太陽を大人ひとりの体重だとすると、この天体はゆで卵2個分ほどしかない。それでも研究者たちは、これを「惑星」ではなく「星のなりそこない」の側に数えている。

約1000光年先で、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が木星のわずか2倍という軽い天体を見つけた。知られているなかで、最も軽い褐色矮星(かっしょくわいせい・星になりきれなかった中間の天体)の候補だ。

木星2個分で、なぜ惑星ではなく星の仲間なのか。そもそも、星と惑星の線引きはどこにあるのか。ちょっと一緒に追いかけてみてほしい。

太陽から木星までを重さの順に並べ、IC 348の天体が木星のすぐ隣に位置することを示した図

木星2個分の重さで、なぜ星の仲間なのか

見つかった場所は、ペルセウス座の方向にあるIC 348という星形成領域だ。地球から約1000光年。ガスとちりが濃く集まり、若い星が次々と生まれている現場である。

そこにウェッブが赤外線の目を向けたところ、これまで見えなかった暗い天体がいくつも浮かび上がった。NASAとESAの発表によれば、そのなかで最も軽いものは木星の約2倍、太陽の0.19%という質量だった。

数字だけ見てもピンとこないと思う。太陽を体重60kgの大人ひとりにたとえると、この天体はおよそ114g。ゆで卵2個ぶんの重さしかない。

にもかかわらず、これは惑星ではない。ここが今回の話のいちばん妙なところだ。

惑星と呼ぶには、ふつう「親となる星のまわりを回っている」という条件がいる。ところがこの天体は、どの星にも属さず、たった一つでガス雲のなかに浮かんでいる。親がいないのだ。

では星なのかというと、それも違う。星と呼ぶには軽すぎる。どっちつかずのこの中間帯にいる天体を、天文学では褐色矮星と呼ぶ。問題は、その中間帯にも「これより軽いと成立しないはず」という下限があると考えられてきたことだ。今回の発見は、その下限をさらに押し下げてしまった。

星と惑星のあいだには「燃やせるか」の崖がある

星と惑星を分けているのは、大きさや見た目ではない。中心で核融合の火がつくかどうか、この一点だ。

星は、自分自身の重さで中心がぎゅうぎゅうに潰れる。潰れて温度と圧力が十分に上がると、水素が核融合を始めて光り出す。太陽がこうこうと輝いているのは、この火が燃え続けているからだ。

ところが軽い天体は、中心を潰す力が足りない。太陽の約8%(木星のおよそ80倍)より軽いと、水素の核融合に火がつかないとされる。この線を下回った瞬間、天体は「恒星」の資格を失う。

質量が下がるにつれて水素の核融合、重水素の核融合の順に火がつかなくなることを示した図

面白いのはここからだ。水素の火がつかなくても、もう少しだけ軽い燃料なら燃やせる時期がある。重水素(じゅうすいそ・水素の重い仲間)だ。木星のおよそ13倍より重ければ、若いうちに重水素をわずかに燃やせると考えられている。

つまり質量を下げていくと、崖が二段ある。まず太陽の8%で水素の火が消え、さらに木星の13倍あたりで重水素の火も消える。この二つの崖にはさまれた帯にいるのが、褐色矮星というわけだ。

ところが今回IC 348で見つかった天体は木星の約2倍。重水素すら燃やせない、二段目の崖よりさらに下にいる。それでも褐色矮星に分類されるのは、生まれ方が惑星とは違うと考えられているからだ。

星のように生まれたのか、惑星のように生まれたのか

ここで問いが「何を燃やすか」から「どう生まれたか」に移る。白状すると、この切り替わりが今回いちばん頭を使うところだった。

星のような天体には、生まれ方が二通りある。

一つは、ガスとちりの雲が自分の重力で縮んでいく道。雲の一部が周りより濃くなると、そこがどんどん物を集めて塊になり、やがて中心に火がつく。恒星はこうして生まれる。褐色矮星も、この「縮む雲」から星と同じようにできると考えられてきた。

ガス雲が縮んでできる星の生まれ方と、星のまわりの円盤で育つ惑星の生まれ方を並べた図

もう一つは、すでに輝いている星のまわりにできた円盤のなかで、ちりが少しずつくっついて育つ道。木星のような惑星はこちらだ。親星のおまけとして、円盤の材料から組み上がっていく。

