190光年先に、本来なら「ひとりぼっち」になるはずの巨大惑星がある。なのに、そのさらに内側で、小さな惑星がちゃっかり生き残っていた。

ホットジュピターという種類の惑星は、まわりの天体を重力でぶん投げて空っぽにしてしまうので、相棒を持たないのが普通だ。ところがTOI-1130という星系では、その「掃除屋」のすぐ内側に、海王星をひとまわり小さくしたような惑星が居座っている。あってはならない組み合わせが、現実に存在していた。

TOI-1130系では掃除屋のさらに内側に小さな惑星が残っている

「孤独」と呼ばれる惑星の正体

まず、主役を紹介しておこう。ホットジュピターとは、木星くらい大きいガスの惑星が、恒星のすぐそばをぐるぐる回っているものを指す。

どれくらい近いかというと、TOI-1130のホットジュピター(TOI-1130cと呼ばれる)は、恒星のまわりをわずか8日で1周してしまう。水星が太陽を1周するのに88日かかることを思えば、その10分の1以下だ。恒星にあぶられて、表面はとんでもない高温になっている。

問題はここからだ。これだけ巨大な惑星が恒星のそばにいると、その重力は近くを通る小さな天体を片っ端から散らしてしまう。だから理屈の上では、ホットジュピターの内側はがらんと空いているはずだった。

実際、これまで見つかったホットジュピターの多くは、近くに仲間を持たない「孤独な惑星」だった。掃除屋がいると、まわりは片づいてしまう。妙な話だが、巨大さがそのまま孤独の原因になっているわけだ。

なぜ内側は空っぽになるはずだったのか

ここで少し立ち止まってほしい。なぜホットジュピターの内側だと、小さな惑星は残れないのか。

カギは重力の取り合いにある。恒星のすぐ近くは、もともと天体が密集しやすい場所だ。そこに木星級の重い惑星が割り込むと、近くを回る軽い天体は重力に揺さぶられ、軌道が乱れていく。

軌道が乱れた天体の末路は、だいたい3つに分かれる。恒星に落ちて飲み込まれるか、巨大惑星にぶつかるか、はじき飛ばされて星系の外へ放り出されるか。どれにしても、内側にとどまり続けるのは難しい。

ふつうのホットジュピター系は内側がからっぽになるが、TOI-1130では小さな惑星が残った

つまり、ホットジュピターの「内側に小さな惑星が居る」というのは、掃除機をかけた直後の床にパンくずが残っているようなもので、本来なら見かけないはずの光景なのだ。白状すると、私はこの手の惑星は全部「掃除済み」だと思い込んでいた。

それでも残っていた、小さな相棒

その思い込みを崩したのが、TOI-1130という星系だった。

この星系が見つかったのは2020年。NASAの系外惑星探査衛星TESS(テス)が、星の明るさがわずかに暗くなる「またたき」を捉えたことがきっかけだ。惑星が恒星の前を横切ると、ほんの少しだけ星の光がさえぎられる。その明るさの落ち込みから、惑星の存在がわかる。

電灯の前を小さな虫が横切ると、目の端でほんの一瞬かげる。あれの天文版だと思えばいい。ただし相手は190光年先の星で、見張る側はその一瞬のかげりを取りこぼさないよう、衛星が根気よく星を見続ける。そうやって、直接は見えない惑星をあぶり出していく。

TESSのデータを解析したチームには、当時マサチューセッツ工科大学(MIT)にいたチェルシー・X・ファン氏らが加わっていた。彼らが見つけたのは、8日周期のホットジュピターだけではなかった。そのさらに内側を、たった4日で1周している別の惑星があったのだ。

内側の惑星(TOI-1130b)は、海王星よりひとまわり小さい「ミニ海王星」と呼ばれるタイプだった。ガスをまとった、地球より大きく木星より小さい惑星だ。

掃除屋であるはずのホットジュピターの、さらに内側。そこに小さな惑星が平然と回っている。研究者にとって、これは「なぜ片づけられなかったのか」という新しい謎の始まりだった。

