権田さんというのが、小惑星庭いじりの会ではちょっとした有名人だった。

庭いじりといっても、土はいじらない。会員はめいめい、家の裏の宙に岩をひとつ浮かべて、かけらを足したり削ったりしながら、好きな形に育てる。のんびりした趣味である。

なかでも権田さんの岩は評判だった。あちこち尖って、ちょうど犬がちょこんとお座りしたような形をしている。本人は「ポチ」と名づけて、朝な夕なになでていた。

「ポチはな、宇宙でいっとう男前の岩なんだ」

お隣のサエキさんの岩は、こぶしひとつぶんしかない。やたらとひしゃげて、寝そべった猫のなりそこないみたいだ。それでもサエキさんは、なんだかうれしそうに、毎日みがいていた。

秋になると、会で「いちばん大きい岩」の品評会がある。権田さんは今年こそ取る気でいた。

「でもね権田さん、あんまり大きくしなさんなよ」サエキさんがふと言った。「岩ってのはね、大きく重たくなると、自分の重みで、いつのまにか真ん丸になっちまうんだから。お月さまだってそうだろ」

「ばかを言え。ポチにかぎってそんなことあるか」

ところが、である。

権田さんがかけらを足すほど、ポチはむくむく太っていった。太るほど、自慢の耳の角が、しっぽの反りが、少しずつ、なだらかになっていく。あわてて削り直しても、重くなった岩は、削ったそばからまた丸みをおびる。

「待て、待てポチ、犬にもどれ」

手を入れつづけた一か月のすえ、ポチはどこにも角のない、つるんとした球になった。犬の面影はひとかけらも残っていない。

それでも――大きさだけは、会でだんとつの一等だった。

品評会の日、委員会の人がやってきて、球になったポチを見あげ、首をかしげた。

「権田さん。これ、もう岩じゃありませんねえ」

「なにを言う。おれが手ずから育てた岩だ」

「決まりでしてね。これだけ大きくて真ん丸だと、もう『岩』あつかいにはできないんです。りっぱな『星』だ」係の人は帳面に書きこんだ。「で、星となると――だれのものにもできない。宇宙の決まりで」

「は……?」

「第二千百番、衛星。名前をつけて台帳にのせて、来月には、最初に移り住む人が入ります。おめでとうございます、立派なお仕事で」

権田さんは口をあけたまま、自分の丸い星が、みんなの空のものになっていくのを見あげていた。いちばん大きいものを、たしかに手に入れた。手に入れたとたん、それは手から出ていった。

とぼとぼ家にもどると、裏ではサエキさんが、こぶしほどの猫を、きょうもにこにこみがいていた。小さすぎて、丸くもなれず、だれにも取られようのない、ひしゃげた猫を。

「……サエキさん」権田さんは、そうっと手を出した。「それ、ちょっとだけ、持たせてくれんか」