690光年先の惑星で、毎朝岩石が溶けて空に浮かび、夕方には消えている。

これは比喩じゃない。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が2026年5月に発表した観測結果の話で、科学誌 Science に掲載された実際の発見だ。「惑星の天気」というと水の雲を思い浮かべるかもしれないけれど、この惑星の空には砂嵐どころか、岩が蒸発してできた雲が毎日やってくる。

WASP-94Abの朝と夕の大気の様子

その惑星、どんな場所か

WASP-94Ab という惑星がある。地球から約690光年の距離にある二連星系(2つの星が互いを回っている系)のうちの1つの星を、4日で1周している。

木星の約1.7倍という大きな体を持ちながら、主星との距離は約810万 kmしかない。地球と太陽の距離(約1億5000万 km)と比べると、たったの5%ほどだ。これだけ近いと、表面温度は1,200℃を超える。「ホットジュピター」と呼ばれる種類の惑星の典型だ。

しかもこの惑星、地球の月が地球に対してそうであるように、「潮汐固定」されている。同じ面をずっと主星に向けたまま公転しているので、昼側(常に主星に面した側)と夜側(常に暗い側)が永続的に存在する。自転しないから「朝」や「夕方」もない──はずだった。

潮汐固定された惑星の構造図

「朝側」と「夕側」の正体

ところが JWST は、この惑星に昼夜の境目にあたる2つの場所を見つけた。「朝側」と「夕側」だ。

ホットジュピターでは大気が常に動いている。昼側で熱せられた大気が上昇し、夜側の方向へ流れ、そこで冷えてまた戻ってくる。この循環の中で、夜側から昼側へと流れ込む空気が通る場所が「朝側」、昼側から夜側へと戻っていく場所が「夕側」になる。

朝側では、夜側の比較的冷たい空気が昼側の熱に初めてぶつかる。温度は800〜900℃ほど。夕側に回ると、すでに昼側の熱を十分受け取った空気が戻っていくので、1,200〜1,300℃近くまで上がる。

この温度差、約450℃。地球で最も極端な気温差は南極の-89℃と砂漠の56℃の間にある約145℃だけど、WASP-94Ab はその3倍以上の落差を昼夜の境界線上で抱えている。しかもそれが惑星の同じ経度線上でずっと固定されているわけだ。

つまり、潮汐固定されていても「温度の勾配」が存在する。これが今回の発見の根っこにある。

岩が溶けて雲になる仕組み

地球の雲は水蒸気でできている。水が蒸発して空に浮かび、冷えると雨や雪になって落ちてくる。WASP-94Ab では、その役割を岩石が担っている。

主成分は「ケイ酸マグネシウム(マグネシウムシリケート)」。地球の岩石や砂にも含まれるごく普通の鉱物で、窓ガラスや陶磁器の原料にもなる。ただし地球上では1,700℃以上に加熱しないと蒸発しない。WASP-94Ab の朝側は800〜900℃なので、液体状態の微粒子が大気中を漂うことになる。やがてそのガスが冷えると、微細な結晶として凝集し、砂粒のような雲を作る。

これが朝側で起きていることだ。夜側から運ばれてきた気流が、朝側で初めて強い熱にさらされ、岩石が蒸発し始める。その蒸気が少し冷えた高層大気に達すると、ケイ酸塩の粒子として固まって雲になる。

夕側ではどうなるか。1,200℃を超える高温では、雲の粒子はもう蒸発し続ける一方で固まれない。あるいは強い熱対流によって惑星の深い大気層へと押し込まれてしまう。どちらにせよ、夕側に来ると雲は消える。

このサイクルが地球の水循環と似ているのが面白い。地球では水が海から蒸発し、上空で冷えて雲になり、雨として降る。WASP-94Ab では岩石が蒸発し、移動した先で冷えて結晶になり、大気深部へ沈む。素材は違うけれど、「蒸発→移動→凝結→沈降」という基本パターンは同じだ。

