おれは時計番だ。毎朝、時計台にのぼって、ひと晩のあいだによその都とこの町とでずれたぶんを、針でそっと直す。この星では町ごとに一日の長さがほんのわずかに食い違うので、放っておくと列車の便も役所の受付も、だんだんかみ合わなくなる。だからだれかが毎日こっそり合わせ直す。四十年、おれの役だ。

白状すると、おれはずっと前から、直すついでに一目盛りだけ、よけいに針を進めてきた。当番の終わりを告げる鐘が、ほんの少し早く鳴る。それがうれしかった。ただ、それだけのことだ。

一目盛りなんて、だれにも分かりっこない。もっとも、一目盛りは一日に一回。四十年ともなると——まあ、積もる。

先週、都から役人が来た。革の鞄から、自分の時計をうやうやしく取り出す。「照合です。何十年ぶりですかね、この町は」。並べてみて、役人の顔がすうっと白くなった。おれの時計と、役人の時計。針は、たっぷり三時間ずれていた。

「これは……こちらの時計が、進みすぎています」

役人がそう言いかけたとき、パン屋の女房が鼻で笑った。

「なに言ってんの、お役人さん。うちの亭主は、この時計で毎朝パンを焼くんだよ」

「列車だって、この鐘で出てる」と駅長。

「子どもの学校も、役所の受付も、みんなこの時計さ。ずれてんのは、あんたのほうだろう」

役人は鞄の時計をもう一度のぞきこみ、それから時計台をぼんやり見上げ、ひとつ咳払いをした。

「……どうやら、都の時計のほうが、狂っていたようです」

そう言うと、自分の時計のねじを巻きなおし、おれの時計にきっちり合わせてから、帰っていった。

列車が役人を乗せて出ていくのを、おれは台の上から見送った。

それから、いつものように針へ手をかける。

一目盛り、おれのほうへ。