地球から見ると、普通の星は光の点だ。明るかったり暗かったり、色の違いはあっても、点は点。ところが宇宙には、その「点」が3つの星の合体だったり、お互いの前を横切りながら光の強さが変わる星系があったりする。
2026年5月、NASAの惑星探索衛星TESSが発見した天体が話題になっている。名前は「TIC 295741342」。数字と英字の羅列で覚えにくいが、中身はびっくりするほど珍しい。3つの星が、ほぼ完璧に同じ面に並んで動いているのだ。
三重星とはなにか
まず基本から整理すると、宇宙の星の約半分は「連星系」だ。つまり2つの星がお互いの重力に引かれ合いながら、ぐるぐると周回しているペアとして存在する。太陽のように孤独な星のほうが、むしろ少数派なのだ。
連星から一歩進むと「三重星系」がある。ペアをつくっている2つの星(内部連星)の外側を、さらに3つ目の星がゆっくり回っているシステムだ。こちらは連星よりは少ないが、やはり宇宙のそこかしこに見つかっている。
TIC 295741342もその三重星の1つだ。内側のペアは4.75日でお互いを1周し、外側の大きな星は412.8日(約1.1年)かけてペアを周回している。構成自体は珍しくない。問題は、3つの星の軌道の傾きがほぼ同じ、という点だ。
3つが「1枚の板」に乗っている
惑星や星が軌道を持つとき、その軌道は平面上にある。地球の公転軌道も平面だし、月の軌道もほぼ同じ平面に近い。でも複数の天体が絡むと、それぞれの平面が少しずつ傾くことが多い。太陽系でいえば、惑星の軌道は全部「ほぼ同じ平面」だが、木星や土星でさえ数度のズレはある。
TIC 295741342が驚かれている理由は、内部連星と外側の星の軌道のズレが、わずか0.25〜0.33度しかない点にある。これがどれだけ「奇跡的」かというと、既知の三重星の中でこれほど傾き差が小さいケースは他に例がない。
このくらい「揃って」いると、地球から見たときに面白いことが起きる。外側の大きな星の後ろを、内部ペアが横切る瞬間が生まれるのだ。
「頭と肩」型の光の変化
天文学では、ある星が別の星の前を横切るとき、その星から届く光が少し弱くなる。これを「食(しょく)」と呼ぶ。食変光星とは、このように定期的に明るさが変わる星のことだ。
TIC 295741342では、3つの星が揃った同一平面上にあるせいで、3重に食が起きる。内部連星の2つがお互いの前を横切るだけでなく、412.8日ごとに、そのペアが大きな外側の星の背後に消えるイベントも加わる。
このときの光の変化パターンが独特なのだ。研究チームは「頭と肩(head-and-shoulders)」という形容を使っている。光度曲線のグラフを見ると、まずペアの星Bが巨大な外側の星の後ろに入って光が少し落ち(片方の「肩」)、続いて星Aも入ってさらに暗くなり(「頭」)、そして星Aが先に出てきて(反対の「肩」)、最後にBも出てくる——という複雑な波形を描く。
この形の光度曲線は、内部ペアの2つの星が「別々の大きさ・輝きを持っていて、しかも順番に隠れていく」ことを示している。つまり、グラフの形を解析するだけで、3つの星全部のサイズと明るさの比がわかるのだ。
光度曲線から星を「測る」のは、シャドウを見て部屋の中の家具の形を当てるようなものだ。ここまで詳細に読み取れる三重星は、そうそう見つかるものではない。
なぜ今まで見つからなかったのか
このシステムを見つけるには、変光の記録を長期間、かつ精密に取り続ける必要がある。内部連星の食は4.75日周期で起きるが、外側の星が絡む「三重食」は412.8日に1回しか来ない。
TESSは宇宙空間から連続的に数十万個の星を監視しているため、こうした超低頻度のイベントを捉えられる。地上の望遠鏡では天候や昼夜で観測が途切れるし、1台の望遠鏡でこれだけ多くの星を長期追跡するのは難しかった。
研究チームは光度曲線に加え、星の視線速度(ドップラー効果で測る動き)も48回分のスペクトル観測で確認している。これで3つの星それぞれの質量や大きさが、独立した方法で裏付けられた形だ。
巨星がどこへ向かうかが焦点
現在のTIC 295741342で最も大きい星(外側の巨星C)は、赤色巨星へと進化しつつある段階にあると考えられている。太陽より大きな星はやがて膨らみ、赤色巨星という巨大な状態になる。
問題は、巨星Cがさらに膨らんだとき、内部連星との距離が詰まってくることだ。星の膨張が一定の臨界(ロシュ・ローブと呼ぶ境界)を超えると、その外側の物質が重力の関係で内側の連星のほうへ流れ込み始める。
研究者たちが特に注目しているのは、2つのシナリオだ。ひとつは巨星Cが内部連星に「質量を移す」安定した段階を経るケース。もうひとつは、巨星が連星ごと包み込む「共通外層(コモン・エンベロープ)」と呼ばれる短期間の激変段階に入るケースだ。どちらになるかで、この三重星系の最終的な運命——白色矮星、または近接連星の再構成——が変わってくる。
正直なところ、今の計算では絞り込めていない。巨星Cが赤色巨星分枝にいるのか、水平分枝にいるのかでさえ、まだ2つの解釈が残っているくらいだ。
TESSが開いた「三重食の窓」
もうひとつ興味深いのは、TIC 295741342のように「三重に食が見える」システムは、今後の大規模な観測で続々と発見されるかもしれないという点だ。
TESSは現在も稼働しており、数十万個の星の光を記録し続けている。また、2027年以降の運用が予定されているヴェラ・ルービン天文台などは、さらに広い空を細かく追跡するための装置だ。
宇宙には今も「三重食」を静かに繰り返している三重星が眠っているはずで、それが「見える角度から偶然見ている」観測者に対してだけ姿を現す。私たちはTIC 295741342に、その窓の一つを開いてもらったといえるかもしれない。
軌道の傾き差0.3度。この数字を頭に置きながら夜空を眺めてみると、光の点の向こうに隠れた「偶然の整列」が少し気になってくる。
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