大気を読むと、出身地が見えてきた

ここからが本題で、個人的にいちばん面白い部分だ。

謎を解く手がかりは、内側のミニ海王星の「大気」にあった。2026年、研究チームはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を使って、この惑星が恒星の前を横切る瞬間を観測した。惑星の大気を通り抜けてきた光を分析すると、どんな成分が含まれているかがわかる。

検出されたのは、水蒸気、二酸化炭素、二酸化硫黄、そしてメタンの兆候だった。研究チームによれば、これはミニ海王星としては初めて詳しく測られた大気組成だという。

大気に含まれる重い分子が、惑星が遠くで生まれた証拠になる

注目されたのは、こうした「重い分子」がそれなりに多く含まれていた点だ。研究チームは、この組成は惑星が今いる場所で生まれたとは考えにくいと指摘している。

惑星のもとになる材料には、温度によって大きな差がある。恒星から十分に離れた寒い領域(フロストラインの外側)では、水や二酸化炭素が氷の粒として存在できる。逆に恒星に近い暑い場所では、それらは氷になれない。だから重い分子を豊富にまとった惑星は、もともと寒い遠方で生まれた可能性が高い、というわけだ。

研究チームの解釈はこうだ。このミニ海王星は、はるか遠くの寒い場所で氷を取り込みながら生まれ、その後ゆっくりと恒星のそばへ引っ越してきた。今の灼熱の位置は、生まれ故郷ではなかった。

2つそろって、内側へ引っ越してきた

では、内側に小さな惑星が残れた謎はどう解けるのか。

カギは「いつ移動したか」にある。もしホットジュピターが先に内側へ来てから小さな惑星が近づいたなら、重力で散らされて残れない。だが、2つの惑星が遠くの穏やかな場所で生まれ、おおむね一緒に、ゆっくり内側へ移動してきたとしたら話は変わる。

仲よく隊列を組んだまま引っ越せば、お互いを激しく蹴散らさずに今の配置へ落ち着ける。引っ越しトラックが2台、車間を保って同じ道を走るようなものだ。乱暴な追い越しがなければ、両方とも無事に目的地へ着ける。

JWSTが読み取った「遠くで生まれた」という大気の証拠は、この穏やかな同時移動のシナリオと、きれいにかみ合う。研究チームは、TOI-1130の組み合わせをそうした静かな引っ越しの結果だと考えている。

ここで想像してみてほしい。もしあなたが、この内側のミニ海王星に立てたとしたら。空には、すぐ外側を回る巨大なホットジュピターが、満月どころではない大きさでぬっと浮かんでいるはずだ。本来なら自分を蹴り飛ばしていたかもしれない相手が、すぐそこにいる。生き残った側から見れば、ずいぶん危なっかしい同居生活だろう。

このちぐはぐな組み合わせが教えること

最後に、なぜ天文学者がこの一組にここまで注目するのかを整理しておきたい。

これまで惑星形成の研究では、「ホットジュピターのそばは片づいている」というのが、ひとつの目安として扱われてきた。だがTOI-1130は、その目安が常に正しいわけではないことを、具体的な例として突きつけた。研究はこの成果を2026年5月、専門誌Astrophysical Journal Lettersで報告している。

190光年は光の速さで190年かかる距離

しかも今回は、ただ「変な配置がある」と指摘しただけではない。JWSTが大気の成分まで読み取ったことで、「なぜそうなったか」という理由の部分に踏み込めた。配置の異常さと、その原因らしき出身地の手がかりが、ひとつの星系でつながったわけだ。同じやり方を他の星系にも当てはめれば、惑星がどんな旅をしてきたのかを、大気から逆算できるかもしれない。

そしてこの舞台は、190光年という途方もなく遠い場所にある。光の速さで休まず飛び続けても、たどり着くのに190年かかる。今わたしたちが望遠鏡で受け取っている光は、江戸時代が終わろうかという頃にこの星系を出発したものだ。

その古い光の中に、惑星が遠くで生まれ、肩を並べて内側へ旅をしてきた痕跡が、ちゃんと刻まれていた。教科書が「孤独」と決めつけていた巨大惑星のすぐ内側で、小さな相棒は静かに、けれど確かに生き延びている。