隣の星まで4光年。天文学的なスケールで見ると、28光年という距離はほぼ「庭先」に等しい。
2026年5月、そのすぐそばに、液体の水が存在できる条件を満たす惑星が見つかった。地球の6倍以上の質量を持つスーパーアース、「Ross 318 b」だ。名前こそ地味だが、これは系外惑星探索の歴史において、かなり珍しい発見である。
28光年、「近い」のか「遠い」のか
正直に言うと、28光年は人間の感覚では天文学的に遠い。光の速さで28年かかる距離であり、現在の技術ではどんな宇宙船でも数万年かかる。
しかし系外惑星研究の文脈では、28光年は「観測可能な近傍」に分類される。天の川銀河の直径は約10万光年。その中で地球からの観測手段が届く惑星となると、数百光年圏内がせいぜいだ。28光年は、その中でも特に手が届きやすい場所にある。
Ross 318という星は、うさぎ座の方向にある赤色矮星(M型矮星)だ。スペクトル型はM3.5V。表面温度は約3,000〜3,500℃で、太陽(約5,500℃)に比べてずっと低い暗い星である。明るさも太陽の1.5%程度にすぎない。
ただ、「暗い」「小さい」ことはある意味で惑星探索の強みにもなる。惑星を検出する技術の多くは「星の光の変化」を利用するため、星が小さいほど惑星の影響を相対的に大きく捉えられるのだ。
スーパーアースとは何か
Ross 318 bは「スーパーアース」と呼ばれる惑星のカテゴリに属する。
スーパーアースとは、質量が地球の1〜10倍程度の系外惑星を指す用語だ。ただし「スーパーアース」という名前から、「地球の大型版」「地球に似た惑星」を連想するのは少し早い。
実際にはスーパーアースには大きく分けて3つのタイプがある。ひとつは岩石成分が多い「岩石型」、もうひとつは厚いガス層を持つ「ミニネプチューン型」、そして全球が深海で覆われた「水惑星型」だ。どのタイプになるかは、質量・密度・形成場所によって決まる。
Ross 318 bの最小質量は地球の約6.2倍で、推定半径は地球の約1.7倍。この質量と半径の組み合わせから、研究チームは「厚い大気を持つ惑星」である可能性を指摘している。質量が大きいほど重力も強くなり、大気を引き留める力が増すからだ。
ちなみに、太陽系にはスーパーアースが存在しない。地球(約1倍)と天王星・海王星(約14〜17倍)の間には大きなギャップがあり、その中間サイズの惑星は太陽系ではなぜか生まれなかった。宇宙全体では非常によく見られるタイプなのに、なぜ太陽系にないのかは今も謎のひとつだ。
ハビタブルゾーン:液体の水が存在できる範囲
今回の発見で最も注目されるのは、Ross 318 bが「ハビタブルゾーン(居住可能域)」の内側に位置していることだ。
ハビタブルゾーンとは、惑星表面に液体の水が存在できる温度条件を満たす、恒星からの距離範囲のことを指す。近すぎると水は蒸発し、遠すぎると凍る。その中間の「ちょうどいい範囲」がハビタブルゾーンだ。
ただし、ここに少しトリックがある。ハビタブルゾーンの位置は恒星の種類によって大きく変わる。太陽のように明るい星では、ハビタブルゾーンは遠くに広がる。逆に暗い赤色矮星では、ずっと近い場所に収まる。
Ross 318 bはRoss 318から約0.19天文単位(AU)という非常に近い距離を39.6日かけて公転している。これは水星(0.39 AU)より恒星に近い位置だが、Ross 318の光度が低いため、受け取る熱は地球が太陽から受ける量の0.58倍程度に抑えられる。これがちょうどハビタブルゾーン内に収まる温度条件なのだ。
「近い」のに「適温」。パラドックスのように見えるが、星の暗さがそれを可能にしている。
赤色矮星の惑星に住めるのか:課題と希望
「ハビタブルゾーン内にある」ことはわかった。では、本当にそこに生命が住める可能性はあるのだろうか。
研究者たちの間では、この問いに対して楽観論と慎重論の両方が根強く存在する。
