コスモ・ビレッジ三期棟の管理人、村瀬というのが、どうにも冴えない男である。

三期棟は築四十年の宇宙団地で、全百二十戸のうち二十一戸が空室だった。空室率17.5%。管理会社のルールでは15%を切ればボーナスが出る。村瀬はこの数字をもう三年にらみ続けていた。

もっとも、三期棟が不人気なのには理由がある。立地が暗いのだ。近くの恒星が小さくて地味なせいで、廊下も共用スペースもつねに薄暗い。省エネの照明がそれに輪をかけて、昼なのか夜なのかわからない。ちなみに隣の二期棟は明るい恒星のそばに建っていて、空室率は3%だった。

ある日、村瀬はふと帳簿を見返していた。空室のはずの507号室に、毎月きっちり家賃の自動引き落としが記録されている。口座名義は「安藤」。金額も現行の家賃と一円も違わない。

「なんだこれ」

村瀬は管理システムを開いた。507号室のステータスは「空室」。入居者センサーの生体反応もゼロ。ただし引き落とし履歴をさかのぼると、十二年前から途切れていなかった。

どうやら、誰かが空室に家賃を払い続けているらしい。

村瀬は507号室のドアの前に立った。「空室」の札がかかっている。チャイムを鳴らすと、五秒ほど間があって、ドアが薄く開いた。

「……はい」

小柄な男が立っていた。年齢はよくわからない。服も靴も壁と同じような色をしていて、暗い廊下では輪郭がぼやけるのだろう。

「あの、管理人の村瀬です。ここ、空室の登録になってるんですけど……お住まいですか」

「ええ」安藤は小さくうなずいた。「十二年になります」

「十二年」

村瀬は廊下のセンサーを見上げた。反応なし。安藤は目の前にいるのに、センサーのランプはぼんやり消えたままだった。

「あの、センサーが反応してないみたいなんですが」

「そうみたいですね」安藤はとくに気にした様子もなく言った。「引っ越してきたときから点かないんです。何度か管理会社に連絡したんですけど、空室だから対応不要って返されまして」

「……空室だから」

「ええ。空室ですから」

つまりこういうことだった。センサーが反応しない。だから空室扱い。空室だから連絡しても対応されない。対応されないからセンサーは直らない。直らないから空室のまま。安藤はその輪っかの中で、十二年間きっちり家賃だけを払い続けていたのかもしれない。いや、払い続けていた。帳簿がそう言っている。

「あの、すみません、すぐ登録直します」村瀬は端末を取り出した。「空室率……いや、その、ちゃんと入居者として」

「お気になさらず」安藤は小さく会釈した。「静かなほうが好きなので」

村瀬が「空室」の札を剥がしたとき、廊下の奥から、かちゃり、と音がした。

509号室のドアが細く開いて、同じくらい地味な顔がのぞいた。

「あの。うちもなんですけど」

村瀬は廊下を見渡した。三期棟の薄暗い通路に、ぽつ、ぽつと、ドアが開き始めていた。