重ければ格が上――そう思っていた。HR 8799という星系には、木星の7倍ほどの巨大惑星と、その3倍以上重い『失敗した星』が同居している。速く回っていたのは、なんと軽いほうだった。

ハワイのKeck天文台がこの逆転を突き止めた。報告は2026年3月18日付で、The Astronomical Journal誌に載った。筆頭著者は米ノースウェスタン大学のDino Chih-Chun Hsu氏らのチームだ。使ったのはKPIC(Keck Planet Imager and Characterizer)という装置。惑星の光そのものを分けて、そこに刻まれた「回転の速さ」を読み取った。

なぜ重いはずの天体が、ゆっくりしか回れないのか。話は、そもそも褐色矮星とは何者か、というところから始まる。

「失敗した星」とは、いったい何なのか

褐色矮星(かっしょくわいせい)という言葉を、たぶん多くの人は初めて聞く。ざっくり言うと、星になりそこねた天体だ。

星が光るのは、中心で水素が核融合を起こしているから。ところが、集まったガスの量が足りないと、中心の圧力と温度が上がりきらない。核融合の火が安定してつかないまま、じわじわ冷えていく。これが褐色矮星――俗に言う「失敗した星」である。

重さでいうと、惑星と本物の恒星のちょうど中間にいる。木星のような巨大ガス惑星よりは重いが、太陽のような星になるには足りない。境目にいる、宙ぶらりんな存在だ。

褐色矮星は惑星と恒星のあいだの重さに位置し、水素の核融合を続けられなかった天体だと示す図

やや細かい話になるが、ここを飛ばすと後で効いてこない。厄介なのは、巨大ガス惑星と褐色矮星が、見た目ではよく似ていることだ。どちらもガスの塊で、自分では強くは光らない。写真に撮っても、どっちがどっちか一目では分からない。

では、何を手がかりに見分ければいいのか。研究チームが目をつけたのが、天体の「回り方」だった。

光の広がりから、回転の速さを読む

止まっているボールと回っているボール。遠くから見ても、回転はなかなか分からない。ましてや相手は、何十光年も先にある小さな点だ。それなのに、どうやって自転を測るのか。

鍵はドップラー効果にある。救急車のサイレンが、近づくと高く、遠ざかると低く聞こえる、あれと同じ理屈だ。天体が自転すると、こちらに近づいてくる側の光は少し波長が縮み、遠ざかる側は少し伸びる。

その両方がまざると、天体の光に含まれる特徴的な模様(スペクトルの線)が、わずかに横へにじんで広がる。速く回っているほど、にじみは大きい。KPICはこの広がりを高い精度で測り、逆算して自転の速さをはじき出す。

正確に言えば、KPICが測るのは天体そのものの回転ではなく、光に刻まれた「にじみの幅」だ。そこから研究チームが自転速度を推定している。観測しているのは光、割り出しているのは回転――この区別は押さえておきたい。

ここで少し立ち止まってほしい。数十光年先の、直接は点にしか見えない天体の、一日の長さを言い当てる。しかもガスの惑星と星もどきを、まとめて。よく届くものだと思う。

3倍以上重いのに、6倍ゆっくり

さて、本題の逆転である。研究チームは、質量・大きさ・年齢の条件をそろえて惑星と褐色矮星を比べた。条件をそろえないと、単に若い天体が速いだけ、という話に紛れてしまうからだ。

そろえた上で出てきた傾向は、はっきりしていた。より重い褐色矮星よりも、巨大ガス惑星のほうが速く自転していたのだ。

なかでも分かりやすいのがHR 8799という星系だ。ここには木星の7倍ほどの巨大惑星と、その3倍以上重い褐色矮星がいる。重さでは褐色矮星の圧勝。ところが自転を測ると、褐色矮星は惑星の約6分の1の速さでしか回っていなかった。

