2025年6月29日、4000万光年のかなたで星がひとつ、爆発した。超新星 SN 2025pht。その知らせを受けた天文学者が真っ先にやったのは、新しい望遠鏡を向けることではなかった。昔の写真をめくり直すことだった。

爆発したあとで、爆発する前のその星を探す。妙な話に聞こえるかもしれない。けれど天文学では、これがれっきとした調査手順になっている。

そして今回、思いがけないことが起きた。ハッブル宇宙望遠鏡には写っていなかった「爆発前の星」が、ウェッブ宇宙望遠鏡の画像にだけ、ちゃんと写っていたのだ。

事件が起きてから、昔のアルバムをめくる

超新星というのは、重い星が一生の最後に起こす大爆発だ。数週間だけ、銀河まるごとに匹敵するほど明るく光る。だから発見は難しくない。問題はそのあとにある。

「どの星が爆発したのか」を知りたい。ところが銀河の中には星が無数にある。光ってしまった後では、まぶしい点がひとつ見えるだけで、元の星の素顔はもうわからない。

ここで効いてくるのが、望遠鏡の地味な習慣だ。ハッブルもウェッブも、同じ空の同じ銀河を、何年にもわたって何度も撮影し、その画像をすべて保存している。言ってみれば、空の巨大なアルバムだ。

だから事件が起きると、天文学者はこう動く。光った場所の座標を控え、過去のアルバムをめくって「その一点に、前は何が写っていたか」を確かめにいく。事故現場の防犯カメラを巻き戻すのに近い。

望遠鏡は同じ空を撮りためており、爆発が起きてから過去の画像にさかのぼる

面白いのはここからだ。この手順が成り立つのは、爆発を予知して撮っておいたからではない。たまたま撮りためていた日常の記録が、あとから決定的な証拠に化けるからだ。

同じ一点を、前と後でぴたりと重ねる

では、過去画像のどこを見ればいいのか。無数の星の中から、たった一つの犯人を言い当てなければならない。

鍵は位置合わせだ。爆発後に光った点の位置を基準にして、爆発前の画像を同じ座標にぴたりと重ねる。すると、いま光っている一点に、爆発前は何が写っていたかが浮かび上がる。そこにあった星こそ、爆発した当の星——専門的には「親星(しんせい、progenitor)」と呼ばれる。

集合写真で考えるとわかりやすい。ある人物が姿を消したあと、何年も前の集合写真を引っぱり出し、同じ立ち位置に誰が写っていたかをたどる。あの感覚に近い。

この手法そのものは新しくない。たとえば2017年、おとめ座の方向6500万光年先の銀河 NGC 3938 で超新星 SN 2017ein が起きたとき、研究チームは2007年に撮られたハッブルの画像までさかのぼり、爆発した点に写っていた星の候補を特定している。10年越しの答え合わせだ。

爆発前と爆発後の画像を同じ座標で重ね、光った点に写っていた星を特定する

やや細かい話になるが、ここを飛ばすと後で効いてこない。前後を重ねる、という単純な作業が、星の最期とその正体を結びつける唯一の橋なのだ。

ところが、ハッブルには星が写っていなかった

今回の SN 2025pht でも、同じ段取りで調査が始まった。親星がいるはずの場所には、ハッブルが爆発前に撮った画像があった。2024年8月の撮影だ。

ところが、そこに星が見当たらない。爆発した点を重ねても、ハッブルの画像ではその位置がほとんど空っぽに見えた。

これは困る。手順どおりに過去をめくったのに、肝心の星がアルバムに写っていないのだから。候補の星がぼんやりとでも写っていれば、明るさや色から正体をたどれる。けれど何も写っていなければ、たどる手がかりそのものが消えてしまう。

なぜ見えなかったのか。NASA と研究チームの説明によれば、この星のまわりが予想外にちりっぽかったからだ。星が自分の吐き出したちりに包まれ、可視光——私たちの目に見える普通の光——が、そのちりにさえぎられていた。星はそこにいたのに、ハッブルのカメラにはカーテンの向こう側だったわけだ。

