太陽の半分以下の重さしかない、暗くて小さな赤い星。そのすぐそばを、ほぼ木星と同じ大きさのガス惑星が、たった39時間で1周している。理論上、こんな組み合わせはあり得ないはずだった。
正直、この天体のことを初めて知ったとき「え、それは無理では」と声が出た。研究者たちもほぼ同じ反応だったらしい。発見チームはこの星を「禁断の惑星(the forbidden planet)」と呼んだ。なぜ禁断なのか、そしてなぜそれでも実在するのか。ちょっと一緒に追いかけてみてほしい。
主役は地球から約285光年先の「赤い小人」
TOI-5205という星は、地球からおよそ285光年離れた場所にある。M型矮小星(しゅくしょうせい・赤色矮星とも呼ばれる、太陽よりずっと軽くて暗い星)の一種だ。
質量は太陽の約0.4倍。表面温度も低く、出している光は赤っぽい。宇宙にある恒星の大多数はこのタイプで、いわば銀河でいちばんありふれた「赤い小人」たちである。
そんな地味な星に、2023年、思いがけない発見が舞い込んだ。星のすぐ近くを回る、巨大なガス惑星TOI-5205bが見つかったのだ。発見したのはNASAの系外惑星探査衛星TESS。観測を主導したのはカーネギー科学研究所(当時)のShubham Kanodia氏らのチームだった。
この惑星、質量は木星とほぼ同じ(約1.08木星質量)、大きさも木星とほぼ同じ。つまり木星をそっくりそのまま、太陽の半分もない星のそばに置いたような姿をしている。これがどれほど奇妙なことか、順番に見ていこう。
星の光が7%も欠ける ── トランジット法の出番
そもそも、285光年も先の惑星をどうやって見つけたのか。使われたのは「トランジット法」という王道の手口だ。
惑星が星の手前を横切ると、星の光がほんの少し遮られて暗くなる。その小さな減光を捉えて、惑星の存在と大きさを割り出す。太陽系外惑星の多くはこの方法で発見されている。
ここで大事なのが、星と惑星のサイズの比だ。大きな星の前を小さな惑星が通っても、光はほとんど欠けない。逆に星が小さくて惑星が大きいと、光はごっそり減る。
TOI-5205bの場合、星の光が約7%も暗くなる。これは知られている惑星の中でもとびきり深い欠けだ。要するに、星に対して惑星が大きすぎる。子どもの手に大人用のグローブをはめたような、明らかにサイズが合っていない組み合わせなのである。
ちなみに公転周期は約1.63日。地球が太陽を1年かけて回るのに対し、この惑星は2日足らずで1周する。星のすぐ目の前を猛スピードで駆け回っているわけだ。
なぜ「禁断」なのか ── 惑星づくりの材料が足りない
ここからが本題。なぜこの惑星は「存在してはいけない」とされたのか。
巨大なガス惑星がどう生まれるかについて、いちばん有力なのが「コア集積モデル」という考え方だ。まず岩や氷の塊が少しずつ集まって核(コア)をつくる。その核が地球の約10倍ほどの重さに育つと、今度はまわりの水素ガスを一気に吸い込んで、木星のような巨大ガス惑星になる。
問題はその「材料」だ。生まれたての星のまわりには、ガスと塵でできた円盤(原始惑星系円盤)が広がっていて、惑星はそこから材料を集める。ところが星が軽いと、この円盤も小さくて、含まれる材料の量が少ない。
しかも円盤のガスは数百万年でなくなってしまう。小さな星の貧弱な円盤では、核が十分に育つ前にガスが消えてしまう ── だから木星級の巨大惑星はできないはず。これが長年の予想だった。
なのにTOI-5205bは、堂々とそこにいる。理論が「無理」と言った場所で、巨大惑星が実際に回っている。研究者が頭を抱えるのも無理はない。あの薄っぺらい円盤から、いったいどうやってこんな重い惑星をつくったのか。
追い打ちをかけたJWSTの大気観測
「存在自体が謎」というだけでも十分なのに、話はここで終わらなかった。今度は大気が研究者を悩ませることになる。
登場するのがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)。赤外線で宇宙を見るこの望遠鏡は、惑星の大気を「読む」のが得意だ。使うのは透過分光という技術である。
惑星が星の手前を通るとき、星の光のごく一部が惑星の大気をかすめて通り抜ける。このとき、大気に含まれるガスの種類ごとに特定の色(波長)の光が吸い取られる。その「欠けた色」を調べれば、大気に何が含まれているかがわかる。
惑星がどう生まれたかは、大気の組成にもヒントを残す。たとえば、できた場所や材料の集め方によって、含まれる元素の割合が変わってくる。だから研究者は、大気を読めば「禁断の惑星」が生まれた経緯がつかめるかもしれない、と期待した。
ところが観測されたデータは、すんなりとは理論におさまらなかった。形成シナリオから予想される姿と、実際の大気のようすがどうもかみ合わない。星の正体を探るための手がかりが、かえって新しい謎を増やす結果になったわけだ。
それでも実在する ── 答えはまだ出ていない
では、どう説明すればいいのか。研究者たちはいくつかの可能性を検討している。
ひとつは、コア集積モデルそのものをもっと柔軟に考え直すこと。小さな星でも、条件しだいでは円盤に予想以上の材料が集まり、短い時間で巨大惑星をつくれたのかもしれない。
もうひとつは、まったく別の作り方だ。たとえば、円盤の一部が重力で一気に崩れて惑星になる「重力不安定モデル」という説もある。ただ、これも小さな星では起きにくいとされていて、決め手にはなっていない。
正直に言うと、決定的な答えはまだ出ていない。TOI-5205bは「理論が現実に追いついていない」ことを突きつける、生きた反例なのだ。教科書どおりにいかない天体ほど、科学を前に進めてくれる。研究者がこの星に夢中になるのも、そこに尽きる。
まとめ ── 一つの例外が常識を揺さぶる
太陽の半分もない小さな赤い星に、ほぼ木星サイズの巨大惑星がへばりついている。理論では作れないはずの組み合わせが、285光年先で実際に回っている。
トランジットで星の光が7%も欠けるほど惑星は大きく、JWSTで大気をのぞいても予想とは食い違った。なぜ存在できるのか、いまも答えは宙に浮いたままだ。
宇宙には、こうした「教科書を破る一例」がときどき顔を出す。そのたびに人類は、自分たちの理解がまだ途中なのだと思い知らされる。TOI-5205bが投げかけた宿題に、誰がどんな答えを出すのか。次の観測が楽しみで仕方ない。