銀河の星を数えると、およそ73%がM型星(赤色矮星)という小さな星だ。次に多いK型が14%、われらが太陽が属するG型はわずか7%しかない。つまり宇宙の星のほとんどは、太陽よりずっと小さくて暗い赤い星なのだ。
しかも最近の観測では、M型星の周りにも地球に似た岩石惑星がたくさんあることがわかってきた。数だけ見れば、生命が宿っていそうな場所は銀河に溢れている。
ところが話はそう単純じゃない。M型星は小柄なくせに、ときに恐ろしい暴れ者になる。
「フレア」とはなにか
恒星のフレアとは、磁場が急激に解放されることで起きる爆発現象だ。太陽でも月に数回起きるが、M型星のフレアは規模も頻度も桁違いになることがある。
太陽フレアの最大規模は、過去記録された「キャリントン・イベント」(1859年)が目安として引き合いに出される。これほどの規模が地球を直撃すれば、現代の電力網や通信インフラは壊滅的な打撃を受けるだろうと言われている。M型星はこれを大幅に上回るフレアを、しかも何日かおきに起こしてしまうことがある。
エネルギーの源は磁場の強さだ。M型星は対流(内部でぐつぐつと混ざり合う動き)が星全体に及んでいるため、強くて複雑な磁場が生まれやすい。磁場がよじれてぶつかり合うと、溜まったエネルギーが一気に解放される。これがフレアだ。X線や紫外線などの高エネルギー放射が、数分から数時間にわたって爆発的に放出される。
「頻繁にフレアを起こす若いM型星では、1時間で太陽の何年分ものエネルギーが出ることもある」というデータもある。若い星ほど活動が激しく、100億年以上生きられるM型星は、若い時期だけで人類の歴史より遙かに長い時間をフレア全盛期として過ごす。
ハビタブルゾーンが近すぎる
問題は距離だ。
「ハビタブルゾーン(居住可能領域)」とは、惑星の表面に液体の水が存在できる温度範囲のこと。M型星は太陽より表面温度がずっと低い(2,400〜3,700 K。太陽は約5,800 K)ため、ハビタブルゾーンが星のすぐ近くになる。
太陽系では、ハビタブルゾーンはおよそ0.95〜1.37 AU(1 AUは地球と太陽の平均距離、約1.5億km)。地球はほぼ真ん中にいる。
M型星のハビタブルゾーンはこの10分の1以下、0.1〜0.4 AU程度だ。惑星が太陽の数倍も近い場所を公転することになる。これは惑星にとって二重の苦難をもたらす。
ひとつは、フレアの直撃を受けやすいこと。距離が近ければ放射のエネルギー密度は距離の2乗に反比例して増す。半分の距離なら4倍、3分の1の距離なら9倍の強さで高エネルギー放射を浴びることになる。
もうひとつは「潮汐固定」だ。惑星が星の近くを公転すると、星の重力によって惑星の自転と公転の周期が一致するよう引っ張られる。月が常に同じ面を地球に向けているのと同じ原理で、惑星の片側が永遠に星を向いたまま固定されてしまう。昼側は常に灼熱で、夜側は永遠の極寒。それが大気の循環や磁場の形成を複雑にする。
大気という盾が削られていく
生命にとって大気は不可欠だ。気圧がなければ水は蒸発するし、オゾン層がなければ有害な紫外線が表面に直接届く。
M型星のフレアが問題なのは、この大気を少しずつ剥ぎ取っていくからだ。強い高エネルギー粒子が惑星の上層大気に叩き込まれると、大気成分が宇宙空間に吹き飛ぶ「大気散逸」が起きる。長い年月のあいだ繰り返されれば、もともとどれだけ厚い大気があっても、最終的にほぼ何もない状態になりうる。
2019年の研究では、月1回以上の大型フレアが起きるM型星の惑星では、オゾン層が完全に破壊される可能性が示された。オゾン層が消えた惑星の表面には、紫外線がそのまま降り注ぐ。DNA(遺伝情報を担う分子)はこのような紫外線に非常に弱く、生命が表面に定着するのはほぼ不可能になる。
