正直、最初に聞いたときは「彗星が壊れる」という言葉の意味がよくわからなかった。惑星や小惑星ならともかく、氷と岩のかたまりが宇宙でバラバラになるとはどういうことなのか。

でも調べてみると、これがかなり面白い話だった。彗星の崩壊は単なる「壊れた」という出来事ではなく、太陽系がどんな材料からできていて、何十億年もの歴史をどうやって記録してきたかを読み解く窓口になっている。崩壊の瞬間を観測することで、内部の「凍った記憶」が外に出てくるからだ。

彗星が壊れる瞬間の全体イメージ

彗星というのは何者か

そもそも彗星は、太陽系が生まれた46億年前に残ったゴミの集まりだ。惑星に取り込まれなかった岩と氷が、太陽から遠く離れたオールトの雲(おおるとのくも)や、それより近いカイパーベルトに大量に漂っている。

その一部が何らかの理由で軌道を変え、内太陽系に向かってくるのが、私たちが「彗星」として見るものだ。コアの部分(核)は直径数kmから数十kmほどの雪だるまのようなかたまり。水の氷のほかに、一酸化炭素・二酸化炭素・アンモニアなどの揮発性物質(きはつせいぶっしつ)が凍りついている。

彗星の構造と「こんにちは領域」

彗星が太陽に近づくにつれて、これらの氷が蒸発し始める。太陽から約3〜4AU(1AUは地球から太陽までの距離)の圏内に入ると、水の氷が大規模に蒸発し、彗星らしい尾が目に見えるようになる。この領域を研究者たちは通称「こんにちは領域」と呼ぶこともある。尾が2本ある理由はまた別の話になるが、要するに塵の尾とイオン(電気を帯びたガス)の尾の2種類が生まれる。

問題は、何周もこの旅を繰り返すうちに、彗星はどんどん傷んでいくということだ。そしてある日、バラバラになる。

なぜ彗星は崩壊するのか

崩壊のメカニズムは大きく3つある。

彗星崩壊の3つのメカニズム

ひとつ目は潮汐力(ちょうせきりょく)だ。

潮汐力というのは、引力の「差」から生まれる力だ。地球の海に潮の満ち引きがあるのも月の潮汐力のせいだが、それと同じことが彗星に起きる。惑星や太陽に近づいたとき、彗星の近い側と遠い側では引力の強さが違う。その差が大きくなると、彗星は引き伸ばされてちぎれていく。

1994年に木星に衝突したシューメーカー・レヴィ9彗星は、まさにこの潮汐力で1つの核が21個に分裂した。あまりに綺麗に並んだので「真珠のネックレス」と呼ばれた。

ふたつ目は熱による爆発的崩壊だ。

彗星の核は表面と内部で温度差が大きい。表面に熱が伝わっても、内部はまだ極低温のまま凍りついている。この状態で一気に太陽に近づくと、内部の氷が急速に気化し始める。氷が気体になると体積は数百倍に膨張する。この圧力に核の岩盤が耐えられなければ、内側から爆発するように砕ける。

実際、周期的に彗星が急増光(きゅうぞうこう)する現象がある。これは内部の揮発成分が一気に噴き出したサインで、その後に崩壊することが多い。

みっつ目は自転の加速だ。

少しわかりにくいが、彗星はガスを噴き出しながら進む。バランスよく全方向に噴き出せばいいが、実際にはムラがある。非対称なガス噴出は彗星にトルク(ひねりの力)をかけ、自転速度を変えていく。自転が速くなりすぎると、遠心力が重力を上回る瞬間が来て、表面から物質が飛び出し、最終的にバラバラになる。

3つのメカニズムが単独で作用することもあれば、複合的に重なって崩壊を加速させることもある。

シューメーカー・レヴィ9が見せたもの

1994年7月16日から22日にかけて起きた「シューメーカー・レヴィ9彗星の木星衝突」は、天文学史上最もドラマティックな出来事のひとつだ。

シューメーカー・レヴィ9彗星の崩壊と衝突の記録

1992年に木星に接近したとき、潮汐力で21個の断片に分裂した。その後2年間、断片は木星の衛星のように周回を続け、ゆっくりと木星に引き寄せられた。1994年、21個の断片が6日間かけて次々と木星の大気に突入した。

