220万個。それがAIパイプライン「RAVEN」が一気に読み通した星の数だ。人間の天文学者が一つひとつ確認していたら、何十年かかったかわからない。

結果は、118個の惑星を新たに確認し、さらに2,000個以上の「惑星である可能性が高い候補」を洗い出すという、ちょっと信じがたいものだった。しかもそのデータから、太陽に似た星のおよそ10%が公転周期16日以内の近距離惑星を持つ、という統計まで弾き出した。これは「系外惑星がどれだけありふれた存在なのか」を数字で叩きつけた瞬間だった。

AIが変えた系外惑星探索

そもそも、系外惑星はどうやって見つけるのか

まず基本を押さえておこう。系外惑星とは、太陽以外の星を周回する惑星のことだ。1995年にスイスの天文学者が初めて発見して以来、現在までに5,000個以上が確認されている。

でも「見つける」と言っても、惑星を直接撮影できるケースはごくまれだ。何光年も離れた星の周りを回る小さな天体は、親星の光にかき消されてしまう。懐中電灯の真横にいるホタルを100キロ先から見分けるようなもので、正直むちゃな話だ。

だから天文学者は間接的な方法を使う。中でもTESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)が使っているのが「トランジット法」。惑星が星の前を横切ると、地球から見たその星の明るさがほんのわずか暗くなる。この減光パターンを検出して「ここに惑星がいる」と判断する仕組みだ。

減光の深さはだいたい0.01〜1%程度。肉眼で気づけるレベルではない。だからこそ精密な宇宙望遠鏡と、膨大なデータを処理する技術が必要になる。

トランジット法のしくみ

TESS ── 全天を見渡す「惑星ハンター」

NASAのTESSは2018年4月に打ち上げられた宇宙望遠鏡だ。4台のカメラで空を区画ごとに撮影しながら、約2年で全天の85%以上をカバーした。現在は延長ミッション中で、同じ領域をさらに深く観測し続けている。

TESSが狙うのは、地球から比較的近い明るい星だ。前任のケプラー宇宙望遠鏡(2009〜2018年)が遠方の暗い星を集中的に見たのに対し、TESSは近所の星を広く浅く見る設計になっている。近いぶん、見つかった惑星を後からジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などで詳しく調べやすい、という利点がある。

ただ、ここに問題がある。TESSが観測した星の数は、文字通り何百万にもなる。光度曲線(時間ごとの明るさの変化グラフ)を1本ずつ目で確認するのは、人間にはとうてい無理だ。実際、TESSのデータは「宝の山だが、掘り手が足りない」状態がずっと続いていた。

RAVEN が解決した「人手のボトルネック」

そこに登場したのが、イギリスのウォーリック大学が開発したAIパイプライン「RAVEN」だ。名前だけ聞くとかっこいいが、やっていることは地道で、しかし人間には到底まねできない規模の仕事だ。

RAVENの処理フローはこうなっている。まず、TESSが取得した220万個の星の光度曲線を入力する。次に、周期的な減光がないかを機械的にスキャンする。ここまでは従来のソフトウェアでもできた。

違いが出るのはその先だ。減光信号が見つかっても、それが本当に惑星のせいとは限らない。たとえば連星(2つの星が互いの周りを回っている系)でも似た減光パターンが出る。こうした「偽陽性」を見破るために、RAVENは機械学習モデルを投入する。リアルな模擬データで訓練されたニューラルネットワークが、「これは惑星っぽい」「これは連星だ」と分類していく。

最後に統計的な検証をかけて、惑星である確率が十分に高いものだけを「確認済み」とする。この全工程を自動で回せるのがRAVENの強みだ。

正直、ここまで聞くと「AIがやったんでしょ、すごいね」で終わりそうだが、もう少し踏み込むと面白い。

RAVENパイプラインの処理フロー

機械学習が「目」を持つまで

RAVENの核になっている機械学習モデルは、いわゆるディープラーニング(深層学習)の一種だ。光度曲線のパターンを画像的に認識して、惑星トランジットかそうでないかを判定する。

ここで重要なのは、訓練データの作り方だった。天文学でAIを使うとき最大の壁は「正解データが少ない」ことだ。確認済みの系外惑星はまだ数千個しかないし、その光度曲線も条件がバラバラだ。