火星がいい反例だ。火星はかつて大気を持ち液体の水が流れていたが、磁場を失い太陽風にさらされ続けた結果、大気が薄くなり水が蒸発した。もしM型星の惑星が磁場も弱く、フレアも頻繁なら、火星よりもっと激しいペースで大気を失うだろう。
磁場については、潮汐固定された惑星では内部の対流(磁場を作るエンジン)が弱まるという研究もある。自転が遅くなれば、発電機のように磁場を生み出す「ダイナモ」効果が弱まる。大気を守る盾と磁場の盾が同時に薄れていくわけだ。
それでも可能性が消えない理由
絶望的に見えるが、話はまだ終わっていない。いくつかの逆転の可能性がある。
ひとつは単純な確率論だ。M型星は銀河に圧倒的に多く、しかも寿命が数兆年に及ぶ。太陽の寿命は約100億年だが、小さなM型星は宇宙の年齢(約138億年)よりも長く生きられる。チャンスの窓が広ければ、条件が整った星と惑星の組み合わせも存在するかもしれない。
もうひとつは、生命が表面以外に存在する可能性だ。地球でも、熱水噴出孔のある深海底や地下数kmの岩盤の中に微生物が見つかっている。フレアの放射線は大気を突き抜けても、岩盤や水に数メートル入ればほぼ止まる。地下深くや海底の岩の下なら、フレアに関係なく安定した環境が保てるかもしれない。
2022年には意外な研究結果も出た。フレアからの紫外線が惑星の大気中で光化学反応を起こし、逆にオゾン分子を増やす可能性が示されたのだ。オゾン層が破壊されるのと、補充されるのとでどちらが勝つかは、惑星の大気組成と星のフレアパターンによって変わる。単純に「フレア多い=大気ゼロ」では済まない。
正直なところ、2026年現在でも答えは出ていない。M型星の惑星に生命が宿れるかは、天文学の最前線で最も熱い論争テーマのひとつだ。
JWSTが始めた大気の実況中継
突破口を開いているのがジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)だ。JWSTは惑星が星の手前を通過するとき(トランジット)、星の光が惑星の大気を通過する際の変化を観測できる。大気中の分子によって特定の波長の光が吸収されるため、どんな成分がどれだけあるかを知ることができる。
2025年には赤色矮星K2-18の惑星で大気組成の手がかりが捉えられている。K2-18はG型星より小さいM型に近い星で、周囲の惑星がハビタブルゾーン内にある。大気が残っているかどうかを詳細に測れれば、フレアの影響の実態がわかる。
さらに2020年代後半には超大型望遠鏡(ELT、口径約39m)が稼働する予定で、より近くのM型星の惑星大気を直接測定できるようになる。酸素・水・メタンといった生命の痕跡を示す分子を探すのに、これほど適した道具はない。
現在進行中の大きな問いを一言で言えばこうだ。「M型星の惑星は、大気を持ち続けられるか。」これが答えられた日、「系外惑星に生命がいる可能性」の議論は一気に前に進む。
まとめ
M型星(赤色矮星)は銀河で最も多い種類の星で、地球型惑星もたくさん持つ。しかし頻繁で強力なフレアと、ハビタブルゾーンが近すぎることで生じる潮汐固定が、惑星の大気を壊す可能性がある。大気が削られれば、生命には過酷な環境になる。
一方で、地下や海底という逃げ場があること、フレアがオゾンを補充する逆転の可能性があること、そして星の数が圧倒的に多いことから、可能性が完全に消えたとも言えない。JWSTとこれから稼働する超大型望遠鏡が、次の答えを観測データとして出すはずだ。
「一番多い星の周りに生命がいるかどうか」。それは宇宙における生命の分布を決定づける問いでもある。まだ誰も答えを知らない問いが、今まさに測られ続けている。