系外惑星のニュースを見ていると、必ずと言っていいほど出てくる言葉がある。「ハビタブルゾーン」。
日本語にすると「生命居住可能領域」。恒星から近すぎず遠すぎない、ちょうどいい距離の帯のことだ。ここに惑星があれば、水が液体のままでいられる。液体の水があれば、生命がいるかもしれない。そういうロジックで語られる。
けれど、この言葉、ちょっと雑に使われている気もする。「ハビタブルゾーンにある惑星=生命がいる星」みたいな図式で。
本当にそうなんだろうか。そこに惑星があれば、生き物が育つんだろうか。
2026年後半には、欧州宇宙機関(ESA)の PLATO という大型探査衛星の打ち上げが予定されている。26個ものカメラを載せて、何万個もの恒星をじっと見続ける計画だ。目的は「地球に似た惑星」を見つけること。だからこそ今、ハビタブルゾーンという言葉の中身を、もう一度ちゃんと見ておきたい。
「ちょうどいい距離」は星によって違う
まずシンプルな話から始める。ハビタブルゾーンは、恒星からの距離で決まる。
太陽の場合、だいたい地球の軌道を中心に、金星の少し外側から火星の軌道あたりまでの帯がそれにあたる。金星は内側すぎて熱すぎ、火星は外側すぎて寒すぎる。地球はちょうど真ん中あたりに収まっているわけだ。
ここで大事なのが、「星によって帯の位置がまるで違う」という点。太陽系だけで考えると、ゾーンは1つしかないように見える。ところが宇宙には、太陽よりずっと暗い星もあれば、もっと明るい星もある。
たとえば赤色矮星という、表面温度3000度くらいの赤くて暗い星。これは太陽に比べて光が弱いから、惑星は星にぐっと近寄らないと暖かくならない。ハビタブルゾーンは星の目と鼻の先にある。
逆にF型星という、表面温度6500度くらいの青白くて熱い星。ここでは惑星は遠く離れていないと焼かれてしまう。ゾーンは遠くて広い。
ここまでは、距離だけを見た話だ。
距離が合っていても、水が消える惑星
ところが。「ちょうどいい距離」にあっても、水がない惑星はいくらでもある。
いちばんわかりやすい例が金星だ。金星は太陽系のハビタブルゾーンの内縁、ぎりぎりのところにいる。厳しく定義すれば外だけど、ちょっと緩めればゾーンに入る。
それなのに、表面温度は摂氏460度。鉛が溶ける熱さだ。水どころか、岩の表面まで焦げているような世界。なぜか。
金星は分厚い二酸化炭素の大気を抱え込んでしまった。この大気が強烈な温室効果を生んで、熱を逃がさない。太陽からの距離で本来出るはずだった温度より、はるかに高温になっている。
一方、火星はゾーンの外縁近くにいる。やや寒い側だ。昔はそこに川が流れていた証拠が残っていて、液体の水があった時期があるのはほぼ確実。なのに今はカラカラの赤い砂漠になっている。
火星で何が起きたか。磁場を失った。地球が持っている地球磁気圏のようなシールドが弱まり、太陽風が大気を少しずつ剥がしていった。大気が薄くなると気圧が下がり、水はあっても蒸発して宇宙に逃げてしまう。
つまり、同じハビタブルゾーンにあっても、惑星の側の条件でこれだけ運命が分かれる。
大気・磁場・自転 ── 見えない3つの条件
水を地表に留めておくには、距離のほかに少なくとも3つの条件が要る。
ひとつ目が大気。厚すぎず薄すぎない、ちょうどいい毛布。これがないと、昼夜の温度差が凶悪なことになる。温度がフラットに保てるから液体の水が存在できる、というほうが正確な言い方かもしれない。
ふたつ目が磁場。惑星の中心で溶けた金属がぐるぐる動くと、磁場が生まれる。この磁場が、恒星から吹き付ける荷電粒子の風(恒星風)をそらしてくれる。磁場が弱いと、大気も水もじわじわと宇宙に持っていかれる。火星がまさにそうなった。
みっつ目がほどよい自転。惑星が一定の周期でくるくる回っていれば、昼と夜が交代で来る。表面の温度が平均化されるし、風や水の循環も生まれる。
逆に、片面だけが恒星を向き続ける「潮汐ロック」状態だと、昼側は灼熱で水が蒸発し、夜側は極寒で凍りつく。水は液体でいられる領域が極端に狭くなる。
このあたりは、赤色矮星のハビタブルゾーンでよく問題になる。星に近すぎるから、潮汐ロックしやすいのだ。
ゾーンの外にも「水の世界」がある