まず課題として知られているのが、赤色矮星の「フレア問題」だ。若い赤色矮星は爆発的なエネルギーを放出するフレアを頻繁に起こし、惑星の大気をじわじわと剥ぎ取ってしまう可能性がある。磁気嵐による宇宙線の増加も、大気・生命体双方に厳しい環境をもたらす。
さらに、ハビタブルゾーン内の惑星は恒星の近くを公転するため、「潮汐固定」が起こりやすい。月が常に同じ面を地球に向けているように、惑星の自転と公転が一致してしまい、昼側は永遠に昼、夜側は永遠に夜になる状態だ。これが大気の循環を損ない、生命に不適な極端な温度差を生む可能性がある。
一方で、希望もある。大気があれば熱を運び回り、昼夜の温度差を大幅に縮められることが計算機シミュレーションで示されている。また、赤色矮星は宇宙で最も数の多い恒星タイプであり(天の川銀河の星の約70〜75%が赤色矮星とされる)、寿命が数百億〜数兆年と非常に長い。生命が進化するための時間は十分すぎるほどある。
Ross 318については、15年間の観測データから惑星の存在が確認されており、星そのものの磁気活動も比較的穏やかな段階にあると見られている。これは「居住可能性」への楽観的な要素のひとつだ。
なぜ今が発見ラッシュなのか
Ross 318 bの発見に使われたのは、スペイン・チリのCARMENES分光器、ハワイのHIRES分光器、そしてNASAのTESS宇宙望遠鏡のデータだ。15年分の観測データを組み合わせて、惑星の存在を確認した。
これだけ丹念な観測が必要なのは、惑星自体が直接見えないからだ。スーパーアースは恒星の光に比べてはるかに暗く、現在の望遠鏡では直接撮像がほぼ不可能だ。そこで使われるのが「視線速度法」という手法で、惑星の重力が恒星をわずかに揺らす動きを分光器で捉える技術だ。地球の6倍の質量を持つRoss 318 bでも、恒星を揺らすのはほんのわずか──毎秒数メートルオーダーの速度変化にすぎない。
研究チームは特に、信号の時間的な一貫性を15年にわたって確認し、惑星の軌道を精密に決定した。この地道な作業の積み重ねが、今回の発見を支えている。
ここ数年で赤色矮星系のスーパーアース発見が相次いでいるのは、分光精度の向上と長期観測データの蓄積が実を結んでいるからだ。TESSの全天サーベイも、多数の惑星候補を地道に積み上げている。そして2022年に稼働を始めたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、近傍の系外惑星の大気組成を直接分析できる。28光年という距離はJWSTの能力が届く範囲であり、Ross 318 bは将来の大気観測の有力候補のひとつだ。
「住める」ではなく「住める可能性がある」
最後に、正直に言っておきたいことがある。
Ross 318 bが「住める惑星」だと確定しているわけではない。現時点でわかっているのは、惑星がハビタブルゾーン内にあるということ、質量と推定半径から大気を持てる可能性があるということ、そして28光年という手が届きやすい距離にあるということだけだ。
大気が実際に存在するかどうか、組成は何か、液体の水があるかどうか、生命の痕跡はあるか——これらはすべてこれからの観測次第だ。
ただ、「可能性がある」ということ自体が、今の宇宙科学においてはすでに十分に価値を持つ。遠くを向けば数千光年先のにぎやかな惑星系がある一方で、28光年というほぼ「裏庭」に、条件を満たした惑星がひとつ眠っている。
それは、宇宙が思っていた以上に生命に優しい場所かもしれないという、小さな、しかし確かな証拠のひとつだ。
Ross 318 bについての論文: Detection and Characterization of the Temperate Super-Earth Ross 318 b(arXiv:2605.11123, 2026年5月)