パルサー(高速で自転する中性子星)のまわりを、木星ほどの大きさの天体が、たった7.8時間で一周している。その空を調べたら、水素でも窒素でもなく、ヘリウムと炭素でできていた。おまけに空の底では、炭素が押し固められてダイヤの雲になっているらしい。
太陽系のどの惑星にも、こんな空はない。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)がこの天体をとらえたとき、研究チームの最初の反応は「なんだこれは」だったという。地球の「空」の常識が、どれだけ地球ローカルなものだったか。その話をしたい。
太陽系の空は、たった3種類しかない
まず足元から。私たちが毎日吸っている空気は、窒素が約8割、酸素が約2割でできている。地球の空の正体は、実はこの2つでほぼ説明がつく。
ところが太陽系をぐるっと見回すと、地球のような空はむしろ少数派だ。金星と火星の大気は、どちらも二酸化炭素が主役。木星・土星・天王星・海王星といった巨大惑星は、水素とヘリウムでふくらんでいる。
つまり太陽系の8つの惑星の空は、ざっくり「窒素と酸素」「二酸化炭素」「水素とヘリウム」の3タイプに収まってしまう。種類がありそうで、意外と少ない。地球に生まれた私たちは、この狭い見本をもとに「空とはこういうもの」という感覚を作ってきた。
では、この3つのどれにも当てはまらない空はありえるのか。あった。
ヘリウムと炭素でできた空
その天体の名前は PSR J2322-2650b。地球から見ると、あるパルサーのそばを回る木星質量の惑星だ。JWSTでこの惑星の大気を調べた結果が、2025年12月、学術誌 The Astrophysical Journal Letters で報告された。
そもそも、どうやって遠い惑星の「空の成分」がわかるのか。鍵は光だ。惑星の大気を通り抜けてきた光を細かく分けて調べると、どの分子がどの色の光を吸ったかが読み取れる。大気ごとに、いわば指紋が残るわけだ。JWSTが得意とするのは、まさにこの赤外線での指紋読みである。
その指紋が、とにかく変わっていた。ふつう系外惑星の大気からは、水やメタン、二酸化炭素といった分子が見つかる。ところがこの惑星からは、それらが一切出てこなかった。
代わりに検出されたのが、分子状の炭素だ。炭素原子が2個つながったC2や、3個つながったC3。さらに、すす(炭素の細かい粒)でできた雲まである。主任研究者のマイケル・ジャン氏(シカゴ大学)は、水やメタンや二酸化炭素の代わりに分子状の炭素が見えた、と報告している。
この組成を最初に見たとき、研究チームが「なんだこれは」と漏らしたのも、わかる気がする。太陽系の3タイプのどれでもない、炭素が主役の空である。
空の底では、ダイヤの雲が降る
面白いのはここからだ。研究チームは、この惑星の大気の奥深くに、炭素がダイヤになった雲が広がっていると考えている。
理屈そのものはシンプルだ。炭素は高い圧力と温度のもとで、ダイヤの結晶に変わる。地球でダイヤが作られるのは、地下100km以上の深くて熱い場所だ。それと同じ原理が、この惑星では「空の底」で起きているらしい。上空にはすすの黒い雲、その下にダイヤの雲。空の層そのものが、炭素のショーケースになっている。
ただし、涼しい宝石箱を想像してはいけない。昼側の温度は約2,000℃に達する。鉄の融点(約1,538℃)をゆうに超える熱さだ。夜側でも約650℃あって、溶岩よりまだ熱い。この「昼側・夜側」という言い方にも理由がある。惑星が主星にいつも同じ面を向けていると考えられていて、片側は焼かれ続け、反対側はずっと夜のままなのだ。
しかもこの惑星、主星の潮汐力(重力が場所によって強さを変える効果)で引き伸ばされ、レモンのような形にゆがんでいると考えられている。もしこの空の下に立てたら、頭上は黒いすすの雲、はるか足元の奥ではダイヤが結晶し、あたりは鉄が溶ける温度。想像するだけで足がすくむ。
相手は、都市サイズの中性子星
この異常な空を抱えた惑星が回っている相手も、かなりの変わり者だ。主星はミリ秒パルサー。太陽と同じくらいの重さを、都市ほどの大きさに詰め込んだ中性子星で、高速で自転しながらガンマ線をまき散らしている。
重さはそのまま、大きさだけが都市1つぶんまで縮んでいる。中身がどれだけぎゅうぎゅうかは、ちょっと想像が追いつかないほどだ。そんな天体が、強い放射線とともに高エネルギーの粒子を四方へ吹き出している。
惑星は、その中性子星から約160万kmのところを回っている。地球から月までの距離(約38万km)の、4倍ちょっと。宇宙のスケールで言えば、ほとんどくっついていると言っていい近さだ。
公転周期は7.8時間。地球では1日が終わらないうちに、この惑星では1年が3回めぐる計算になる。強烈な放射線を浴びる至近距離を、猛スピードで回り続けているわけだ。この過酷な環境こそ、変わった空を作った犯人かもしれない。
誰にも、生まれ方が説明できない
ここまで変わった天体だと、次に気になるのは「どうやってできたのか」だ。ところが、これがわからない。
ジャン氏は2つの可能性を挙げて、どちらも否定している。ふつうの惑星のようにガスと塵から生まれたのか。いや、組成が違いすぎる。では、中性子星が相手の星の外層を削り取ってできる「ブラックウィドウ系」のパターンか。これも苦しい。核融合では、純粋な炭素のかたまりはできないからだ。
研究チームは、酸素や窒素を遠ざける何かが起きているはずだ、と見ている。ただ、その「何か」はまだ謎のままだ。6,000個を超える系外惑星が見つかっているなかで、パルサーを回るガス惑星らしき天体は、これがただ一つだという。
ここで少し立ち止まってほしい。天文学はふつう、見つけた天体を既存の分類のどれかに当てはめて理解していく。ところがこの惑星は、どの引き出しにも入らない。理論のほうが追いついていない状態を、研究チームは正直に「説明できない」と言っているわけだ。
要するに、既知のどの作り方でも説明がつかない空が、現実に浮かんでいる。「存在できないはずの惑星」はこれまでにも見つかってきた。小さな赤い星に木星サイズがへばりついたTOI-5205bのように。だが、空の中身そのものが理論の外にある例は、そうそうない。
「空」という言葉が、地球ローカルだった
私たちは「空」と言えば、青くて、雲が浮かんで、たまに雨が降るものを思い浮かべる。でもそれは、窒素と酸素という地球の組み合わせが見せている、ひとつのローカルな風景にすぎない。
炭素でできた空があり、底にダイヤの雲が降り、相手は都市サイズの中性子星。そんな世界が、6,000個を超える系外惑星のなかに、現に混ざっている。見つかる惑星が増えるほど、「空」という言葉の意味は広がっていく。地球並みの気温を持つ温帯の巨大惑星という新顔も含めて、太陽系はいわば見本市のほんの一区画でしかなかった。
この先、JWSTが同じ手口で読み取る大気が増えていけば、炭素の空の仲間が他にも見つかるかもしれないし、逆に「やっぱりこの惑星だけが特別だった」と落ち着くかもしれない。どちらに転んでも、惑星の作り方そのものを考え直す材料になる。謎が一つ増えたという言い方より、常識の枠が一回り広がった、と考えるほうが近い。
今夜、窓の外に見える見慣れた空は、宇宙に無数にある空のたった1パターンだ。そう知ったうえでもう一度見上げると、ありふれた青い空が、ずいぶん特別なものに見えてくる。