金星は、地球のほぼ双子として生まれた。大きさも質量もよく似ていて、材料も、できた時期もほとんど同じだ。それなのに、いまの地表は約467度——鉛がドロドロに溶ける熱さである。

同じ場所で、同じような素材から生まれた隣の星が、片方は青い海と緑の星になり、片方は鉛が溶ける灼熱の世界になった。その分かれ道をつくったのが、私たちが毎日ニュースで聞く「温室効果」だと言ったら、少し身構えないだろうか。

ほぼ双子として生まれた星

NASAの公開データで数字を並べると、金星と地球がどれだけ似ているかがよくわかる。

金星の赤道直径は約12,104km。地球は約12,756kmだから、金星は地球の95%ほどの大きさだ。質量も地球に近い。太陽をまわる軌道も、地球のすぐ内側にある。惑星としての素性だけ見れば、ほとんど兄弟と言っていい。

だから昔から、金星は地球の「双子」や「姉妹惑星」にたとえられてきた。もし生まれたときの姿を遠くから眺めたら、どちらがどちらか見分けるのは難しかったはずだ。地球と金星は、太陽系の中でも飛び抜けて「似た者どうし」なのである。

金星の直径は地球の約95%で、ほとんど同じ大きさ

ところが、である。これだけ似た二つの星の「いまの顔」は、正反対と言っていいほど違う。片方には海と雲と生き物がいて、片方には鉛を溶かす熱と、硫酸の雲がある。

なぜ、こんなことになったのか。

鉛が溶ける地表に立ってみる

想像してみてほしい。あなたがいま、金星の地表に立っているとする。

まず温度。約467度だ。この数字、正直、初めて見たときは桁を一つ間違えたのかと思った。家庭用オーブンの最高設定でもだいたい250度どまり。その倍近い熱さの中に、地面がむき出しで横たわっている。鉛の融点は約327度だから、金星の地表に鉛の塊を置けば、水たまりのように溶けてしまう。

次に圧力。金星の地表の気圧は、地球の約93倍ある。これがどれくらいかというと、深さ900メートルほどの海の底で受ける水圧に近い。潜水艦でもめったに行かない深海の底。その圧力が、金星では「地面に立っているだけ」でかかってくる。熱と圧力、どちらか一方でも人間には耐えられないのに、金星はそれを同時に突きつけてくる。

金星の地表は467度で鉛が溶け、気圧は深さ900mの海底に相当する

空を見上げても、青空はない。金星の大気はほとんどが二酸化炭素で、上空には硫酸の雲が分厚く垂れこめている。熱され、押しつぶされ、酸に覆われた世界。日差しは雲ごしに鈍くにじみ、地平線はぼんやりとオレンジ色にかすむ。人が一歩でも踏み出せる場所ではない。

ここで当然の疑問が出る。金星は地球より太陽に近いから暑いのでは——と。たしかに金星は太陽に少し近い。でも、話はそんなに単純ではないのだ。

太陽に近いから、では説明がつかない

金星が受け取る太陽の光は、地球よりたしかに強い。けれども、467度という数字は、その「近さ」だけでは説明できないほど高い。

しかも金星は、分厚い雲で太陽の光の多くをはね返している。光を遠慮なく浴びているわけではないのだ。それなのに、地表は水星(太陽に一番近い惑星)よりも熱い。太陽に一番近い星より、二番目の星のほうが熱いというのは、素直に考えるとおかしな話である。

犯人は距離ではなかった。熱を「閉じ込めるもの」のほうだったのだ。

やや理屈っぽい話になるが、ここを飛ばすと後が効いてこないので、もう少しだけお付き合いいただきたい。鍵は、金星をくるむ二酸化炭素の大気にある。

暴走温室効果——熱を閉じ込める毛布

温室効果という言葉自体は、冬のビニールハウスを思い浮かべればいい。太陽の光は通すのに、中の熱は逃がさない。あれと似たことが、惑星の大気でも起きる。

太陽の光(主に目に見える光)は、大気をわりとすんなり通り抜けて地面を温める。温まった地面は、今度は赤外線という目に見えない熱の光を宇宙へ放とうとする。ところが二酸化炭素は、この赤外線を吸い込んで、また下へ投げ返す性質を持つ。熱が外へ逃げられず、地表付近にたまっていく。

