ワキタ堂は、宇宙のはずれにある小さな買取店だった。乗りかえ客しか通らない町の片すみで、ワキタは指輪やら金歯やら、人の手あかのついた金物をこつこつ買い取って暮らしていた。
ある日、ゴンダというじいさんがやってきた。でっぷりした腹をゆすり、カウンターにどすんと指輪を置く。
「これを見ろ。うちに七代つたわる家宝だぞ。宇宙でいっとう値打ちのある金だ」
ワキタは虫めがねをのぞきこみ、ふうむ、とうなった。たしかに古い。が、どこにでもある金だ。値を下げるなら今だな、とつい欲が出た。もっとも、悪気はない。ちょっとした値切りのつもりだったのだ。
「ゴンダさん、残念だが……これはそんなに特別な金じゃない」
「なんだと」
「むかし、遠くの空で星がひとつ、どかんと砕けた日があってね。この世の金は、みんなその時に生まれたんだ。あんたの指輪も、わたしの奥歯も、そこらの金歯も、おおもとはぜんぶ同じ。七代どころか、どの金も生まれは同じ日でね」
ゴンダはぽかんと口をあけた。それから、みるみる顔を赤くして——笑いだした。
「なんだ、そりゃあ! じゃあ、どの金もみんな、星のかけらの宝物じゃないか!」
「……は?」
「わしの指輪が宝なら、おまえの奥歯だって宝だ。ありがたや、ありがたや」
ゴンダは指輪を胸にしまいこみ、ほくほく顔で帰っていった。買い取る話は、どこへやら。
まずいことに、この話は町じゅうに広まった。
「星が砕けた日の宝物だってさ」
「へえ、うちの仏具も?」
「手放すなんて、とんでもない」
それからというもの、ワキタ堂の戸を押す者は、ぱたりといなくなった。みんな金歯の一本まで後生大事にしまいこんでしまったのだ。棚はからっぽ、帳場は開店休業。ワキタはとうとう、店じまいの貼り紙を刷った。
その最後の日、ひとりの若い女が、そっと戸を開けた。
「あの……これ、買っていただけますか」
細い指から、小さな金の輪をはずして差しだす。
ワキタはふと手をのばしかけて——止まった。
星が砕けた、あの日の輪。この世にふたつとない、たったひとつのかけら。
「……いや」
ワキタは女の手を、そっと押しもどした。
「それは、もらえません」
女がきょとんとするのを尻めに、ワキタは貼り紙にもう一行、ふるえる字で書き足した。「買取、休みます。」