HR 8799では褐色矮星のほうが3倍以上重いのに、自転は惑星の約6分の1しかないと対比する棒グラフ

重いものほどどっしり構えて、というのは人間の勝手なイメージらしい。回転に関しては、むしろ逆が起きていた。研究者たちも、この関係が偶然ではなく傾向として現れたことに手応えを感じたようだ。

問題は、なぜこんなブレーキがかかったのか、である。

生まれたての惑星が踏んだ、磁石のブレーキ

天体は、生まれるときにガスが縮んで丸くなる。縮むと回転は勝手に速くなる。フィギュアスケーターが、広げた腕を胸に引き寄せた瞬間にくるくると加速する、あの現象と同じだ。放っておけば、どの天体もかなりの速さで回りだす。

ところが実際には、そこまで速くならない。何かがブレーキを踏んでいる。研究チームが有力視しているのが、磁場の働きだ。

生まれたての天体のまわりには、材料となったガスの円盤が残っている。天体が磁場を持つと、その磁力線が円盤のガスを掴む。回ろうとする天体と、円盤とが磁力線で繋がれ、綱引きのように回転のエネルギーを逃がしていく。こうして自転にブレーキがかかる、という筋書きだ。

生まれたての惑星の磁力線がまわりのガス円盤を掴み、重い天体ほど強くブレーキがかかると示す図

ここで効いてくるのが重さだ。研究チームは、より重い天体ほど磁場が強く、円盤との綱引きも強く働くと考えている。だから重い褐色矮星のほうが、より深くブレーキを踏まれて、ゆっくりになった――今回の逆転を、そう説明できるわけだ。

あくまで観測された自転の傾向から、チームが組み立てた解釈である。ただ、重さとブレーキの強さが素直に繋がる点は、いかにも筋が通っている。

木星の一日は10時間――太陽系でも「速い」側

遠い星系の話が続いたので、いったん足元に戻ろう。回転のブレーキと言われても、どのくらいが速くてどのくらいが遅いのか、実感がわかない。

そこで木星だ。太陽系で一番大きいこの惑星は、地球の11倍もの直径がありながら、たった約10時間で一回転する。地球の一日が24時間だから、倍以上のペースだ。図体の大きさを考えると、これはかなり速い。

数字にすると迫力が出る。木星の赤道あたりの表面は、自転によって秒速12kmほどで振り回されている。地球の赤道が秒速0.5kmに満たないことを思えば、桁違いだ。もしその雲の上に立てたら、昼と夜があっという間に入れ替わり、体は横向きにぶん回される感覚だろう。

その木星でさえ、宇宙の巨大ガス惑星の中では平凡な速さらしい。今回調べられた系外の巨大惑星には、木星より速く回っているものもある。この記事を書きながら一番わくわくしたのが、この部分だ。私たちのすぐ隣の木星が、遠い星系の惑星たちと同じ「速く回る側」の仲間だという事実。

自転が引く、惑星と星のあいだの新しい線

見た目では区別しにくい巨大ガス惑星と褐色矮星。その二つを、自転の速さという物差しが分けてみせた。ここが今回の一番の持ち帰りだ。

重さや明るさだけでなく、「どう回っているか」に、その天体がどう生まれ育ったかが刻まれている。生まれたての頃に磁場と円盤がどうやり取りしたか――その履歴が、何十億年も経った今の自転速度に残っているらしい。回転は、天体の生い立ちの化石のようなものかもしれない。

研究チームは、この関係をより小さく暗い天体にも広げようとしている。Keck天文台には2027年に、HISPECという新しい装置が加わる予定だ。今回は届かなかった、もっと遠く小さな世界の自転にも手が届くと期待されている。惑星と失敗した星を分ける線は、これからもっとくっきりしていくだろう。

夜、木星が空に見えていたら、思い出してほしい。あの光の点は、地球の倍以上の速さで、今この瞬間もぐるぐる回り続けている。そして遠い星系では、それより重い「星になりそこねた天体」が、もっとゆっくり回りながら、自分の生い立ちを回転に刻んでいる。