栗田というのが、なんとも不運な男で、惑星ガランタ4の気象局に就職してから三年間、昇格の気配が一度もない。

ガランタ4は向かって左半分が永遠に晴れ、右半分が永遠に曇りの惑星だ。昼と夜が入れ替わらない構造で、晴れ側は常に明るく、曇り側は常に薄暗い。もっとも、住民はとっくに慣れていた。晴れ側の人間は「傘を持ったことがない」のが自慢で、曇り側の人間は「洗濯物が外で乾かない」と30年嘆き続けている。

気象局はそれぞれの側に1棟ずつある。「晴れ気象局」と「曇り気象局」で、建物は壁一枚で繋がっていた。

栗田は晴れ気象局に勤めていた。仕事の内容は単純だった。毎朝8時に「本日の天気は晴れです。明日も晴れの見込みです」と放送する。それだけだ。三年間、内容は一度も変わっていない。ちなみに、放送を真剣に聞いた住民はおそらく一人もいないかもしれない。

「課長、予算の件なんですが」

ある昼すぎ、栗田は課長の佐治を呼び止めた。

「なんか言ったか」と佐治は顔を上げずに言った。栗田が何かしゃべるたびに佐治はこの顔をした。

「予算削減の提案を考えていまして。うちの局と、曇り気象局を合併させて、職員を半分にすれば——」

「あっちの連中は毎日9時には帰るぞ」と佐治は言った。「仕事があれだから。うちもだけど」

「なので、放送機器を1台増やして、1人でどっちの放送もできるようにすれば。定時は一緒でいいですし」

「できるな」と佐治は認めた。「で、余った人員は」

「自然減で対応するということで……」

「俺、来年定年だから余るな」と佐治は言った。

栗田は言葉に詰まった。うっかり課長の退職スケジュールを計算に入れていなかった。

「まあ、考えておく」と佐治は言い、また書類に目を戻した。

翌週、栗田が提案書を持っていくと、佐治は妙な顔をしていた。

「観光局から連絡が来た」

「観光局、ですか」

「ガランタ4に観光客が増えてるらしい。どこの星に行っても天気が変わって困るから、ここは変わらなくていいと言うんだと」

「はあ」と栗田は言った。

「晴れ側は傘不要保証ツアー、曇り側は日焼け不要保証ツアー、だそうだ。旅行業者がパッケージを売り始めたらしくて。観光局は、気象局と連携して天気を保証する広告を出したいと言ってきた」

「天気を保証、といっても、もともと変わらないんですが」

「そうなんだよな」と佐治は言った。「ただ、観光局は気象局のお墨付きが欲しいらしい。『毎日晴れが保証されています』って署名が入った書類が。それで気象局の存在感が出るじゃないかって」

「職員を増やしたいって言ってた」と佐治は続けた。「観光局が。うちの局との兼任で、天気保証担当という肩書を作りたいそうだ」

栗田は手の中の削減提案書を見た。

「増員申請書、書いといて」と佐治は言い、そっぽを向いた。

栗田はデスクに戻り、削減提案書をなんとなくシュレッダーに入れた。増員申請書の様式を画面に出すと、入力欄の最初に「募集人数:」とあった。やたらと長い三年間だったが、どうやら栗田は昇格候補に載っていたらしい。

翌朝の放送原稿には「本日の天気は晴れです。天気保証中につき、ご安心ください」と一行増えていた。


この小説は架空の惑星が舞台です。片側が永遠に晴れ、もう片側が永遠に曇りという設定は、宇宙に実在する、星の引力で自転が止まってしまった惑星から着想しています。