の物差しでいえば完全にご近所だ。
では、姿が見えないのに、どうやって「そこにいる」と気づいたのだろう。
27年前から知られていた「見えない揺れ」
手がかりは、星のわずかな揺れだった。
星は、重力で引っ張り合う相手がいると、その相手に振り回されて小刻みに動く。地球から見ると、近づいたり遠ざかったりする速さ(視線速度という)が周期的にゆらぐ。このゆらぎは、姿が見えない相手でも検出できる。
G 203-47の赤色矮星を観測していた人たちは、まさにこのゆらぎに気づいていた。何かが重力で引っ張り、赤色矮星を小さく揺すっている。でも、その「何か」が見えない。
白状すると、天文学者がこんなに長く正体を保留するのは珍しい。G 203-47では、最初にゆらぎが観測されてから、相手の正体がわかるまで27年かかった。生まれた子どもが親になるくらいの時間だ。その間ずっと、記録には「見えない相棒」の気配だけが残っていた。
研究チームは、このゆらぎの正体こそ暗い白色矮星ではないかと考えた。あとは、まぶしさをかわして直接その姿をとらえればいい。問題は、その「かわし方」だ。
まぶしさを「紫外線」でかわす
ここで効いてくるのが、光の色だった。
赤色矮星はその名のとおり赤っぽく、表面の温度が低い。いっぽう白色矮星は、燃え尽きた直後の芯なので、まだとても熱い。そして熱い天体ほど、青い光や紫外線(目に見えない、紫より波長の短い光)をたくさん出す。
つまり同じペアでも、見る波長を変えると立場が入れ替わる。可視光ではまぶしい赤色矮星も、紫外線の領域ではぐっとおとなしくなる。逆に白色矮星は、紫外線でこそよく目立つ。
面白いのはここからだ。研究チームが使ったのは、ハッブル宇宙望遠鏡に載っているSTIS(宇宙望遠鏡撮像分光器)という装置だった。この目で紫外線をとらえると、赤色矮星の陰に隠れていた白色矮星の光が、はっきりとデータに浮かび上がった。
この成果はウォーリック大学とコロラド大学ボルダー校のチームによるものだ。2026年7月に、王立天文学会月報(MNRAS)で報告された。観測ではっきり示されたのは、可視光で埋もれていた星が、紫外線でこそ姿を現すという事実だ。
地球サイズに太陽の重さ ── 白色矮星の正体
そもそも白色矮星とは、何者なのか。
太陽くらいの重さの星は、一生の終わりに外側のガスを吹き飛ばし、中心にあった芯だけを残す。この残った芯が白色矮星だ。核融合の燃料を使い果たした、いわば星の燃えかすである。
面白いのは、その詰まり具合だ。地球ほどの大きさしかないのに、太陽に近い質量を抱えこんでいる。もし表面から角砂糖ひとつぶんの物質を持ってきたら、乗用車1台ぶんに迫る重さになるという。地球上の常識では、ちょっと測れない密度だ。
G 203-47では、この白色矮星が赤色矮星のまわりを14.9日で1周している。相棒の赤色矮星のほうは、ゆっくり100日ほどかけて自転しているという。近い距離で、テンポの違う2つの星が回り続けている。
想像してみてほしい。もしあなたがそばに浮かんでいたら、赤くくすんだ大きな星のわきを、地球サイズの白い点が2週間ちょっとで一周していく。派手さはないが、目を離せない光景だろう。
そして当然、次の疑問がわいてくる。こんな近くで4つも見つかったのは、ただの幸運なのか。
4つ見つかったのは、偶然ではなかった
じつは、これは偶然の当たりくじではない。
星がどう生まれ、どう死ぬかの理論を使うと、こんな近接ペアがご近所にいくつあるはずか見積もれる。研究チームの人口モデルは、この条件で4〜5組はあるはずだと予測していた。
そして実際に、ぴたりと4組が見つかった。
妙な話だが、予測と観測がここまで噛み合うと、理論のほうもだいたい正しかったことになる。今回の発見は、たまたま隠れた星をひとつ掘り当てた、という話ではない。「隠れた白色矮星」が、理論の予想どおりの数だけちゃんと潜んでいた、という話なのだ。
裏返すと、こうも言える。ご近所の星のカタログには、まだ埋まっていない欄がある。
ご近所の「国勢調査」は、まだ3割
ここで少し立ち止まってほしい。
太陽から20パーセク(約65光年)以内には、たくさんの赤色矮星がある。そのうち、隠れた相棒がいないか系統的に調べられたのは、まだ3割ほどだという。残りの7割は、まだ手つかずのままだ。
研究チームは、この局所的なご近所に、あと9〜10組の近接ペアが隠れているかもしれないと見ている。まぶしい赤い星の陰で、今も暗い燃えかすが気づかれずに回っている可能性がある。
いちばん近い星々のカタログは、もう完成していると思いがちだ。太陽系の周辺くらい、とっくに調べ尽くされているだろう、と。
けれど実際には、25光年先の「9番目に近い白色矮星」でさえ、つい最近まで欄が空いたままだった。ご近所の国勢調査は、まだ半分も終わっていない。
今夜見上げる空のどこかで、まだ名前のない燃えかすが、まぶしい赤い星の陰にまぎれて、静かに回り続けている。