太陽が「星のひとつ」だと言われると、頭ではわかっていても妙な違和感がある。
夜空に散らばるあの小さな光たちと、毎朝東からのぼってくるでっかい黄色のかたまり。同じカテゴリに入れていいのか、と。けど物理的には、同じだ。水素とヘリウムのガスの球で、自分の重さでつぶれる力と、中心の核融合で外に押し返す力が釣り合って、何十億年も球のまま光り続けている。
それだけ同じだということは、他の星と同じく、太陽にも寿命があるということでもある。
しかも、その最期はわりと派手だ。膨れあがって、冷えて赤くなって、地球をほぼ確実に飲み込み、そのあとガスの殻を脱ぎ捨てて、最後は白くて小さな死骸だけが残る。
今日はその話をしたい。
太陽はいまちょうど人生の折り返し地点
まず現状から。太陽が生まれたのは約46億年前。太陽系そのものの始まりと、ほぼ同じ時期だ。
星の寿命は質量で決まる。重い星ほど中心が高温高圧になって、燃料の水素を派手に使いまくる。結果、寿命は短い。オリオン座のリゲルみたいな青白い巨星は、数千万年で使いきってしまう。
太陽クラスの、ごく平均的な星の場合、水素を燃やし続けられる期間は約100億年。つまり太陽は、いまちょうど折り返し地点に差しかかっている。残り寿命は、あと50億年くらい。
50億年というと途方もない時間に聞こえる。地球に恐竜がいた時代が約6600万年前。人類が文明らしきものを始めたのが1万年前。そういうスケールからすると、50億年後なんてもはや別の宇宙の話だ。
でも、宇宙物理の世界で「折り返し地点」というのは十分に現役の真ん中で、太陽は明らかに中年に入っている。
今の太陽が安定していられる理由
太陽の中心では、水素の原子核4つがヘリウムの原子核ひとつに融合する「核融合」が起きている。
このとき、わずかだけど質量が減る。減った分はアインシュタインの有名な式(E=mc²)のとおり、エネルギーに変わる。そのエネルギーが光や熱として外に放たれ、地球まで届いている。
面白いのは、このエネルギーが外に向かって押し返す力と、太陽自身の重力で内側に潰れようとする力が、見事に釣り合っている点だ。この釣り合いを「静水圧平衡」という。
ちょっと専門的だが、要するに「膨らもうとする力と、縮もうとする力が拮抗している」状態。これが続いているかぎり、太陽はずっとだいたい同じ大きさ、同じ明るさで燃え続ける。
ただし、この釣り合いはあくまで中心に水素燃料があるあいだだけだ。
燃料が尽きてくると、どうなるか。
燃料が切れた瞬間、星は膨らみはじめる
太陽の寿命を決めているのは、中心部の水素の量だ。中心で水素がぜんぶヘリウムに変わってしまった瞬間、核融合は止まる。
止まると、外側に押し返す力がなくなる。そうすると重力が勝ち、太陽は内側に縮みはじめる。
縮むと、中心はさらに高温・高圧になる。ここで、今まで核融合に参加していなかった「中心のすぐ外側」の水素が、いよいよ燃え始める。中心のヘリウムの塊を、殻みたいに包んで燃える状態だ。これを「水素殻燃焼」と呼ぶ。
この殻燃焼、中心の核融合よりずっと激しい。大量のエネルギーを出すので、外層のガスはそれに押されてぐんぐん膨らんでいく。
結果、太陽は巨大化する。どのくらい巨大になるか。
現在の太陽の半径は約70万キロ。それが最終的に、およそ200倍まで膨らむと計算されている。半径1億4000万キロ。つまり、地球の軌道(およそ1億5000万キロ)のすぐ近くまで太陽の表面が迫ることになる。
これが「赤色巨星」と呼ばれる段階だ。
赤く見える理由は、実は「冷える」から
巨大化した太陽は、「赤く」なる。
ここは直感に反するところで、巨大化して明るくなるのに、色は赤くなる。赤色巨星の表面温度は、いまの太陽より低い。現在の太陽表面がだいたい6000度なのに対して、赤色巨星の表面は3000度くらいまで下がる。
なぜ膨らむと温度が下がるのか。