RAVENの開発チームは、この問題をシミュレーションで解決した。惑星がある場合・ない場合の光度曲線を物理モデルから大量に生成して、訓練に使ったのだ。現実のノイズも加えてあるから、実データに近いリアルさがある。こうして鍛えられたモデルは、人間の専門家と同程度かそれ以上の精度で偽陽性を見破れるようになった。

ちなみに、RAVENを率いた研究者マリナ・ラファルガ・マグロ博士(ウォーリック大学)は、開発者のアンドレアス・ハジゲオルギウ博士らとともに成果を学術誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』に発表している。査読済みの正式な科学論文だ。

太陽に似た星の10%に「ご近所惑星」がいる

RAVENが叩き出したデータの中でも、いちばんインパクトがあったのはこの数字だろう。太陽に似た星(F型・G型・K型星)のうち、およそ9〜10%が公転周期16日以内の惑星を持っている。

公転周期16日以内とは、要するにものすごく親星に近い軌道を回っている惑星のことだ。地球の公転周期が365日だから、16日というのは比較にならないほど短い。それだけ近ければ表面温度は数百度に達する場合もあり、地球のような生命に向いた環境ではない。

でも、ここで大事なのは「住めるかどうか」ではない。10個に1個の割合でそんな惑星が見つかるという事実そのものだ。夜空を見上げて太陽に似た星を10個数えたら、そのうち1個は近距離に惑星を従えている計算になる。

さらに面白いのは「海王星砂漠」と呼ばれる領域の話だ。海王星サイズの惑星が親星のすぐ近くにいるケースは極端に少なく、太陽型星のわずか0.08%しかない。近すぎると大気が吹き飛ばされてしまうのか、そもそもそこには移動してこないのか、まだ理由は確定していない。RAVENのデータが、この謎を解く手がかりになると期待されている。

太陽に似た星の約10%が近距離惑星を持つ

「惑星がある」が当たり前の宇宙

ここで一歩引いて考えてみたい。1995年に初めて系外惑星が見つかったとき、天文学界は騒然とした。太陽系の外にも惑星があるのか、と。それからわずか30年で、状況は完全にひっくり返った。

今では「惑星がない星のほうが珍しいかもしれない」という見方すら出てきている。ケプラーのデータは天の川銀河だけで数千億個の惑星がある可能性を示唆していたし、RAVENの成果はそれをさらに裏づけた。

そう考えると、ふと怖くなる。これだけ惑星がゴロゴロしているのに、地球外生命の確認はまだゼロだ。「どこにいるのか」というフェルミのパラドックスが、データが増えるほどにじわじわ重みを増してくる。

もっとも、RAVENが見つけた惑星の多くは高温の近距離惑星であって、生命に適した環境とは言いがたい。ハビタブルゾーン(液体の水が存在しうる領域)にある惑星を大量に見つけるのは、次の課題だ。TESSの延長ミッションや、今後打ち上げが予定されている次世代望遠鏡が、その役割を担うことになる。

AIと天文学の「これから」

RAVENの成功は、天文学にとってのAI活用がもう実験段階ではないことを示している。220万星のデータを人間だけで処理するのは非現実的だったし、今後はさらにデータ量が増える一方だ。

たとえばヨーロッパ宇宙機関(ESA)のPLATO計画は2026年打ち上げ予定で、さらに精密な惑星探索を行う。ヴェラ・ルービン天文台(2025年本格稼働)は、毎晩2,000万個の天体を撮像する。こうなるともはや「AIなしでは天文学が回らない」時代だ。

ただ、勘違いしてほしくないのは、AIが天文学者の仕事を奪うわけではないということだ。RAVENは候補を絞り込むところまでは自動でやるが、最終的な確認や物理的な解釈は人間の仕事だ。AIは目が良くてタフな助手であって、判断するのは科学者自身だ。

RAVENという名前の由来は公式には明かされていないが、英語で「大きなカラス」を意味する。夜空を飛び回り、光の粒の中から惑星という宝を見つけ出すカラス。なかなか洒落た名前だと思う。

118個の確認済み惑星と2,000個以上の候補。この数字は、私たちが住む宇宙の「ふつう」がどんなものかを教えてくれる。惑星は特別な存在ではなく、星があるところにはたいてい惑星もある。それが当たり前の宇宙に、私たちは暮らしている。