カワベというのが、とにかく見栄っぱりな男だった。新しい時計を買えば町内を一周してくるし、孫が生まれたときは写真を回覧板にはさんで回した。そういう人である。

町は、なんとなく茶色い。空も、土も、屋根も茶色い。ところが夕方になると、西の空にひとつだけ、ばかみたいにきれいな星が光る。青くて、白くて、見ていると目のおくがじんとしてくる。町のだれもがそれを「あの星」と呼んで、縁側に出てぼんやりながめるのが、昔からの日課だった。

「宇宙一きれいな星なんだってさ」と、隣のハマさんはよく言った。気のいいおばさんである。「そのくせ、宇宙一いい住所でね。抽選に当たった人しか住めやしないんだと」

その抽選に、カワベが当たった。

もう、大変だった。当選通知を筒に入れて持ち歩き、会う人ごとに広げてみせる。「見ろよ、あの星だぞ。おれはあそこに住むんだ。茶色い星とはおさらばだ」。引っ越しの日は町じゅうが見送りに出た。半分はうらやましさで、半分はやれやれで。

さて、カワベは移ってからも、やたらと通話をかけてきた。画面のむこうで、得意そうに笑っている。

「どうだ、こっちは。昼みたいに明るいぞ。夜ってものがない。ずうっと白い」

「へえ」とハマさんは湯のみを持ったまま、「で、外はどんなの? 宇宙一きれいな星なんでしょ。歩いたら気持ちいいでしょうねえ」

「外?」カワベは鼻で笑った。「外なんか出たら、一秒で黒こげだよ。まぶしくて、熱くてな。だから窓もついてない。いらないんだ、そんなもの。みんな分かって住んでるのさ」

ハマさんは、はあ、と言った。

それから何日かして、また通話が来た。カワベの声が、どうもいつもより小さい。

「ハマさん。あのな、たのみがあるんだが」

「どうしたの、えらく神妙だね」

「……今夜、あの星、光ってるか」

ハマさんは縁側に出た。西の空に、いつものとおり、青白い星がひとつ、きれいに光っている。

「光ってるよ。今夜もきれいだ。うちから見える星で、やっぱりいちばんきれいなのは、あんたんとこだわ」

受話口のむこうが、しばらく静かになった。

「おれな、こっちへ来てから、一度もあれを見てないんだ」とカワベは言った。「窓がないだろ。外も見えない。自分が住んでる星が、どんな色で光ってるのか、ここじゃ分からんのだよ」

「……そりゃ、そうか」

「たのむ。ちょっとだけ、あれにカメラ向けてくれんか」

ハマさんは、しかたなく、スマホを西の空へ向けた。小さな画面のすみっこに、青白い点がにじむ。宇宙一きれいな、あの星だ。

その星の、窓のない部屋の中で、カワベはハマさんのスマホごしに、生まれて初めて自分の家をながめた。そうして、ほう、と長いため息をついた。

「……きれいなもんだなあ、おれんち」