正直、これを知ったとき「あの地味な星が?」と思った。

宇宙で最もありふれた星、赤色矮星。暗くて小さくて、望遠鏡がないと見えないようなやつが、実は自分の惑星をこっそり飲み込んでいた。そしてその「食事の証拠」が、リチウムというごく普通の元素に残されていたという話だ。

2026年5月、キール大学とエクセター大学の研究チームが王立天文学会の専門誌に発表した研究が、惑星形成の常識をひっくり返しつつある。


宇宙で最も多い星、赤色矮星とは

夜空の星の75%以上は赤色矮星と呼ばれる種類だ。

質量が太陽の8〜60%ほどで、表面温度は3,700 K(ケルビン)以下。見た目はオレンジがかった暗い赤で、肉眼で見えるほど明るくなることはまずない。でも「地味」というだけで興味深さがないわけではなく、むしろその内部構造がなかなか面白い。

普通の星は内部が「コア(核)」と「外層」に分かれていて、互いにあまり混ざり合わない。太陽もそうだ。ところが赤色矮星は内部全体が対流している。鍋の中の熱い液体のように、内側の物質が表面まで入れ替わり続ける「完全対流型」の構造なのだ。

これが今回の発見のカギになる。

赤色矮星の種類と特徴

さらに赤色矮星の寿命は途方もなく長い。太陽がおよそ100億年で燃え尽きるのに対して、赤色矮星の一部は数兆年もかけてゆっくり燃え続ける。宇宙の現在の年齢が約138億年だから、今まで生まれた赤色矮星はまだ1本も「老衰死」していない計算だ。


リチウムが「食事の証拠」になる仕組み

ここでリチウムの話をしなければならない。

リチウムは軽い元素で、宇宙誕生直後のビッグバンで水素・ヘリウムと一緒に少量作られた。星が誕生するとき、このリチウムが内部に取り込まれる。そして、ここが重要な点だが、赤色矮星の内部は非常に高温で、リチウムは核融合反応によってあっという間に燃やされてしまう。

完全対流型の赤色矮星では、表面のリチウムも早晩コアに引き込まれて消費される。だから正常な赤色矮星のスペクトルを見ると、リチウムの輝線はほぼ検出されない、あるいはかなり弱い。

「なのに、リチウムが多い赤色矮星が見つかった」

これが今回の研究チームが突き止めたことだ。

チームはGaia-ESO分光調査(GES)というデータベースを使って数千個の星のスペクトルを調べた。すると3つの若い星団の中に、リチウムの輝線が異常に強い赤色矮星が6個見つかった。通常ではありえないほどの濃度だ。

原因として考えられることはひとつ。外からリチウムが補充されたのだ。惑星物質には岩石や金属だけでなくリチウムも含まれており、星が惑星を飲み込めばそのリチウムが星の内部に加わる。完全対流の赤色矮星なら、その物質はすぐに表面まで混ざり上がってくる。スペクトルで検出できる形で。

リチウムが証拠になる仕組み

研究チームの計算によれば、6個の赤色矮星それぞれが、地球の質量3〜10倍分に相当する惑星物質を吸収したとみられる。「地球が3〜10個ぶん」飲み込まれた、ということだ。


なぜ惑星は星に落ちてしまうのか

惑星が安定して軌道を回り続けるのが当たり前に思えるが、実は「落ちない」方が特別な条件が揃った結果だ。

惑星系が誕生して間もない頃、まだたくさんのガスやチリが漂っている。その中で惑星が形成されると、軌道が不安定になりやすい時期がある。特に内側の軌道にいる岩石惑星は、重力の揺らぎや潮汐力の影響で軌道が内側に収縮していくことがある。

いわゆる「軌道マイグレーション」だ。惑星が少しずつ内側に移動し、最終的に星に近づきすぎて大気を剥ぎ取られ、最後は丸ごと吸収される。理論的にはずっと前から予測されていたが、その「現場の証拠」が赤色矮星では今まで直接つかめていなかった。

ただし今回の6個は、普通の赤色矮星よりリチウムが多いだけで、別に特殊な状況に置かれていたわけではない。むしろ「これが標準的な過程」なのかもしれないと研究者たちは話している。つまり惑星を飲み込むことは、赤色矮星の一生において珍しくない出来事だというわけだ。

惑星が飲み込まれるプロセス


太陽も同じことをしていた可能性

面白いのは、この発見が太陽系の過去に向けて投げかける問いだ。

太陽のリチウム量は、誕生時と比べて現在では約100分の1にまで減っている。この減少の一部は核融合による消費で説明できるが、全部を説明するには足りないという指摘が以前からあった。

今回の赤色矮星の発見は「太陽も初期に何らかの惑星物質を取り込んだのではないか」という仮説に、間接的な後押しをする。太陽は完全対流型ではないので赤色矮星ほどきれいな証拠は残らないが、太陽系の内側にあったはずの原始惑星の一部が太陽に落ちたとしたら、現在のリチウム量のパズルをある程度解けるかもしれない。

ちなみに地球や火星は今のところその心配はない。安定した軌道を保てているのは、たまたまではなく、木星の存在が外側からの天体を遠ざけてくれているおかげでもある。


星の「食歴」を読む、新しい天文学

スペクトルから元素を読み取るという手法は、今に始まったことではない。19世紀から使われている古典的な技術だ。でも「リチウムの過剰が惑星を飲み込んだ証拠」というアイデアを、これだけ多数の星で系統的に確認したのは今回が初めてに近い。

Gaia-ESO分光調査は欧州南天天文台の大型望遠鏡を使って数万個の星のスペクトルを集めた巨大プロジェクトだ。一つ一つは地味な元素データの蓄積に見えるが、それを横断的に解析すると「あの星は惑星を食べた」というおおよその食歴が読めてしまう。

研究チームの一人は「私たちは星の過去の食事を記録した帳簿を読んでいるようなものだ」と表現している。うまい言い方だと思う。

今後、同様の調査がより大きなサンプルで行われれば、どの種類の星がどのくらいの頻度で惑星を吸収するのかの統計が取れるようになる。それは惑星系の生存率——つまり「生命が宿れる環境が宇宙でどのくらいあるか」——という問いにも繋がってくる。


地味な星が、実は一番のドラマを持っていた

赤色矮星は小さくて暗くて地味だ。肉眼では見えないし、たとえ望遠鏡を向けても太陽のような迫力はない。でもその数が宇宙最多であり、その内側では惑星の運命を握るドラマが淡々と続いている。

「地味で多い」というのは、意外と宇宙の本質を握っていることが多い。赤色矮星のリチウムが教えてくれたのは、惑星と星の関係は「安定して当たり前」じゃないということかもしれない。

地球が今も軌道の上にあるのは、なかなかすごい話なのだ。