「おれに影ふみで勝てるやつなんか、この星にはいないね」
夕方の原っぱのまんなかで、おれは足もとをあごでさした。おれの影は二本ある。この星には太陽が二つあるから、だれだって影を二本ひきずって歩く。両方ふまれたら負け、というのがこの遊びのきまりだ。むずかしいぶん、勝てばえらい。
「お兄ちゃん、二本もあって、守りきれるの」
妹のミキが、草の上にぺたんとすわったまま言った。まだ一年生のくせに、やけにおちついている。
「二本だろうが三本だろうが同じこと。来いよ、ふんでみろ」
おれは駆けた。右へ跳べば右の影がにげ、左へ跳べば左の影がにげる。ミキはおっとり立ち上がって、おれの影の片っぽをねらう。だがおれのほうがずっと速い。くるりと回ると、二本の影もくるりと回って、ミキのくつの先からするりとぬけた。
「ほらな。一生ふめないよ、そんなの」
ミキはふうとため息をついて、また草の上にすわってしまった。
「もう追いかけないのか。じゃあ、おれの勝ち――」
「まだ」
ミキはひざをかかえて、西の丘のほうをじっと見ている。つられて、おれもそっちを見た。
太陽のひとつが、丘のむこうへゆっくりしずんでいくところだった。まぶしさがへって、空がオレンジになって――おれの右の影が、すうっと色をうすくして、消えた。
残ったのは、左の太陽がつくる一本きりの影。夕方だから、ぐんとのびて、原っぱを横ぎるほど長くなっている。
「あ」と思ったときには、もうおそかった。
ミキが立ち上がって、のびきった影の先っぽを、くつのうらでちょん、とふんでいた。
「ふんだ」
「ずるいぞ! 今のなし! おまえ、ずっとすわって待ってただけじゃんか!」
おれがわめくと、ミキは手についた草をはらって、すました顔で言った。
「待っちゃだめとは、言ってないよ」