二酸化炭素の分厚い大気が熱(赤外線)を閉じ込め、温度が上がり続ける

地球の大気にも二酸化炭素は含まれていて、ほどよい温室効果がある。実はこれは、ありがたい話でもある。この効果がまったくなければ、地球の平均気温は氷点下まで下がってしまうからだ。問題は「量」である。

金星の大気は、ほぼ丸ごと二酸化炭素でできている。しかも地球の90倍を超える圧力で、ぶ厚く積み重なっている。これだけ分厚い二酸化炭素の毛布にくるまれたら、熱は出口を失う。NASAはこの暴走した状態を、はっきり「runaway greenhouse effect(暴走温室効果)」と呼んでいる。

熱がこもる→温度が上がる→さらに熱がこもりやすくなる。この悪循環が歯止めなく進んだ先が、467度という地獄の数字なのだ。同じ温室効果でも、量が度を越すと、恵みが呪いに変わる。

分かれ道は、水にあったのかもしれない

では、なぜ地球はこうならずに済んだのか。そして金星は、最初からこんな灼熱だったのか。

ここに、水という主役が登場する。

水蒸気も、実は強力な温室効果ガスだ。研究者たちは、こんな筋書きを考えている。太陽にわずかに近い金星では、昔あったかもしれない海の水が蒸発しやすかった。空気中の水蒸気が増えれば温室効果が強まり、さらに温度が上がって、もっと水が蒸発する。この連鎖が暴走すると、海はすっかり干上がってしまう。そして干上がった星には、二酸化炭素を吸い取ってくれる海がもう残っていない。

一方の地球は、太陽からの距離がちょうどよかった。海が蒸発しきらずに残り、海水が二酸化炭素をどんどん溶かし込んでくれた。空気中の二酸化炭素が海や岩石に吸われていったおかげで、暴走の引き金が引かれずに済んだ——というわけだ。つまり地球では、海が巨大な「二酸化炭素の貯金箱」として働いてくれた。

これだけなら「ふーん」で終わる話なのだが、面白いのは、金星が昔から灼熱だったとは限らない点である。

NASAが開発中の金星探査ミッション「DAVINCI」は、金星が過去45億年でどう姿を変えてきたか、そして「かつて地球のように水をたたえ、生命を宿せる星だったのか」という問いを調べようとしている。言い換えれば、金星がいまも地獄なのは確かだが、昔からそうだったかどうかは、まだ決着のついていない謎なのだ。

もう一つの地球が辿った運命

金星には、いまもう一つの探査機計画「VERITAS」も控えている。NASAはこの二つのミッションで、双子のかたわれに何が起きたのかを本気で解き明かそうとしている。

考えてみると、金星の話は、遠い星の珍事ではない。温室効果という同じ仕組みが、片方の星では命を守る毛布になり、片方では命を焼き尽くす釜になった。その差は、材料の違いでも、神様のえこひいきでもなく、二酸化炭素の「量」と、水が残れたかどうかという、わりと細い一本の線だった。

金星の自転はとてもゆっくりで、1回まわるのに243地球日かかる。公転(太陽を1周)は225地球日だから、金星では「1日」が「1年」より長い。しかも自転は地球と逆向きで、もし分厚い雲の切れ間から太陽が見えたなら、西から昇って東へ沈む。何もかもが、こちらの常識の裏返しだ。

その裏返しの星を、今夜もあなたは見ているかもしれない。夕方の西の空や明け方の東の空で、ひときわ明るく輝く「宵の明星・明けの明星」——あれが金星だ。あんなに澄んで見える一番星の地面で、いまこの瞬間も鉛が溶け続けている。