「岩石か、ガスか」のどちらでもなかった

宇宙に惑星はあふれている。いま確認されているだけで5,000個をゆうに超え、毎年新しいものが見つかり続けている。それだけ数があると、研究者たちは惑星を大きく2つに分類することに慣れてきた。

ひとつは岩石惑星。地球や火星のように、固い地殻があって、表面を歩けるタイプ。もうひとつはガス惑星(あるいはガスが薄めの「ミニネプチューン」)。木星や海王星のように、水素やヘリウムが厚く覆っているタイプだ。

ところが2023年、JWST(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)はそのどちらでもない惑星を「確認」した。

GJ 9827d。地球から97光年、うみへび座の方向にある。直径は地球の約1.96倍、質量は約6.5倍。大きさだけ見ると「ちょっと大きい岩石惑星か、小さなガス惑星」といったところだ。ところがJWSTが大気を調べると、驚くべきことがわかった。

大気のほぼすべてが水蒸気だった。

窒素も、酸素も、二酸化炭素も主役じゃない。水だ。水蒸気が大気の97%以上を占める惑星。研究者たちはこれを「スチームワールド」と呼んでいる。

惑星の種類と「スチームワールド」の位置づけ

なぜ「確認」という言葉を使うのか

少し正直に説明すると、「スチームワールド」という惑星タイプの存在自体は以前から理論的に予測されていた。でも予測と観測は別の話で、実際に大気成分を分光して「これは水蒸気の惑星だ」と言えた例はなかった。

GJ 9827dは、この「世界初の直接確認」をJWSTがやり遂げた惑星だ。ハッブル宇宙望遠鏡でも水の痕跡を示すデータはあったが、ノイズとの区別が難しく確定的ではなかった。JWSTになって、ようやく「これは確かに水蒸気だ」と言えるレベルのデータが得られた。

GJ 9827 惑星系の構成

GJ 9827という恒星は、太陽より少し小さくて暗いオレンジ色の星だ。この星のまわりを3つの惑星が回っている。内側から惑星b、c、dの順で、今回の注目株は一番外側のdだ。公転周期は6.2日。つまり6日ちょっとで1年が終わる。

それでも「外側」と言うのは、b と c がさらに過酷で、1日ちょっとで1周してしまうほど恒星に近いからだ。dは相対的にマシな位置にいる。とはいえ地球よりずっと恒星に近く、表面温度はゆうに400℃を超えると見積もられている。液体の水が安定して存在できる環境ではない。

光の「引き算」で大気を読む

どうやってそこまでわかるのか、と思うかもしれない。97光年離れた惑星の大気成分を、地球から測れるものなのか。

実は測れる。「トランジット分光法」という手法だ。

トランジット分光法 ── 大気の成分を光で読む

仕組みはこうだ。惑星が恒星の手前を通り過ぎる瞬間(トランジット)に、星の光を観測する。惑星の影がかかって星は暗くなるが、このとき大気がある惑星では、大気を通り抜けた光が届く。

大気中の分子は、特定の波長の光を吸収する。水(H₂O)なら近赤外線の特定の帯域を吸収する。二酸化炭素なら別の帯域を。つまり、透過してきた光のスペクトルに「どの波長が欠けているか」を調べると、大気に何が含まれているかがわかる。

GJ 9827dのスペクトルには、水蒸気の吸収パターンがはっきり刻まれていた。しかもそのパターンが非常に強い。窒素や水素が希薄化してくれないほど、水蒸気が圧倒的に支配的なのだ。

ハッブルでもうっすら見えていたこの信号を、JWSTは30を超えるトランジット観測から積み上げて確定させた。地道な観測の積み重ねが、歴史的な発見につながった。

「水の惑星」は、生命の候補か

ここで誰もが思う疑問がある。水がそれだけあるなら、生命がいるのでは、と。

正直なところ、それは難しい。

まず温度が問題だ。GJ 9827dの大気は400℃以上と見積もられている。さらに強烈な恒星放射を受ける環境で、液体の水が安定して存在できる「ハビタブルゾーン」の概念から外れている。水は確かに豊富だが、すべて蒸気になるほどの高温なのだ。

それに、生命に必要なのは水だけではない。エネルギーの収支、有機物の源、化学反応を促す界面(液体と固体の境界など)、そして時間だ。GJ 9827dがこれらすべてを満たす証拠は、今のところない。

では生命の観点でこの発見に意味はないか、というと、そうでもない。

スチームワールドが「実在する」とわかったことで、惑星の多様性の地図が書き直された。水を大量に持つ惑星がどうやって形成されるのか、その水はどこから来たのか、岩石惑星とガス惑星のあいだでどんな中間形態があるのか。そういう問いに答えるための足場がひとつできた。

水が豊富な惑星が確かに存在するなら、もっと低温で水が液体でいられるゾーンに同じタイプの惑星がいる可能性もある。GJ 9827dはその「候補への入り口」として意味を持つ。

スチームワールドはどうして生まれるのか

スチームワールドの内部構造(予想モデル)

GJ 9827dが今の姿になった経緯については、まだ2つの仮説が競っている。

ひとつは「水蒸気の惑星」説。恒星から離れた場所(雪線の外側)で水が豊富な状態で形成され、その後恒星に近い軌道に移動してきた、というものだ。氷に満ちた岩石が集まって惑星になり、恒星の熱で徐々に水が蒸発していった絵だ。

もうひとつは「ガスが剥ぎ取られた」説。もともとは水素ヘリウムの大気を持つミニネプチューンだったが、恒星の強烈なX線・紫外線に晒されて軽いガスが宇宙に逃げ出し、残った重い水蒸気だけが今の大気を形成した、というシナリオだ。

どちらが正しいかは、内部構造をより詳しく調べないとわからない。密度の精密測定や、惑星の形成シミュレーションとの照合が今後の課題だ。

JWSTが開けた「系外惑星の大気時代」

GJ 9827dの話をするうえで欠かせないのが、JWSTの存在感だ。この望遠鏡が運用を始めた2022年以降、系外惑星研究のスピードが一気に上がった。

従来のハッブル宇宙望遠鏡でも大気の探索はできた。でも感度と波長域が限られていた。JWSTは近赤外線から中間赤外線まで幅広く観測でき、水やメタン、二酸化炭素のシグネチャーをかなりの精度で検出できる。

スチームワールドの確認はその成果の一例に過ぎない。これと同時期に、JWSTは別の系外惑星で二酸化炭素を検出したり、硫酸の雲を同定したりもしている。数年前まで「もしかしたら」だった惑星の大気研究が、いまや「確かに何が含まれているか」のレベルになってきた。

地球から97光年。遠い話のようで、これは私たちの天の川銀河の中では近所だ。そのご近所で、水しかない惑星が普通に存在している。「岩石か、ガスか」という2択は、宇宙の現実には追いついていなかった。

第3の惑星タイプが宇宙地図を書き直す

惑星の多様性を理解することは、「なぜ地球に生命が生まれたか」を理解することに直結する。

地球は岩石でできていて、表面に液体の水があって、薄い大気を持つ。これは宇宙全体でみれば、ひとつの特殊解だ。ほかにどんなバリエーションがあるかを知ることで、地球がどれだけ「たまたま」なのか、あるいはそうでもないのかが見えてくる。

スチームワールドの存在確認は、そのバリエーション一覧に新しいページを加えた。

水蒸気に包まれた世界が97光年先に実在する。生命が住めるかどうかはまだわからない。でも確かにそこにある。それを知るだけで、宇宙を見る目が少し変わる気がする。