小惑星ベスタは、差し渡しが約530kmある。東京から岡山あたりまでの距離を、まるごと岩にしたくらいの大きさだ。それだけ大きいのに、形はゴツゴツと角張っている。

いっぽう、土星の衛星ミマスは差し渡し約394km。ベスタよりひとまわり小さい。なのに、こちらはほぼ丸い。

小さいほうが丸くて、大きいほうがいびつ。この逆転はどこから来るのか。そこに「星が丸い理由」がまるごと詰まっている。

ポテトと球を分けている線がある

太陽系の天体を形で並べてみると、きれいに二つのグループに割れる。

一方は、小惑星のようなゴツゴツした塊だ。NASAによれば小惑星は、最大のベスタで差し渡し約530km、小さいものは10m足らずまである。この小さいほうの仲間は、ジャガイモや砕いた岩のような、角のある不規則な形をしている。

もう一方は、惑星や大きな衛星のように、まるい球だ。地球も月も火星も、遠くから見ればほぼ真円のシルエットをしている。

同じ縮尺で並べると、差し渡し約530kmのベスタはいびつで、約950kmのケレスは丸い

面白いのは、その境目がはっきり「ある」ことだ。ある大きさを超えた天体は、判で押したように丸くなる。超えていない天体は、いつまでもポテトのままだ。小さな天体が丸くないのは、削られ足りないからでも、できそこないだからでもない。

では、その線を引いているものは何なのか。

自分の重力が、自分の角を削る

答えは、天体そのものの重力にある。

重力は、天体の中心に向かって物質を引っぱる力だ。しかも、どの方向からも同じように引く。上からも、横からも、斜めからも、すべて中心を向いている。この「どの向きも中心向き」というのが、丸さのカギになる。

天体のどこかに大きな出っ張りがあったとしよう。出っ張りには、その下により多くの物質が積み上がっている。すると重力は、その余分な高まりを下へ引きずり下ろそうとする。低いくぼみには、まわりの物質が流れ込んでくる。

重力はどの方向からも中心を向くので、出っ張りは引き戻されくぼみは埋まる

高いところは削られ、低いところは埋められる。これを続けると、最後にはどの方向も中心からほぼ同じ距離に落ち着く。中心から等距離の点の集まり——それがつまり、球だ。

この「重力と内部の圧力が釣り合って、もう形が変わらない状態」を、静水圧平衡(せいすいあつへいこう)と呼ぶ。むずかしそうな名前だが、やっていることは単純で、要するに自分の重さで自分の角を削り、水面のように平らに均している。

水滴が丸いのは表面張力のしわざだが、天体が丸いのは重力のしわざだ。スケールがまるで違うのに、どちらも「出っ張りを放っておかない力」が働いて、いちばん無理のない形に落ち着く。

正直、これを知ったとき、丸い天体の見え方が少し変わった。あの球は「最初から丸かった」のではなく、「丸くなるまで自分を削った」結果なのだ。

物質の強度が踏ん張っているうちは丸くならない

ここで当然、さっきの疑問が戻ってくる。重力がそんなに丸くしたがるなら、なぜ小惑星はいつまでもいびつなのか。

理由は、相手がいるからだ。重力の「引き下ろそうとする力」に対して、岩には「出っ張りを支えようとする力」がある。岩は硬いので、自分の形を保とうと踏ん張る。この踏ん張る力を、物質の強度という。

小さな天体では、重力が弱い。中心に向かって引く力そのものが小さいので、岩の強度のほうが勝ってしまう。出っ張りは引き下ろされず、角は角のまま残る。だから小惑星は、何十億年たってもポテト型のままでいられる。

天体が大きく、重くなるほど、中心へ引く重力は強くなる。ある大きさを超えると、重力が岩の強度を上回る。そこから先は、どんな出っ張りも自分の重さに耐えられず、ずるずると均されていく。

ベスタは、その境目のすぐ手前にいる天体だと考えられている。NASAはベスタを「惑星と小惑星の中間的な起伏をもつ」と表現している。南極には、レアシルビアと呼ばれる幅約500kmの巨大な衝突の跡があり、これはベスタの差し渡しの約95%にもなる。

