惑星は、自分では光らない。太陽のように燃えていないので、遠くから見れば真っ暗な点ですらない。それなのに、太陽系の外ではすでに6,000個を超える惑星が見つかっている。
NASAの集計では、確認された系外惑星(太陽以外の星をまわる惑星)は6,000個をゆうに超えた。光らないものを、いったいどうやってこれだけ数えているのか。
光らない惑星を、人はどうやって数えているのか
系外惑星の探し方は、大きく5つに分かれる。NASAが挙げているのは、トランジット法・視線速度法・直接撮像・アストロメトリ(位置測定)、そして重力マイクロレンズ法だ。
一番の主力はトランジット法。惑星が主星(惑星がまわっている星)の手前を横切ると、星の光がほんの少し暗くなる。その周期的な「かげり」を拾う。
もう一つよく使うのが視線速度法。惑星の重力に引っ張られて、主星がわずかにふらつく。その揺れを読む。
ただ、どちらも惑星が星のすぐそばにあって、しかも軌道の向きが地球にうまく揃っているときにしか効かない。星から遠く離れた惑星や、そもそも星を持たずに漂う惑星は、この網からするりと抜けてしまう。
では、遠くて暗くて、星のそばにもいない惑星は、どうやって見つけるのか。
重力が光を曲げる、をそのまま望遠鏡に使う
ここで登場するのが、重力で光が曲がるという性質だ。重い天体のそばでは空間そのものがゆがみ、通りかかった光の進路が曲げられる。
手前にある星の重力が、その真後ろにある別の星の光を集めて、こちらから見た明るさを一時的に持ち上げる。これが重力レンズで、星ひとつぶんの小さな規模で起きるものを「マイクロレンズ」と呼ぶ。
イメージとしては虫眼鏡に近い。太陽の光を虫眼鏡で一点に集めると、まぶしい光の粒ができる。あれのレンズをガラスではなく重力が担っている、と思ってもらえばいい。
手前の星と奥の星と地球が、たまたまほぼ一直線に並んだとき、奥の星がすーっと明るくなり、やがて元に戻る。数日から数週間ほどの、静かな増光だ。
白状すると、僕はこの仕組みを長いこと「重い天体を撮る技術」だと誤解していた。実際は逆で、レンズになる手前の星は写らなくていい。増えたり減ったりする光の量だけを見ている。
惑星は、明るさのグラフに小さなコブを残す
面白いのはここからだ。手前の星に惑星がくっついていたら、どうなるか。
その惑星の重力も、ほんの一瞬だけレンズに加勢する。すると、星がつくる大きな明るさの山のてっぺんあたりに、二つ目の小さく鋭いスパイクが乗る。NASAはこれを「二つ目の、より小さな急上昇」と表現している。
星の山が数日かけてなだらかに上下するのに対して、惑星のコブは数時間で終わってしまうこともある。だから観測は、明るさの時間変化(光度曲線)をひたすら細かく追いかける勝負になる。
このコブの高さと幅から、惑星の重さや、主星からどれくらい離れているかが読み取れる。惑星そのものは一度も写っていないのに、だ。
ここで少し立ち止まってほしい。もしあなたがその奥の星をずっと見張っていたとして、山のてっぺんに乗った小さなヒゲを見逃したら、その惑星がいた証拠は、それきり永遠に手に入らない。
二度と繰り返さないから、何百万の星を一度に見張る
マイクロレンズには、ほかの手法にはない厄介な性質がある。手前・奥・地球が一直線に並ぶのは偶然で、しかも一回きりだということだ。
トランジット法なら、惑星は何周でもまわってくるので、あやしい信号は次の周期で確かめ直せる。マイクロレンズはそうはいかない。同じ並びは二度と起きないので、観測をやり直す手段がない。
正直、これを初めて知ったとき「そんな一発勝負でよく惑星を見つけられるな」と声が出た。ではどうするかというと、答えは物量だ。とにかく広い範囲の星を一度に、切れ目なく見張り続ける。
そしてこの弱点は、そのまま強みの裏返しでもある。星のそばを横切る必要がないぶん、マイクロレンズ法は主星から遠く離れた惑星や、星を持たずに宇宙を漂う「浮遊惑星」まで届きうる。研究者たちは、他の手法が苦手とするこの領域こそ、マイクロレンズの独壇場になると期待している。
問題は、そんな大量監視を宇宙から本気でやる望遠鏡が要る、ということだ。
ローマン宇宙望遠鏡が狙う、10万個という桁
その役目を担うのが、NASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡(Nancy Grace Roman Space Telescope)だ。マイクロレンズをはじめとする手法で、系外惑星の「統計的な国勢調査」をやろうとしている。
決め手は視野の広さ。NASAによれば、ローマンの一度に見渡せる空は、ハッブル宇宙望遠鏡の100倍以上ある。同じ観測時間で100倍の星を見張れれば、一瞬しか起きないマイクロレンズを捕まえる確率も跳ね上がる。
そのうえでNASAは、ローマンが10万個を超える系外惑星を新たに発見すると見込んでいる。いまの累計が6,000個あまりだから、桁が二つ変わる。
個人的にはこの落差が一番好きな部分だ。6,000個でも「よくそんなに」と思っていたのに、望遠鏡が一台加わるだけで、既知の惑星が二桁増えるかもしれない。しかもその多くが、これまで手の届かなかった遠い軌道や浮遊惑星だという。
見えないものを、影響で測るということ
重力マイクロレンズがやっているのは、要するに「見えないものを、それが周りに与える影響から測る」ことだ。惑星は写らない。写るのは、その重力がよそから借りてきた光をどうゆがめたか、だけ。
考えてみれば、これは宇宙の測り方のかなり本流にある発想でもある。目に見えないものの存在を、光や運動のわずかな乱れから逆算する。星のふらつきから惑星を知り、銀河の回り方から見えない質量を疑う。人が惑星を「見る」より先に「感じ取る」道具を手にした、という言い方もできる。
そしてこの手法が本領を出すのは、これからだ。ローマンが広い視野で何百万もの星を同時に見張り始めれば、いままで一度も光として届かなかった遠い軌道の惑星や、星を持たない浮遊惑星が、明るさの小さなコブとして次々と姿を現すはずだ。研究者たちは、太陽系の外の惑星の「数の全体像」がそこで初めて見えてくると考えている。
この記事と対になるショートショートも同じ日に公開している。見えないのに確かにそこにいる、という手触りの一編だ。よかったらこちらから読んでほしい。
今夜あなたが見上げる空の、なんでもない暗い点の後ろでは、いま誰かの惑星が遠くの星の光を一瞬だけゆがめて、自分がここにいると知らせているのかもしれない。