単純に言うと、「同じエネルギーが広い面積に広がるから」だ。膨大なエネルギーを出しているのは変わらないが、表面積がめちゃくちゃでかくなる。だから単位面積あたりの温度は下がる。
低温の物体は、赤っぽい光を出す。これは星にかぎった話じゃなくて、鉄を火で熱したときの色変化と同じだ。低温なら赤、高温なら白〜青になる。
なので赤色巨星の「赤」は、冷えた結果の色。それでも総エネルギー量は今より数千倍になるので、地球まわりは悲惨なことになる。
地球はどうなるのか
よく話題になるのが、「太陽が膨れたとき地球はどうなるのか」。
結論から言うと、地球はほぼ確実に飲み込まれる。というか、飲み込まれる前にすでに大変なことになっている。
太陽が赤色巨星に入る数億年前から、太陽は徐々に明るく、熱くなっていく。10億年後くらいには、地球の海は蒸発しきって、大気は宇宙に逃げていく。生命が住める惑星ではなくなる。これはほぼ確定事項だ。
問題は、赤色巨星の太陽が物理的に地球の軌道にまで届くかどうか、だった。以前は「地球は飲み込まれる前に少し外側に移動するから助かるかも」とする説と、「いや、潮汐力で逆に引きずり込まれる」とする説があった。
最近のシミュレーションでは、後者の説が優勢だ。太陽が膨れると質量の一部を外に失い、地球は確かに少し外側に動く。でもそれ以上に、太陽の大気が地球の公転にブレーキをかけ、地球は少しずつ太陽に引きずり込まれる、という計算が多い。
どっちにしろ、高温のガスに巻き込まれて地球は蒸発する可能性が高い。
太陽の中で蒸発する、という発想、なかなか壮絶だ。
最期は白い宝石になる
赤色巨星の時期は、だいたい数億年。太陽基準だと短いほうだ。
その間に、中心ではまた変化が起きている。ヘリウムが限界まで圧縮されて、今度はヘリウム同士の核融合が始まる。3つのヘリウムが合体して炭素になる反応だ。これを「ヘリウム燃焼」と呼ぶ。
ここが最後の大きな燃料になる。ただし、太陽クラスの星はヘリウムを燃やし終わると、そこで核融合はおしまい。次の段階(炭素の燃焼)に進むには中心部が足りない。質量が足りないので、十分な温度まで上がらない。
結果、太陽はもう一度膨らんで不安定になり、外層のガスを宇宙空間に吐き出しはじめる。ゆっくりとガスの殻を脱ぎ捨てていく感じで、このガスは美しいシャボン玉状に広がる。これが「惑星状星雲」と呼ばれる、天体写真でよく見るあのカラフルな星雲だ。
ちなみに名前に「惑星」とつくのは、昔の望遠鏡で見ると惑星の円盤みたいに見えたから。惑星は関係ない。天文学でよくある、歴史的な誤解がそのまま名前になったパターン。
そしてガスを全部脱ぎ捨てたあと、中心には何が残るか。
地球サイズまで縮んだ、炭素と酸素のかたまり。「白色矮星」と呼ばれる、星の死骸だ。
白色矮星は核融合をしていないので、新しいエネルギーは生まれない。ただ熱を持っていて、その余熱でじわじわ光る。冷えるのにはめちゃくちゃ時間がかかる。ざっと数百億年から数千億年。
つまり太陽の本体が死んで、白色矮星として光りつづける時間のほうが、今までの太陽の寿命より長い。星が死ぬというより、モードが変わるだけとも言える。
空を見上げるときに思い出したいこと
最後に余談を。
太陽系の歴史は46億年。宇宙全体の歴史は138億年。つまり太陽は、宇宙の歴史の3分の1くらいを経験している、そこそこ古株の星だ。
そしてこの太陽にも、終わりがある。燃料はいつか尽きる。当たり前のことだが、あの毎朝のぼってくる黄色いかたまりにも、明確な始まりと終わりがある。
次に太陽を見るときに、ちょっとだけ違って見えるかもしれない。今ちょうど折り返し地点にいる、中年の恒星。50億年後には膨れあがって地球ごと飲み込む、予定はすでに決まっている。
そう思うとあたたかい太陽光が、ちょっとだけ貴重な気がしてこないだろうか。
星にも一生があって、いまその中盤を一緒に生きている。宇宙のスケールで見ると、これはかなり恵まれたタイミングで生まれた、とも言える。