ベスタは一度は内部が溶けて、重い鉄は中心に沈み、軽い岩は外へ浮いた。惑星になりかけたのに、丸くなりきる手前で止まった天体——そんな姿に見える。

丸くなる境目は「何でできているか」で動く

ではその境目は、具体的に何kmなのか。ここが、個人的にいちばん面白いところだ。

境目はひとつの数字では決まらない。天体が何でできているかで動く。カギは、岩と氷の「硬さの違い」だ。

岩は硬くて踏ん張る力が強い。だから、重力が岩の強度に勝つには、天体がかなり大きく重くならないといけない。いっぽう氷は、岩よりずっと柔らかく、変形しやすい。少しの重力でもずるずると形を変えてしまう。

氷は小さいうちに丸くなり、硬い岩はより大きくならないと丸くならない

ここで最初のベスタとミマスに戻る。ベスタは岩でできた天体で、差し渡し約530kmもあるのに、角張ったいびつな形をしている。岩の強度が、重力にまだ踏ん張り勝っているからだ。

ミマスは主に氷でできた土星の衛星で、差し渡しは約394km。ベスタより小さいのに、こちらはほぼ丸い。やわらかい氷は、この程度の重力でもう均されてしまうのだ。

ただし、ミマスも完璧な球ではない。NASAはミマスを「完全に丸い形を保つには少し小さすぎる」とし、わずかに楕円にゆがんでいると説明している。ミマスはちょうど、氷の天体が丸くなるぎりぎりの線上にいる。

大きさだけ比べればベスタの勝ち。なのに丸さではミマスの勝ち。この逆転が、材質という「もう一本の軸」を浮かび上がらせる。

「ほぼ丸い」が準惑星の線引きになっている

この「丸いかどうか」は、ただの見た目の話ではない。天体の分類そのものに食い込んでいる。

国際天文学連合(IAU)は、準惑星(dwarf planet)を三つの条件で定めている。太陽をまわっていること。軌道上のほかの天体を掃き寄せていないこと。そして、「ほぼ丸い」こと。丸さが、天体のランクを決める公式の基準になっているわけだ。

NASAによれば、現在IAUが認める準惑星は五つ。ケレス、冥王星、ハウメア、マケマケ、エリスだ。さらに、まだ見つかっていない準惑星が100個以上ある可能性があるという。

ケレスは、火星と木星のあいだの小惑星帯でいちばん大きな天体だ。平均半径は約476km、差し渡しにすると約950kmになる。東京から鹿児島あたりまでの距離を、まるごと直径にした岩と氷の球を思い浮かべてほしい。

同じ縮尺で並べると、差し渡し約530kmのベスタはいびつで、約950kmのケレスは丸い

ケレスは十分に大きく、重力が自分を均しきったので丸くなった。だから「ただの大きな小惑星」ではなく、準惑星に分類されている。NASAの探査機ドーンは2015年にケレスを周回し、準惑星をまわった初の探査機になった。

同じ小惑星帯に浮かぶ二つの天体が、丸いか、いびつか、たったそれだけで名前の格を分けられている。線を引いているのは人間だが、その線のもとをたどれば、やはり重力に行き着く。

自分の重さが、形を決めている

もう一度、夜空の月を思い出してほしい。あの見慣れた丸いシルエットは、月が自分の重さで何十億年もかけて自分を均した証拠だ。丸いことは、ある意味で「十分に重かった」ことの勲章なのだ。

同じことは、あなたの足元でも起きている。地球も重力で丸くなった天体だが、完全な真球ではない。自転による遠心力で赤道側がわずかにふくらみ、ほんの少しミカン型につぶれている。重力が丸くしようとする力と、回転がふくらませようとする力。その綱引きの答えが、いまの地球の形だ。

丸い天体と、ポテト型の天体。その分かれ目は、大きさと、岩か氷かという素材で決まっていた。ベスタはあと少し大きければ丸くなれたし、ミマスは氷だったからこそ小さくても丸くなれた。

次にどこかで小惑星のゴツゴツした写真を見たら、思い出してほしい。あれは「丸くなりそこねた」のではなく、自分を削るには軽すぎた天体の、正直な形なのだ。