ここからが面白いところ。
ハビタブルゾーンという言葉は、もともと「惑星の表面に液体の水がある条件」を念頭に置いている。太陽光で表面があたためられて、水が液体でいるかどうか、という話だ。
でも、地球以外に水が液体でいる場所を、太陽系はもう見つけてしまっている。しかも、ゾーンの外で。
木星の衛星エウロパ。土星の衛星エンケラドス。どちらもハビタブルゾーンからはるか外側、マイナス170度の凍りついた表面を持つ氷の星だ。
ところが、その氷の殻の下に、液体の水の海があることがほぼ確実だとわかってきた。エンケラドスに至っては、氷の裂け目から水蒸気が噴き出していて、探査機がその噴出物の中を通り抜けて、有機物まで検出している。
なぜ凍っているはずの星の中に液体の水があるのか。熱源が恒星じゃないからだ。
これらの衛星は、木星や土星の巨大な重力に引っ張られて、内部の岩石がねじれたり戻ったりしている。その摩擦熱で、中心近くの岩石があたためられる。岩と氷の境目では、氷が溶けて水になる。
つまり、「表面があたたかくなくても、内部で熱があれば水は液体でいられる」。
これを素直に受け止めると、ハビタブルゾーンは「地球人がわかりやすいからそう呼んでいる、ごく一部の条件」に過ぎない、ということになる。宇宙で生命が住めるかもしれない場所は、もっとずっと広い可能性がある。
PLATO が次に探すもの
話を系外惑星に戻そう。PLATO という衛星は、何を探すのか。
「ハビタブルゾーンに岩石の惑星があるかどうか」。これが出発点だ。ただ、単に「距離が合っている惑星」を探すわけじゃない。もう一歩踏み込んだ情報を取る。
ひとつは、惑星の密度。明るさがどれくらい暗くなるかで惑星の大きさがわかり、星のふらつきから質量がわかる。この2つで密度が出る。密度がわかれば、岩石の惑星なのか、ガスの惑星なのか、水の世界なのかが区別できる。
もうひとつ、PLATO が得意なのが恒星の年齢測定。星の表面には細かな振動があって、その揺れ方を詳しく調べると、その星が生まれてどれくらい経っているかがわかる。
なぜ年齢が大事か。生命が進化するには時間がいるからだ。地球で単細胞生物が生まれてから、われわれのような複雑な生き物が出てくるまで30億年以上かかっている。
星があまりに若ければ、惑星がまだ熱々で生命どころじゃない。星が年寄りすぎて死にかけなら、もうすぐ環境が激変する。その星が「生き物が育つ時間を持てるか」が、距離と同じくらい大事な条件になる。
PLATO は、「岩石の惑星で、水の帯にあって、星が十分に長生き」という三拍子そろった候補を探すわけだ。そのあとで、もっと高感度の望遠鏡でその惑星の大気を調べる、という手順が考えられている。
「住める」のハードルは下がり続けている
ここまで見てくると、ハビタブルゾーンという考え方が、昔よりずっと複雑になってきたのがわかる。
最初の定義はシンプルだった。「恒星からの距離で、水が液体でいられる帯」。この定義は今でも生きているし、系外惑星探しの最初のフィルターとして便利だ。
けれど、実際には距離以外の条件が山ほど絡んでくる。大気があるか、磁場があるか、自転はどうか。それに加えて、表面じゃなくて内部に目を向ければ、ゾーンの外まで水の世界は広がっている。
僕個人として一番そそられるのは、ここだ。ハビタブルゾーンの外側、氷の下の暗い海。そこに本当に生き物がいるなら、光のない世界で何をエネルギー源にしているんだろう。地球の深海の熱水噴出孔のまわりにいる生き物みたいに、化学エネルギーで生きているのかもしれない。
われわれが「住める場所」と呼んできた範囲は、どうやら宇宙全体のごく一部だけを切り取った、人間中心の地図だったらしい。
PLATO が動き出す2026年末以降、そしてその先の専用望遠鏡による大気観測の時代。「生き物のいる星は地球だけじゃなかった」と言える日は、意外と近いかもしれない。
そのとき、「ハビタブルゾーン」という言葉も、もっと広い意味で使われるようになっている気がする。星の周りのほんの狭い帯じゃなく、宇宙のあちこちに点在する、水のある場所のネットワーク全体を指す言葉として。
そう考えると、夜空を見上げたときの星の光が、ちょっと違って見えてくる。