問題は、ガス雲が縮んで星をつくる方式には「これより軽い塊はつくれない」という下限があるとされてきたことだ。研究チームによれば、木星の数倍という軽さは、その下限すれすれか、それを割り込んでいる可能性がある。

親星を持たず、たった一つで浮かんでいる以上、円盤で育った惑星とは考えにくい。となると星と同じ「縮む雲」からできたはずだが、それにしては軽すぎる。この板挟みこそ、今回の発見が星のでき方のモデルに突きつけた難問だ。

1000光年先の暗い天体を、ウェッブはどう見つけたか

そもそも、木星2個分の暗い天体を約1000光年先で見つけること自体が、これまで難しかった。

光年という単位に少し立ち止まってほしい。1光年は光が1年かけて進む距離だ。秒速30万kmの光でも、1000光年先の光景は1000年前に出発した光でできている。この天体をいま見ているのは、平安時代の終わりごろに放たれた赤外線というわけだ。

そんな遠くの、しかも自ら強く光らない天体は、可視光ではほとんど見えない。ここでウェッブの赤外線の目が効いてくる。冷たく暗い天体でも、赤外線ではぼんやりと熱を放っているからだ。

観測は二段構えだった。NASAとESAの発表によれば、2024年にまずNIRCam(近赤外線カメラ)でIC 348を撮影し、暗い候補を洗い出す。翌2025年にNIRSpec(近赤外線分光器)で、その候補から届く光を色ごとに分解した。

光を分解すると、天体の大気に何が含まれているかが読み取れる。ここで研究チームは、予想していなかったものに出くわす。

大気から出てきた予想外の分子

最も軽いいくつかの天体の光を分解したところ、炭化水素(たんかすいそ・水素と炭素だけでできた分子)の痕跡が現れた。

この特徴は、いちばん暗くて軽い天体でだけ強く出ていた。研究を主導したペンシルベニア州立大学のケビン・ルーマン氏とESAのカタリナ・アルベス・デ・オリベイラ氏らは、これらの天体が独自のスペクトル分類(光の指紋による分け方)を成すのではないかと報告している。

最も軽い天体の光を分解すると炭化水素の吸収が現れ、独自のスペクトル分類の候補となることを示した図

やや細かい話になるが、ここを飛ばすと後で効いてこない。恒星も惑星も、大気の成分によって光に固有の「谷」や「山」ができる。その形で天体を分類するのが分光の基本だ。今回見つかった炭化水素の谷は、既知のどのタイプにもきれいには当てはまらなかった。

これは観測から読み取れた事実であって、なぜそこに炭化水素が現れるのかはまだ解けていない。研究チームは、この分子が最も冷たい生まれたての褐色矮星の大気に自然に備わっているものだと考えている。ただし、その生成の仕組みは今後の分光観測にゆだねられている。

軽さの記録だけでなく、大気の「指紋」まで見慣れない形をしていた。星と惑星の中間帯の、さらに下の端には、まだ名前のついていない世界が広がっているのかもしれない。

境界線は、これからも引き直される

もしこの天体のそばに立てたとしても、太陽のような輝きは見えない。核融合の火はなく、あるのは冷えていく塊がにじませる、かすかな赤外線の温もりだけだ。星と呼ぶには暗すぎ、惑星と呼ぶには身寄りがなさすぎる。

私たちはつい、宇宙のものを「星」と「惑星」にきっぱり分けたくなる。でも実際の宇宙は、その二つの箱のあいだにグラデーションを敷いていた。木星の2倍という軽さは、そのグラデーションの、これまで見えていなかった端を照らし出した。

かつて冥王星が惑星の一覧から外れたときも、変わったのは天体ではなく、人間が引いた線のほうだった。今回もおそらく同じことが起きる。IC 348の小さな天体は、「どこからが星か」という問いの答えを、静かに書き換えにきている。

次にウェッブがこの帯をのぞくとき、木星2個分よりさらに軽い「なりそこない」が見つかるかもしれない。そのとき私たちは、星と惑星を分ける線を、また少しだけ引き直すことになる。