数ミリ秒。まばたきの何十分の一という短さで、宇宙のどこかから強烈な電波がひらめく。
その正体は長いあいだ分からず、しかも同じ場所から不規則に何度も繰り返すものがある。最近、そんな電波のひとつが「ひとりじゃなかった」ことが分かった。相棒の星がいたのだ。
数ミリ秒だけ光る、正体不明の電波
まず主役の電波を紹介しておこう。高速電波バースト(FRB、Fast Radio Burst)と呼ばれる現象だ。
名前のとおり、ほんの一瞬だけ強く光る電波の閃光である。持続時間はたいてい数ミリ秒。あまりに短いので、最初に見つかったときは観測装置の故障だと疑われたほどだった。
ところが、この一瞬に放たれるエネルギーがとんでもない。太陽が何日もかけて出すぶんに匹敵するとされる。それを、まばたきより短い時間で電波として吐き出す。
今回の主役、FRB 220529A の距離を聞くと、さらにくらっとくる。地球から約25億光年。光の速さで25億年かかる場所だ。
この光が旅立ったころ、地球にはまだ多細胞の生きものすらいなかった。海の中で微生物がゆらゆらしていた時代の電波が、いま届いている。そう考えると、数ミリ秒の閃光の重みが少し変わって見えないだろうか。
厄介なのは、この手のFRBの一部が同じ場所から不規則に繰り返すことだ。周期があるわけでもなく、気まぐれに光る。どこから来て、なぜ繰り返すのか。長らく大きな謎だった。
発信源はマグネター ── 都市サイズの磁石
では、そんな電波を放つのは何者なのか。有力視されているのがマグネターだ。
マグネターは中性子星(超新星爆発の後に残る、極端に小さくて重い天体)の一種で、けた外れに強い磁場を持つ。星が一生の最後に自分の重さで潰れきった、いわば宇宙の燃えかすである。
この「潰れきり」がすさまじい。太陽ほどの重さが、直径わずか20kmほどの球に押し込められている。だいたい山手線がすっぽり入るくらいの大きさだ。
密度がどれほど非常識か、角砂糖で考えると分かりやすい。中性子星の物質を角砂糖1個ぶんだけすくうと、その重さは約10億トンになる。手のひらに乗る立方体に、山ひとつぶんの物質が詰まっている計算だ。
マグネターはそこにさらに強烈な磁場をまとう。地球の磁場の1000兆倍にもなるという。方位磁針どころか、近づけば原子までねじ曲がる世界である。
ただ、今回の研究の面白さは「源がマグネターらしい」ことそのものではない。もっと別の、見え方が一気に変わる発見があった。
17か月、何も起きなかった。そして2023年末
FRB 220529A は、中国にある巨大電波望遠鏡FASTで長く見張られていた。FASTは直径500mの皿を持つ、世界最大級の一枚鏡の電波望遠鏡だ。
500mといってもピンとこないかもしれない。サッカー場をおよそ30面ぶん敷き詰めた広さの反射面が、山あいの窪地にすっぽりはまっている。それだけの大きさがあるから、25億光年先のかすかな電波も拾える。
研究チームはこの望遠鏡で、FRB 220529A を根気よく監視し続けた。ところが、しばらくは何も面白いことが起きなかった。
観測はおよそ20か月に及んだ。そのうち17か月ほど、電波はとくに変わったそぶりを見せず、淡々と光っては消えるだけだったという。
面白いのはここからだ。2023年の終わりごろ、ずっと平穏だった信号に、突然おかしな変化が現れた。ある値が、それまでの100倍以上に跳ね上がったのだ。
しかも、その異変はすぐに引いた。跳ね上がった値は、およそ2週間かけてもとの水準まで戻っていったという。長い平穏のあとの、たった一度の短い嵐。この2週間が、謎を解く鍵になった。
電波が「ねじれた」── 回転量という手がかり
100倍に跳ねた「ある値」とは何だったのか。回転量(RM、ローテーション・メジャー)と呼ばれるものだ。少し寄り道になるが、ここを押さえると話が一気に見える。
電波や光は、進む向きに対して波が揺れる方向を持っている。この揺れの向きのことを偏光という。身近なところでは、偏光サングラスが水面のギラつきを消すのは、特定の向きの光だけを通しているからだ。
電波が磁場を帯びたガスの中を通り抜けると、この偏光の向きがくるりとねじれる。どれだけねじれたかを表すのが回転量だ。途中にどんなガスがあったかを教えてくれる、いわば道中の記録係である。
その記録係が、2023年末に「今回はやたらとねじれた」と報告してきた。ふだんの100倍。つまり、いつもは電波の通り道になかったはずの、濃くて磁場の強いガスが、突然そこに現れたことになる。
しかも2週間で消えた。恒星や星雲のような動かない構造では、こんな短時間で現れて消える芸当はできない。何か、もっと素早く通り過ぎるものが、電波の通り道を横切ったはずだ。では、それは何だったのか。
相棒の星が起こした嵐
ここで研究チームがたどり着いた答えが、記事の主役の「相棒」だ。
私たちの太陽は、ときどきコロナ質量放出(CME)という現象を起こす。大量のプラズマ(電気を帯びたガス)を宇宙空間へ一気に噴き出す、いわば太陽の大噴火だ。これが地球に届くとオーロラが光り、ときに通信やGPSを乱す。
研究チームは、FRB 220529A の一瞬の異変も同じ仕組みで説明できると考えている。マグネターのそばに太陽によく似た星があり、その星がCMEを起こした。噴き出した磁場入りのプラズマ雲が、ちょうど地球へ向かう電波の通り道を横切った。だから2週間だけ、偏光が激しくねじれた ── というわけだ。
言い換えれば、この電波源はひとりぼっちの天体ではなかった。マグネターと、太陽に似た恒星。二つが連れ添う連星系だと、研究チームは強く支持している。
想像してみてほしい。もしあなたが25億光年先のその星系のそばに浮かんでいたら、目の前で太陽そっくりの星が炎の塊を噴き上げ、その向こうで都市サイズの磁石が数ミリ秒ごとに青白く閃いている。派手すぎる二人組だ。
正直に言うと、この筋書きを知ったとき、探偵小説のような気持ちよさがあった。動かぬ証拠は、犯人そのものではなく「一瞬よぎった影」のほうだった。
「繰り返す」の意味が変わる
ひとつ確認しておきたい。連星だという結びつきは、あくまで観測された「ねじれの急増」から研究チームが導いた解釈だ。すべてのFRBが連星から来ると決まったわけではない。
それでも、この一件は見え方を大きく変える。研究チームは、少なくとも一部の繰り返すFRBについて、その起源が連星系にあることを示す決め手になったと述べている。相棒の存在が、電波のふるまいに影を落としているのかもしれない。
そう考えると、「なぜ気まぐれに繰り返すのか」という長年の問いも、単独の天体だけを見ていては解けなかった可能性が出てくる。舞台にもうひとりいた。それだけで、同じ信号がまったく違う物語に見えてくる。
今度あなたが偏光サングラスをかけて水面のギラつきが消える瞬間、その「向きをそろえる」仕組みを思い出してほしい。25億光年かなたで一度だけねじれた電波が、遠い星の相棒の存在をそっと白状させた ── きっかけは、それと同じ光の性質だった。