ゴロは、まわり町のまん中の席が、ほしくてほしくてたまらなかった。

その席には四十年、ツル婆さんが座っている。まわり町では、いちばん重い者がまん中に座る決まりだった。そして重い者のところへは、町じゅうの物がひとりでに転がり寄っていく。だまっていても、寄ってくるのだ。

まわり町は、大きな皿の上に乗っていて、いつまでもゆっくり回っている。もっとも、この町で人の顔をまともに覚えている者なんて、たぶんいない。みんな回っているのだから、見えるのは背中か横顔だ。縁のほうは振り回されて、うっかりすると屋根から飛ぶ。だから縁の家は、どこも屋根に縄を張っていた。

ツル婆さんも、姿はよく見えない。それでも、そこにいることだけは、みんな知っていた。なくし物も、もめ事も、迷い猫も、みんな婆さんのほうへ転がりこむ。町じゅうが、そうっと婆さんのほうへ傾いているのだった。

ゴロというのが、まあ、声の大きい男だった。声は大きいのに、なぜか、だれの心にも残らない。「おれは、いつかまん中に座る」と毎日どなっても、聞いた者はもう忘れている。ゴロの家のまわりでは、ビー玉を置いても、つうっと縁へ逃げていく。ため息ひとつ、寄ってこなかった。

そこである年、ゴロはこつこつ仕込んだ。近所の子に飴をやって、ビー玉をわが家の庭へ転がしてもらう。金を貸しては「借りは祭りで返してくれりゃいい」と、恩を庭にためこむ。夜中にはそっと、みんなの水がめを自分のほうへ傾けておいた。

まわり祭りの朝、広場の傾きを見て、みんなが目を丸くした。町じゅうの物が、ゴロの家のほうへずるずる寄っていく。ビー玉も、小銭も、落ち葉も。重さを測る帳面の目もりが、するするとゴロの名の側へ動いた。どうやら今年いちばん重いのは、ゴロらしい。

「ゴロさんが、まん中?」 「へえ。あの、声だけの」

ゴロは胸をそらせて、まん中へ歩いていった。四十年ぶんへこんで、婆さんの形の穴があいた座布団。その横で、ツル婆さんが、ぼんやり空を見ている。もっとも、まん中は偉いわりに、退屈な席なのではないか。風も、祭りの輪も、ここには来ないのだから。

「婆さん。悪いね。今日から、ここはおれの席だ」

ツル婆さんは、しばらくゴロを見た。それから、なんだか、ぱっと顔を明るくした。

「……いいのかい。ほんとに、かわってくれるのかい」

「なんだよ、未練がましいな」

「ちがうって」婆さんは、よっこらしょと腰を浮かせた。「四十年だよ。あたしゃ、いっぺんも祭りの輪に入れなかった。ここはね、動けないんだ。干し柿なんか、四十年、いっこも乾かなかったよ」

ゴロは、まだ笑っている。婆さんの言うことが、うまく飲みこめないのだ。

「立てないんだよ、坊主」

婆さんはゴロの肩をぽんと叩くと、皿の傾きにひょいと身をあずけた。そのまま軽々と、縁のほうへ転がっていく。祭りの輪の中へ、婆さんの笑い声が遠ざかっていった。

まん中に、ゴロひとりが残った。

風は、来ない。祭りの輪は、ずっと遠くを回っている。立ち上がろうとすると、皿がぐらりと傾いて、縁の家々が悲鳴をあげた。しかたなく、ゴロは座りなおす。

町じゅうの小銭が、落ち葉が、だれかのため息が、いつのまにかゴロのほうへ寄ってくる。ひとつ、またひとつと、転がり寄ってきていた。

さっそく、隣のヨシが、両手にもめ事をかかえて回り込んできた。そうしてゴロの前に、どすんと腰を下ろす。まん中の人に相談するのが、この町の決まりなのだ。

「ゴロさん。ちょっと、聞いてくれよ」