最大の断片Gの衝突エネルギーは、広島型原爆の約60万倍と推定されている。衝突地点には地球と同じくらいの大きさの「傷跡」(暗い斑点)が残り、数週間にわたって観測できた。

この観測には重要な意義があった。ひとつは木星の大気の組成だ。衝突で深部から舞い上がった物質を分析することで、それまで見えていなかった木星の深層を垣間見ることができた。

もうひとつは惑星防衛(わくせいぼうえい)への意識だ。「大きな天体が惑星に衝突する」というのは、それまで6500万年前の恐竜絶滅くらいしかリアルなイメージがなかった。1994年の衝突はリアルタイムで全世界が目撃し、「これは他人事ではない」という感覚を広めた。

ちなみに、この観測はハッブル宇宙望遠鏡の「復活」を象徴する出来事でもあった。1993年に修理ミッションが行われたばかりのハッブルが、この歴史的イベントを鮮明に撮影し、修理の成功を世界に示した。

崩壊の「かけら」が流星になる

彗星が崩壊すると、破片は彗星のもとの軌道に沿って散らばる。この破片の列が、流星群(りゅうせいぐん)の正体だ。

地球が毎年ほぼ同じ時期に同じ流星群を見られるのは、地球の公転軌道が彗星の軌道と交差する地点が毎年同じだからだ。5月のみずがめ座η(エータ)流星群はハレー彗星の残骸、8月のペルセウス座流星群はスウィフト・タットル彗星の残骸だ。

こう考えると、夜空を横切る流れ星は「彗星の崩壊の記録」が大気で燃える瞬間だとも言える。なかなか詩的じゃないか、と思う。

崩壊は終わりではなく情報の解放だ

崩壊が語るもの:太陽系の「部品」の正体

彗星の崩壊を「壊れた」と見るか、「開いた」と見るかで、印象がかなり変わる。

彗星の内部は、太陽系が誕生した46億年前の状態をほぼそのまま凍らせた「タイムカプセル」だ。表面は何周もの太陽熱で変質しているが、内部は触れられていない。崩壊したとき、その新鮮な内部物質が宇宙空間に解放される。そこには水の氷・有機分子(ゆうきぶんし)・シリケート鉱物(けいさんえん)など、生命の材料になりうる物質が含まれている。

実際、「彗星が地球に水や有機物をもたらした」という説は今も有力な仮説のひとつだ。崩壊した彗星の破片が地球に落ちることで、生命の種が運ばれた可能性がある。

ハッブル宇宙望遠鏡は、これまでに複数の彗星崩壊をリアルタイムで観測してきた。2020年にはアトラス彗星(C/2019 Y4)が太陽に接近する途中で突然崩壊し、複数の断片になっていく過程を記録した。これも熱膨張と自転加速の複合作用と考えられている。

崩壊の予測はいまだ難しい。彗星の内部構造がわからなければ、いつ、どのメカニズムで崩壊するかを正確に計算できない。そこで期待されているのが、彗星の内部に探査機を送り込むミッションだ。ESAのロゼッタ計画(チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸)はその先例で、表面の情報は大量に集まった。だが内部はまだ謎のままだ。

宇宙の壊れ方には意味がある

彗星が崩壊する瞬間は、長い時間をかけて封印されていたものが一気に外に出てくる瞬間でもある。46億年前の氷が、今の地球の空で燃えて流れ星になる。そう考えると、崩壊というのはひとつの「時代の終わり」というより、「情報の手渡し」に近い気がする。

宇宙での壊れ方には、それぞれ意味がある。彗星の場合は、「ここに太陽系の原材料がありましたよ」という遺言みたいなものだ。地球が毎年その遺言の一部を受け取って、夜空を駆けていく。

SORABUMI(そらぶみ)では、こういう「宇宙の壊れ方と意味」の話をこれからも追っていきたいと思っている。次は、崩壊した彗星から生まれた流星群ひとつひとつについて、もう少し掘り下げてみたい。