6,000個の惑星、でも「地球」はゼロ
2026年の時点で、人類が確認した系外惑星の数は6,000個を超えた。木星みたいなガス巨大惑星、海王星サイズの氷の世界、恒星のすぐそばを猛スピードで周回するホットジュピター。さまざまなタイプが見つかっている。
ところが「地球とそっくりの星」は、まだ1つも確認されていない。
正確に言うと、「地球に似ているかもしれない候補」は70個ほどある。でも「似ている」と「そっくり」の間には、かなりの距離がある。地球と同じサイズで、同じような温度で、液体の水があって、大気の組成まで近い星。そんな条件をすべて満たす天体は、現時点ではゼロだ。
なぜ見つからないのか。答えはシンプルで、今の望遠鏡では「見えない」からだ。地球サイズの惑星は小さすぎて、遠くの恒星の前を横切っても信号がかすかすぎる。大気の成分を調べるにはさらに精度が必要になる。つまり技術の限界が「地球そっくりの星はない」という結論を生んでいるわけではない。まだ探しきれていないだけだ。
ハビタブルゾーンという「誤解されやすい言葉」
系外惑星の話で必ず出てくるのが「ハビタブルゾーン」。日本語だと「生命居住可能領域」と訳されることが多い。恒星からの距離がちょうどよくて、惑星の表面に液体の水が存在できる範囲のことだ。
太陽系で言えば、金星の軌道あたりから火星の軌道あたりまでがハビタブルゾーンにあたる。地球はその真ん中にいる。
ただし、この言葉はかなり誤解を招く。「ハビタブルゾーンにある=生命がいる」ではない。金星もハビタブルゾーンの内側ぎりぎりにいるけれど、表面温度は460度。硫酸の雲に覆われた灼熱地獄だ。火星もハビタブルゾーンの外側ぎりぎりだけど、大気が薄すぎて液体の水は保てない。
結局のところ、ハビタブルゾーンは「液体の水が存在する可能性がゼロではない」という程度の意味しかない。惑星の大気の厚さ、組成、磁場の有無、火山活動の程度。これらの要素がすべて揃わないと、水は液体のまま留まれない。
それでもこの指標が使われ続けるのは、恒星との距離だけで計算できるから。惑星の大気や磁場は遠くから測定するのが極めて難しい。だから「まずは距離で絞る」というのが現実的な戦略になっている。
地球にどれだけ似ているか ── ESIという物差し
もう少し精密に「地球との類似度」を測る指標がある。ESI(地球類似度指数)と呼ばれるもので、半径、密度、脱出速度、表面温度の4つのパラメータから計算する。値は0から1で、1に近いほど地球に似ている。地球自身のESIは当然1.0だ。
現時点で最もESIが高い系外惑星は、TRAPPIST-1eやKepler-442bなど。ESIは0.85前後。数字だけ見ると「かなり似ている」と思うかもしれない。でも0.85と1.0の差は、実際にはかなり大きい。
たとえばTRAPPIST-1eは、地球よりやや小さく、赤色矮星という暗い星を周回している。公転周期はわずか6日。つまり1年が6日で終わる。潮汐ロック(片面が常に恒星を向く状態)している可能性が高く、昼側は灼熱、夜側は極寒という極端な環境が予想される。
しかもJWST(ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)の観測によると、同じTRAPPIST-1系のd惑星には大気がなさそうだという結果が出ている。系全体が赤色矮星の強烈なフレアにさらされていて、大気がはぎ取られている可能性がある。
ESIが0.85でも、住み心地は地球とはまったく違うかもしれない。数値だけで判断するのは危険だ。
「見つけ方」が変わる ── ロマン宇宙望遠鏡の登場
これまでの系外惑星探索は、主にトランジット法(惑星が恒星の前を通過するときの減光を検出する方法)に頼ってきた。ケプラー宇宙望遠鏡はこの方法で2,700個以上の惑星を見つけた。
でもトランジット法には弱点がある。恒星のすぐ近くを周回する惑星ほど見つけやすく、地球のように恒星から離れた軌道の惑星は検出が難しい。偏ったサンプルになってしまう。
ここで登場するのが、2026年秋の打ち上げを目指すナンシー・グレース・ロマン宇宙望遠鏡だ。2025年11月に組み立てが完了し、現在は最終試験の真っ最中。打ち上げはSpaceX Falcon Heavyで行われ、地球から150万km離れたL2ポイント(ラグランジュ点)に配置される。
