天の川銀河の片隅に、星が約1000万個も球状に詰まった星の大集団がある。その中心のあたりで、7つの星が「本来なら振り切って飛び去るはずの速さ」で動いているのに、なぜか外へ逃げていかない。

何かが、目に見えない強い力で、それらの星を引き止めている。

その正体を測ってみたら、太陽を少なくとも8,200個ぶんかき集めた重さの、光を出さない天体だった。

星団の中心で高速の星が見えない天体に引き止められている図

逃げ出すはずの星が、逃げていかない

舞台はオメガ・ケンタウリという星団だ。地球から約1万7700光年、天の川銀河で最大級の球状星団(星が球状にびっしり集まった、とても古い星の集団)にあたる。約1000万個の星が、互いの重力でひとかたまりになっている。

2024年、マックス・プランク天文学研究所(ドイツ、以下MPIA)のマクシミリアン・ヘーベルレさんらの研究チームが、科学誌 Nature に一本の論文を発表した(2024年7月10日)。この星団の中心付近で、異様に速く動く7つの星を見つけた、という内容だ。

どれくらい速いのか。研究チームによれば、この7つは星団の「脱出速度」を超えて動いているという。脱出速度とは、その天体の重力を振り切って二度と戻ってこられなくなる、境目の速さのことだ。

つまり本来なら、これらの星は星団から飛び出して、暗い宇宙へ去っていくはずだった。

なのに、飛んでいかない。中心のあたりに、しつこく居座っている。だとすれば答えはひとつしかない。何か途方もなく重いものが、そこに潜んでいて、逃げようとする星を力ずくで引き戻しているのだ。ただし、その「何か」は、どんなに望遠鏡を向けても光としては写らない。

見えないものの重さを、周りの動きから測る

見えないものを、どうやって「ある」と言い切れるのか。ここが、この話のいちばん面白いところだ。

カギは、星そのものではなく星の「動き」にある。糸の先にボールをつけてぐるぐる振り回す場面を思い浮かべてほしい。速く回すほど、手はより強くボールを引き寄せていないと、糸がすっぽ抜けてボールは飛んでいく。

これを逆から読むと、こうなる。飛んでいかずに速く回り続けている物があれば、それだけ強い力で中心へ引かれている証拠だ、と。

星と重力でも、まったく同じことが起きる。ある天体の周りを星が速く回っているほど、中心には強い重力、つまり大きな質量がなければつじつまが合わない。天文学者はこの関係を使って、直接は見えない銀河や星団の中心の重さを、昔から逆算してきた。

だから研究チームがやったのは、原理としてはシンプルだ。中心付近の星たちがどれだけの速さで動いているかを測り、「この動きを説明するには、中心にどれくらいの重さが要るか」を計算する。すると、光っていない重い天体の存在が、数字として浮かび上がってくる。

星が速く動くほど中心に大きな質量が必要になることを示す図

太陽8,200個分、それでも銀河中心の数百分の一

では、その計算が弾き出した重さはどれくらいだったのか。

研究チームは、この見えない天体を「少なくとも太陽の8,200倍の質量を持つ」と結論づけた。太陽そのものが地球の約33万倍の重さだから、そのさらに8,200倍。日常のどんな物差しでも、もう測りようがない重さだ。

ここで、ブラックホールの「体重別階級」を思い出しておきたい。これまでよく知られてきたブラックホールは、大きく2種類あった。

ひとつは、大きな星が一生の最後に潰れてできる「恒星質量ブラックホール」。太陽の数倍から数十倍ほどの重さで、宇宙にはたくさんある。もうひとつは、銀河の中心にどっしり座る「超大質量ブラックホール」。天の川銀河の中心にあるいて座A*(エースター)で、太陽の約400万倍。大きな銀河になると数十億倍にもなる。

問題は、その真ん中だ。

太陽の100倍から10万倍ほどの「中間質量ブラックホール」は、理屈の上では存在してよいはずなのに、確たる例がなかなか見つからずにいた。太陽8,200倍という今回の数字は、まさにこのぽっかり空いた真ん中に、きれいに収まる。