岩石の雲が生まれて消えるまで

地球の雲は水、WASP-94Ab の雲は岩石。原理は似ていても、スケールと素材がまるで違う。

地球の雲とどう違うか

「雲」という言葉から想像するものとだいぶ違う、という話をしておく価値はあると思う。

地球の雲は、だいたい-50〜20℃くらいの温度帯で作られる。主成分は水の結晶か液滴で、高度によって形が変わる。空に浮いて見えるあの白い塊は、それ自体はきわめて軽くて、光をよく反射する。

WASP-94Ab の雲は、800℃以上の大気中に浮かぶケイ酸塩の粒子だ。地球の感覚で言えば、砂や石が溶けてガスになり、それが再び固まって漂っているようなものだ。「砂嵐」よりもむしろ「石の煙」という表現の方が近いかもしれない。

さらに、地球の雲は場所を変えながら動いているが、WASP-94Ab の雲は「朝側にしか存在しない」という非対称な分布をしている。惑星の半分には雲があり、もう半分には雲がない。もし人間がこの惑星の上空を周回する宇宙船に乗っていたら、半球が薄茶色のもやに覆われていて、残りの半球はすっきり澄んでいるという奇妙な光景を目にすることになる。

地球の雲とWASP-94Abの雲の比較

JWST がなければわからなかった

実は、WASP-94Ab は以前から観測されてきた惑星だ。ハッブル宇宙望遠鏡など複数の望遠鏡が10年以上データを積み上げてきた。しかしそれらのデータには問題があった。

以前の観測では、惑星が主星の前を横切るトランジット(通過現象)を観測する際に、朝側と夕側を区別できていなかった。光が惑星の大気を通り抜けてくるとき、両側の大気が混ざったシグナルとして届く。雲のある側とない側が平均化されてしまうわけだ。

これがとんでもない問題だ。たとえるなら、地球の天気を調べるのに北半球と南半球の観測データを平均して「地球の平均気温」だけ見ていたようなものだ。極端に違う環境を混ぜてしまうと、どちらの特徴も見えなくなる。研究者たちは「何か変だな」と思いながらも、10年間ずっと部分的に誤った前提でデータを解析してきた可能性がある。

JWST は感度と精度が格段に高く、「トランジット分光法」という手法によって、惑星が主星に近づく側(朝側)と通り過ぎる側(夕側)をそれぞれ別に分析することに初めて成功した。その結果、朝側と夕側で大気の構成が劇的に違うことが判明した。

JWSTが解決した観測の課題

過去のデータの「ズレ」の原因がここにあった可能性が高い。これは WASP-94Ab だけの話ではなく、同様の手法で観測されてきた他のホットジュピターについても、再評価が必要になるかもしれない。

惑星の天気を「読む」時代

今回の発見が面白いのは、一つの惑星の気象サイクルを初めて捉えたことだ。

「惑星の天気」と言うと漠然と聞こえるが、実際には大気の循環パターン・雲の生成消滅・温度分布といった情報が詰まっている。これらを直接観測できることは、惑星大気のモデルを検証する上で非常に重要だ。

特に研究者たちが注目しているのは、この知見が地球規模の大気モデルと比較できるという点だ。WASP-94Ab の大気は地球のそれとは似ても似つかないが、「暖かい空気と冷たい空気がぶつかると何が起きるか」「雲が温度勾配に沿ってどう移動するか」という基本原理は共通している。

今後 JWST が同様の手法で他のホットジュピターを観測していけば、惑星の大気がどんな条件でどんな雲を作るかの「カタログ」が積み上がっていく。それはやがて、より地球に近い惑星の大気を読み解く足がかりになる。

岩が溶けて空に浮かぶ惑星を観測することで、地球以外の大気を理解する道が開けていく。惑星科学はいつも、こういう遠回りをしながら進んでいく気がする。


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