ロマン望遠鏡の最大の武器は、重力マイクロレンズ法という探索手法だ。手前の天体の重力が奥の天体の光を曲げるレンズ効果を利用する。この方法なら、恒星から遠い軌道の惑星も検出できる。
5年間のミッションで、1億個の星を観測し、2,500個以上の新しい系外惑星を発見する見込み。そのうち多くは岩石質の地球サイズの世界だ。マイクロレンズ法だけで1,000個以上の惑星が見つかると予測されている。これは同手法による発見数を5倍以上に増やすことになる。
さらにロマン望遠鏡にはコロナグラフという装置も搭載されている。恒星の光を遮って、その周りの惑星を直接撮影する技術だ。今まで直接撮影された系外惑星はほんの一握りしかない。コロナグラフが成功すれば、惑星の大気組成を調べる道が大きく開ける。
PLATOが狙う「太陽のような星の地球」
ロマン望遠鏡とほぼ同時期に、ESA(欧州宇宙機関)のPLATO計画も動き出す。26台のカメラを搭載した望遠鏡で、15万個以上の明るい恒星を同時に監視する。
PLATOの狙いは明確だ。「太陽のような星のハビタブルゾーンにある、地球サイズの惑星」を見つけること。ケプラーが暗い遠方の星を大量に調べたのに対し、PLATOは近くて明るい星に集中する。近い星の惑星なら、JWSTや次世代の望遠鏡で大気を詳しく調べられるからだ。
ここがポイントで、惑星を「見つける」だけでは足りない。その惑星に大気があるのか、水があるのか、生命の兆候はあるのかを確認するには、見つけた後の追跡観測が不可欠だ。PLATOは「追跡観測しやすい候補」を効率よく選び出すためのミッションとも言える。
2025年の研究では、地球質量の岩石惑星でもヘリウム主体の原始大気を保持できるケースがあることが分かっている。つまり「岩石惑星だから大気が薄い」とは限らない。惑星の多様性は、私たちの想像を超えている。
「地球そっくり」の定義を疑え
ここまで読んで気づいた人もいるかもしれない。「地球そっくり」という基準そのものが、かなり地球中心の発想だということに。
液体の水が生命に必要だという仮定は、地球の生命を観察した結果にすぎない。もしアンモニアやメタンを溶媒とする生命がいたら、ハビタブルゾーンの定義そのものが変わる。土星の衛星タイタンにはメタンの湖がある。木星の衛星エウロパには氷の下に液体の海がある。どちらもハビタブルゾーンの外にあるけれど、生命の可能性は真剣に議論されている。
さらに言えば、私たちは「惑星」にこだわりすぎているのかもしれない。衛星にだって生命はいるかもしれない。小惑星帯の微小天体に微生物がいないとは言い切れない。
系外惑星の研究が進むほど、「地球そっくりの星を探す」というアプローチの限界が見えてくる。本当に必要なのは、「生命が存在しうる条件とは何か」という問いそのものを更新し続けることだ。
これからの10年で見える景色
2026年から2030年代にかけて、系外惑星探索は一気に加速する。
ロマン宇宙望遠鏡が「恒星から離れた軌道の惑星」を大量に発見する。PLATOが「太陽に似た星の近くにある地球型惑星」の候補を絞り込む。JWSTがそれらの大気を分析する。三つの望遠鏡が役割分担しながら、系外惑星の全体像を描いていく。
そしてさらに先には、NASAの「ハビタブル・ワールズ・オブザバトリー(HWO)」構想がある。地球型の系外惑星を直接撮影し、大気中の酸素やメタンといった生命の痕跡(バイオシグネチャー)を検出するための、専用の大型宇宙望遠鏡だ。
「地球そっくりの惑星は見つかっていない」という文は、悲観的に聞こえるかもしれない。でも正確には「まだ見つけるための道具が揃っていなかった」だけだ。道具は今、急速に揃いつつある。
6,000個の系外惑星は、宇宙のほんの一部をかすめた結果に過ぎない。銀河系だけで数千億の恒星があり、その多くが惑星を持っている。統計的に言えば、地球に似た環境の星が「ない」ほうが不自然だ。
問題は「あるかどうか」ではなく、「いつ、どうやって確認するか」に移っている。答えが出るまでの時間は、おそらく私たちが思っているよりずっと短い。