白状すると、この一点を知ったとき、調査の筋書きが一気に面白くなった。証拠があるはずの場所に、証拠がない。ミステリでいえば、いちばん重要な一枚だけ写真が真っ黒だった、という状況だ。

ちりを透かす光でもう一度めくる

ここでウェッブの出番になる。ウェッブ宇宙望遠鏡が得意とするのは赤外線——目に見えないけれど、波長の長い光だ。

赤外線には、ちりを透かして向こう側を見やすいという性質がある。可視光がちりの粒にぶつかってさえぎられるのに対し、波長の長い赤外線はちりの隙間を抜けやすい。霧の中でも遠くのヘッドライトがぼんやり届くのと、理屈としては似ている。

そして運のいいことに、ウェッブはこの銀河 NGC 1637 を、爆発の前——2024年10月に、近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)ですでに撮影していた。爆発の約8か月前の記録だ。

その画像を同じ座標で見直すと、ハッブルには写らなかった赤色超巨星が、ちゃんとそこにいた。赤色超巨星(red supergiant)は、重い星が晩年にふくれあがった巨大な星で、こうした星が一生の最後に重力崩壊型の超新星を起こすことは以前から知られている。

ハッブルの可視光はちりにさえぎられ、ウェッブの赤外線はちりを透かして星を捉えた

共同研究者の一人は、この星を「これまで爆発を見てきた中で、最も赤く、最もちりっぽい赤色超巨星だ」と評している。しかもそのちりは炭素に富んでいたと報告されている。同じ星でも、どんな色の光で見るかで、写るか写らないかが分かれる。それがこれほどくっきり出た例も珍しい。

遺影が教えてくれること

親星が1枚でも押さえられると、何がうれしいのか。

超新星は、光ったあとの姿なら数多く観測されている。けれど「どんな星が、どんな最期を迎えたか」を直接ひもづけられた例は、ずっと少なかった。爆発前の星の重さや温度、まわりにどれだけちりをまとっていたか——それが分かって初めて、星の一生と爆発の関係を答え合わせできる。いわば、故人の生前の姿が1枚手に入る。今回のようにちりを厚くまとった星が見つかると、爆発する直前の星が周囲に何を吐き出していたのか、という手がかりにもなる。

今回はそれを、ウェッブの力で初めて公表できた例になった。NASA によれば、これはウェッブによる超新星の親星検出として初めて公表されたものだという。

筆頭著者のチャーリー・キルパトリック氏(ノースウェスタン大学)は、「ウェッブがすでに観測していた銀河で超新星が爆発するのを、ずっと待っていた」と語っている。この成果は天体物理学の専門誌 Astrophysical Journal Letters に報告された。

ここで少し立ち止まってほしい。2024年10月、ウェッブがこの銀河を撮ったとき、誰もその中の一点が8か月後に爆発するとは知らなかった。無数の星が並ぶ、ただの一枚の記録だったのだ。星の一生についてもっと知りたいなら、星の色と寿命の関係や太陽の最期の姿もあわせてどうぞ。

今日の空の写真が、未来の誰かの答え合わせになる

4000万光年という距離は、途方もない。この星の光は、私たちに届くまで4000万年かかっている。いま見ている爆発は、地球にまだ人類のかけらもいなかった頃に起きた出来事だ。その古い光の中から、さらに前の「生前の姿」を掘り起こす——天文学は、二重の時間さかのぼりをやっている。

それを可能にしているのは、派手な一発勝負ではなく、同じ空をこつこつ撮りためる地味な習慣のほうだ。今夜もどこかの望遠鏡が、何でもない銀河を淡々と撮影している。その一枚に、数年後に爆発する星が、まだ何食わぬ顔で写り込んでいるかもしれない。

空のアルバムは、こうして今も1ページずつ厚くなっている。