太陽を、はるか遠くから見ている誰かがいたとする。その視線の先を、1年に1回、地球が横切る。このとき太陽の明るさは、どれくらい暗くなると思うだろうか。
答えは約0.008%。1万分の1弱だ。夜のグラウンドを照らす投光器の前を、蛾が1匹よぎった――その程度のまたたきでしかない。
第二の地球を探すというのは、はるか遠くの星で、この一瞬のちらつきを気長に待ちつづける作業のことだ。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が2027年の打ち上げを目指して組み立てている望遠鏡「PLATO(プラトー)」は、まさにこれをやろうとしている。
星が一瞬だけ暗くなる、その正体
惑星は自分では光らない。だから遠くの惑星をそのまま写真に撮るのは、ほぼ無理だ。恒星のまぶしさの中に埋もれてしまう。
そこで使うのがトランジット法(惑星が主星の前を横切るときの、わずかな減光をとらえる手法)だ。惑星が星の手前を通ると、ほんの少しだけ光がさえぎられる。その落ち込みを見つければ、直接見えない惑星の存在をあぶり出せる。PLATOという名前自体、PLAnetary Transits and Oscillations of stars の頭文字からきている。
問題は、その落ち込みがあまりに浅いことだ。木星ほど大きな惑星なら明るさは1%ほど下がる。ところが地球サイズだと、冒頭の通り0.008%。正直、この数字を最初に見たとき、そんな変化をどうやって測るんだと思った。
しかも影が続くのは、地球と太陽の組み合わせで計算するとおよそ13時間。1年のうちの13時間、それも1万分の1弱の変化を、取りこぼさずに捕まえる。そんな芸当がどうすれば成り立つのか。
なぜ一度に20万個もの星を見張るのか
ここに、もうひとつの厄介ごとがある。惑星の軌道が、こちらから見てちょうど真横を向いていないと、そもそも星の手前を横切ってくれないのだ。
軌道が少しでも上や下に傾いていれば、惑星は星の脇を素通りするだけで、影は落ちない。地球と太陽の関係で見積もると、たまたま真横を向いている確率はおよそ200個に1個。つまり仮にどの星にも地球のような惑星があったとしても、影が見えるのは200個のうち1個だけ、という計算になる。
だから、数で勝負するしかない。ESAによれば、PLATOは20万個を超える星を同時に見張る計画だ。当たりくじの確率が低いなら、くじの枚数を増やすというわけだ。
これを実現するのが、26台ものカメラで空を撮る設計だ。1台ごとのセンサーは8140万画素。26台を合わせると、ざっと21億画素になる。スマホのカメラを4000万画素とすれば、40台分をまとめて空に向けているようなものだ。カメラの視野は互いに重なっていて、明るい星は多くのカメラで、暗い星は少ない台数で、同じ空をいくつもの目が同時に見つめる。しかも一度に見張る空は広い。PLATOを進める研究チームによれば、その視野は満月の面積のおよそ1万倍にもなるという。
ここで少し立ち止まってほしい。それだけの目で一瞬の影を捕まえたとして、それが本当に惑星だと、どうすればわかるのだろう。
ここからが、気の長い話
星の明るさは、惑星がいなくても揺らぐ。表面の黒点、内部の対流、観測機器のノイズ。1回だけ光がわずかに落ちたところで、それが惑星の影なのか、ただの気まぐれなのかは区別がつかない。
惑星だと確信するには、同じ深さ・同じ形の減光が、規則正しく繰り返すのを見届けるしかない。ところが地球のような惑星は、1年に1回しか星の手前を通らない。だから2回目、3回目と確かめようとすれば、必然的に同じ星を何年も見張りつづけることになる。
想像してみてほしい。あなたが遠くから太陽を見張る側にいるとする。1年待って、やっと訪れる13時間。その間だけ現れる1万分の1のちらつきを、まばたきもせず見逃さずにいる。それを何年も、20万個の星ぶん同時にやる。
白状すると、系外惑星探しはもっと派手なものだと思っていた。実態は、ひたすら待つ忍耐の科学だ。PLATOは同じ星の集まりを、数年という長い時間をかけて見つめつづける計画になっている。
そこまでして影をつかまえても、その惑星が本当に「地球のきょうだい」かどうかは、影だけではわからない。
星の“地震”を聴いて、惑星の素性を割り出す
減光の深さが教えてくれるのは、あくまで「星に対する惑星の大きさの比」でしかない。星そのものの大きさがあやふやなら、惑星の本当のサイズも決まらない。
そこでPLATOは、名前の後半――Oscillations of stars、つまり星の振動も読み取る。星は内部を伝わる音波で、全体がごくかすかに震えている。その震えを明るさの細かな変化から拾い出す手法を、星震学(せいしんがく)と呼ぶ。地震波から地球の内部を探るのと、発想はよく似ている。
面白いのはここからで、この星の震えを解析すると、星の大きさ・質量、そして年齢まで割り出せる。ESAはPLATOの目標として、惑星の半径・質量・年齢を精密に測ることを掲げている。星の年齢がわかれば、その惑星系が何歳なのか――生命が育つだけの時間があったのかどうかまで、見通しがついてくる。
一瞬の影で惑星を見つけ、星の震えでその素性を裏づける。この二段構えが、PLATOという望遠鏡の芯にある。
「地球のきょうだい」はいるのか
系外惑星そのものは、もう数千個も見つかっている。AIが220万の星を読んで118個の惑星を確認した話のように、統計で語れる時代に入っている。
ただ、これまで大量に見つかってきたのは、主星のすぐ近くを短い周期で回る惑星が多かった。近いほど頻繁に横切るので、影を捕まえやすいからだ。裏を返せば、太陽そっくりの星の、水が液体でいられる距離――ハビタブルゾーン(生命が育ちうる、暑すぎず寒すぎない領域。ゴルディロックスゾーンとも呼ばれる)を回る岩石惑星は、まだほとんど手が届いていない。ちょうど地球が太陽から受け取っているような、あの距離のことだ。
ESAはPLATOの狙いを、太陽に似た星のハビタブルゾーンにある岩石惑星に据えている。ここははっきり分けておきたいのだが、PLATOが確かめられるのは「そこに地球サイズの岩石惑星がある」というところまでだ。水があるか、まして生命がいるかは、また別の望遠鏡が引き継ぐ仕事になる。それでもESAは、この探査を「地球に似た世界が他にもあるのか」を確かめる一歩だと位置づけている。
忍耐という名の望遠鏡
PLATOが向かうのは、地球から約150万km離れたL2(ラグランジュ点2、太陽と地球の重力が釣り合う場所のひとつ)だ。月までの距離のおよそ4個分。そこで身じろぎもせず、同じ空を何年も見つめることになる。
2027年に打ち上げられた望遠鏡が、2030年代のいつか、夜空のひとつの星を指して「ここに、もうひとつの地球がある」と言えるように。そのために今は、投光器をよぎる蛾ほどのちらつきを、20万個の星の中でひたすら待つ準備が進んでいる。
夜、街灯の下を虫が横切るのをふと見かけたら、思い出してほしい。はるか遠くの星でも、たぶん誰かが、それとそっくりな一瞬のかげりを、じっと待っている。