恒星質量・中間質量・超大質量ブラックホールの重さを並べた比較図

ずっと「行方不明」だった、中くらいのブラックホール

白状すると、この「真ん中がいない」問題を、私は長いこと軽く見ていた。小さいのも大きいのもあるなら、中くらいも当然ごろごろしているだろう、と。

ところが、そう簡単ではなかった。

そもそもブラックホールは光を出さないので、見つけるには「周りに何かをさせて、その痕跡を捉える」しかない。恒星質量ブラックホールなら、相方の星からガスを奪って強いX線を放ったり、別のブラックホールと合体して重力波(時空のさざ波)を出したりして、居場所を教えてくれる。超大質量のほうは、周囲の大量のガスを飲み込むときに銀河の中心を派手に輝かせる。

ところが中間サイズは、そのどちらの派手さも持ちにくい。周りを激しく輝かせるほど大食いではないし、恒星質量ほど頻繁に合体もしない。いわば、宇宙のなかで妙に物静かな存在なのだ。

しかも、有力な隠れ場所とされてきたのが、まさに球状星団の中心だった。星がぎゅうぎゅうに密集した、いちばん見通しの悪い場所である。そこに静かなブラックホールがいても、無数の星明かりに紛れて、これまで決め手を欠いていた。

見つからなかったのは、いなかったからではなく、あぶり出す手立てが足りなかったから――今回の発見は、そう言っているように思える。

20年分の古い写真を、掘り返す

では、その物静かな天体を、研究チームはどうやって捕まえたのか。

新しい望遠鏡で撮り直したわけではない。彼らが使ったのは、ハッブル宇宙望遠鏡がオメガ・ケンタウリを撮りためてきた、過去のデータだった。その数、500枚を超える画像。期間にして、およそ20年分にわたる。

星団のなかの星は、少しずつ位置を変えている。ただ、あまりに遠いので、1年や2年ではほとんど動いて見えない。ここで効いてくるのが、20年という時間の長さだ。長い年月をあいだに挟むほど、星がわずかにずれた分がはっきり読み取れる。

このやり方で、研究チームは140万個もの星の動きを丹念に測り、ひとつの星団としては過去最大級の運動カタログを作り上げた。そのなかから、中心付近を猛スピードで動く7つの星が、静かに浮かび上がってきたというわけだ。

ここで少し想像してみてほしい。もしあなたが、そのオメガ・ケンタウリの中心に立てたら。夜空はもう「点々と星が散らばる」なんてものではない。空一面が、太陽のような星でびっしり埋め尽くされ、地球の夜より何百倍も明るいはずだ。その光の海のただ中で、見えない重い一点が、周りの星をぐるぐる従えている。

昔の望遠鏡が残した記録を、20年後に別の視点で読み返す。天文学には、こういう「時間を味方につける」仕事があるのだと、この発見はあらためて教えてくれる。

20年分の画像を重ねて星のわずかな移動を測る手法の図

「中くらい」が実在すると、何が嬉しいのか

最後に、この一件がなぜ大事なのかにふれておきたい。

いちばんの焦点は、「銀河の中心にいる超大質量ブラックホールは、そもそもどうやってあんなに重くなったのか」という大きな謎だ。いきなり太陽の数百万倍で生まれたとは考えにくい。もっと小さな種から、少しずつ育ったと考えるほうが自然だろう。

その途中段階こそ、中間質量ブラックホールにほかならない。もし中くらいのものが確かに存在するなら、それは「小さいブラックホールが育って、やがて銀河の中心の巨大なものになる」という道筋をつなぐ、ミッシングリンクになりうる。研究チームは、オメガ・ケンタウリのこの天体を、そうした成長を探るまたとない実験台と位置づけている。

私たちが今この瞬間に見ているオメガ・ケンタウリ中心部の光は、1万7700年かけて地球に届いたものだ。まだ人類が氷河期を生きていた頃、あの中心を出発した光である。

その古い光のなかに、逃げ出すはずの星をつかんで離さない、見えない一点が隠れていた。そしてそれを暴いたのは、20年前の写真の片隅に写っていた、ほんのわずかな星の動きだった。