約400光年先で、いま惑星が組み上がっている。しかもそれは「できあがった惑星を見つけた」話ではなく、「作られている途中を押さえた」話だ。星の赤ちゃんならぬ、惑星の赤ちゃんの現場写真である。
舞台はケンタウルス座の方向にある若い星、PDS 70。この星をぐるりと取り巻くガスと塵の円盤に、ぽっかりと空いたすき間がある。そのすき間の中で光っていたのが、作られている最中の木星サイズの惑星だった。
正直、これを初めて知ったとき声が出た。惑星が「生まれる」という言い回しは比喩だと思っていたのに、本当にその途中が1枚に写っていたのだから。
円盤のすき間に、光る点がいた
2018年7月、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が「生まれたての惑星をはっきりとらえた」と発表した。使ったのは、チリにある超大型望遠鏡VLTに搭載された観測装置SPHERE(スフィア)。主星のまぶしい光を打ち消して、すぐ隣の暗い天体をあぶり出す装置だ。
写っていたのは、PDS 70を取り巻く円盤のすき間に浮かぶ、ひとつの光点。研究チームはこれを形成途中の惑星PDS 70 bと確認した。
ここで引っかかってほしいのは「はっきり」と「確認した」という言い方だ。実はこれまでにも、円盤の中に惑星らしきものが見えた例はあった。ではなぜ、この1枚だけが特別なのか。
「候補」と「現場」は、まるで違う
若い星のまわりの円盤には、うねりや輪や影がいくらでも現れる。そこにぽつんと明るい点が見えても、それが本物の惑星なのか、ただの円盤の模様なのかは、長いこと決めきれなかった。
発見を率いたミリアム・ケプラー氏は、その難しさをこう表現している。これまでの惑星候補の多くは、円盤の模様にすぎなかった可能性がある、と。つまり「候補」止まりだったのだ。
ところがPDS 70 bは違った。惑星が自分の通り道の材料を吸い集め、円盤にすき間を掘っている。そのすき間の中に、ちょうど収まるように光点がいる。すき間そのものが「ここに惑星がいる」という証拠になっていた。
しかも、この光点は1回の観測で終わらなかった。別のチームが追観測で天体の色や明るさを調べ直し、円盤のうねりではなく本物の惑星らしい性質を持つことを確かめている。見間違いではないか、何度も疑ってかかった上での「確認」だった。
妙な話だが、惑星は自分がいた跡を掃除機のように残していて、それが決め手になった。模様かもしれない点ではなく、周りを片づけながら育っている現場。この差は大きい。
木星の数倍、表面1000℃の赤ちゃん惑星
では、その惑星はどんな姿なのか。ESOによると、PDS 70 bは木星の数倍の質量を持つガス惑星で、表面温度はおよそ1000℃。スペクトルの分析からは、雲のある大気があることまで読み取れている。
生まれたてといっても、ひんやりした卵のようなものではない。周りのガスや塵が惑星に落ち込むとき、その勢いが熱に変わる。材料がどんどん降り積もる現場は、1000℃という高温でぎらぎらと光っている。言いかえると、PDS 70 bが明るく見えるのは、まさに成長している最中だからだ。すでに完成して冷えた惑星なら、ここまで目立たない。
距離の話をすると、もっと実感がわく。PDS 70 bは主星からおよそ30億km離れている。これは、太陽から天王星までの距離とだいたい同じだ。
30億kmと言われてもピンとこないが、光でも片道2時間40分ほどかかる距離だ。地球から太陽までが光で8分だから、その20倍ほど外側ということになる。そんな辺ぴな場所で、惑星が材料を集めて居すわっている。
ここで少し立ち止まってほしい。もしあなたがこの惑星のそばに浮かんでいたら、見えるのはおそらく赤くぎらつく巨大なガスの塊と、そこへ絶え間なく落ちていく塵の雨だろう。惑星が「完成品」ではなく「工事中」だということが、目の前で起きている。
2番目の惑星は、衛星まで作りかけていた
面白いのはここからだ。PDS 70には、惑星がもう1つあった。
その後の観測で、同じすき間の中に2番目の惑星PDS 70 cが見つかる。そして2021年、ESOはアルマ望遠鏡(ALMA)による成果を発表した。PDS 70 cのまわりに、周惑星円盤(惑星自身を取り巻く小さな円盤)がはっきり写ったのだ。
この小さな円盤がどれくらいの大きさかというと、直径は太陽から地球までの距離ほど。しかも、月サイズの衛星を最大で3つ作れるだけの材料があるという。
惑星が生まれている現場で、その惑星がさらに衛星のゆりかごを抱えている。木星にガリレオ衛星がついているように、衛星系が組み上がる前の段階を、私たちは外から眺めていることになる。
白状すると、惑星と衛星は別々にできるものだと長いこと思い込んでいた。実際には、惑星が育つのと並行して、そのまわりで月の材料も渦を巻いている。入れ子の工事現場、とでも言えばいいだろうか。
この周惑星円盤をとらえたのは、電波でガスや塵をすかし見るアルマ望遠鏡の目だった。可視光のSPHEREが惑星そのものを光点として写し、電波のALMAが周りの材料を描き出す。波長の違う望遠鏡を重ね合わせることで、1つの現場が立体的に見えてくる。
なぜ「途中」を見られるのが、そんなに貴重なのか
惑星がどうやって生まれるかは、長い間、理論と間接的な証拠から組み立てられてきた。塵が集まり、固まり、やがてガスをまとって巨大惑星になる——その筋書きはあっても、実際に進行中の現場を押さえた例はほとんどなかった。
PDS 70が貴重なのは、その筋書きの途中段階を、候補ではなく確定した現場として見せてくれる点にある。惑星の性質を詳しく調べたチームを率いたアンドレ・ミュラー氏も、惑星形成の仕組みを本当に理解するには、若い星の円盤の中にいる惑星を直接見る必要があった、と述べている。
私たちの太陽系も、46億年前には同じようにガスと塵の円盤から始まったと考えられている。地球も木星も、かつては円盤のすき間で材料を集めていた時期があったはずだ。その現場は遠い昔に消えてしまったけれど、PDS 70を見れば、太陽系の赤ちゃん時代に似た光景が今まさに進行している。自分たちの故郷の生い立ちを、別の家で再生して見ているようなものだ。
身近に引きつけるなら、これは赤ちゃんの超音波写真に近い。生まれてからの姿を何枚撮っても、お腹の中で育っていく途中の1枚にはかなわない。PDS 70は、惑星にとってのその「胎児エコー」なのだ。
ただし、注意したい区別がある。すき間に惑星がいることと、明るさや温度は観測された事実だ。一方、材料がどんな速さで降り積もり、この先どんな惑星に育つかは、研究チームがモデルから推定している部分が大きい。写真に未来までは写っていない。
今見ている1枚は、江戸時代の光
最後に、距離の話をもう一度。PDS 70は約400光年の彼方にある。いま望遠鏡に届いている光は、約400年前にあの円盤を出発したものだ。地球でいえば、江戸時代の初めごろの光である。
つまり私たちが「生まれかけの惑星」として見ているのは、すでに400年前の姿。その後の400年で、PDS 70 bはさらに材料を集め、もう少し重く、もう少し惑星らしくなっているかもしれない。けれど、その「今」の光が届くのは400年後だ。
夜空のどこかで、惑星が組み上がっている途中の光が、いまこの瞬間も地球に向かって飛んできている。できあがった星空の裏側で、工事はまだ続いている。