ミナは、自分がくるくる速く回ってしまうのが、恥ずかしくてしかたなかった。
この星の人は、みんな生まれつき、その場でゆっくり回っている。こまのように、自分だけの向きをたどって回りつづけるのだ。もっとも、あたりまえのことなので、だれも気に留めない。ただ、回る速さだけは人によってちがった。軽い者は速く、重い者はゆっくり。ミナは十になっても軽くて、町でいちばん速く回る子だった。
「また、そんなに速く回って。落ち着きのない子だねえ」
母さんにそう言われるたび、ミナはしゅんとなった。だいたい、速く回れることが自慢になった話なんて、この町では聞いたことがない。えらい人は、みんなゆっくり回る。どっしりして、めったに人のほうを向かない。「あの方は動じない」と、だれもが一目置くのだった。
町でいちばんえらいのは、回り親方のトクさんだ。とにかく大きくて、重かった。重すぎて、一年に一度しか正面を向かない。だから町の人は、こっちを向いてくれる番を、何年も待って暮らしている。家の前には代々の「順番待ちの腰かけ」があって、いつもだれかが座って、ぼんやり空をながめていた。ミナも、そのトクさんに憧れていた。あんなふうにゆっくり回れたら、きっと立派なのだろう。
ある日、ミナは腰かけによじ登って、大きな背中に声をかけた。
「トクさん。あたしも、ゆっくり回りたいの。どうしたら、なれる?」
返事は、すぐには来なかった。しばらくして、半分だけこちらを向いた横顔が、低くつぶやいた。
「……いま、だれか、いたか。声は届くんだが……なあ。こっちが向くころには、たいてい、もう、いないんだ」
ちなみに、去年トクさんが「壮健か」と声をかけた相手は、とっくに引っ越したあとの空き地だったらしい。それでも町の人は、「さすが親方、じっくり構えていなさる」と、ありがたがるのだった。
ミナは、腰かけで待ちながら、ふと空を見上げた。大きな親玉星と、小さな豆星が、並んで回っている。親玉星は重たくて、何十日もかけて、やっとひとまわり。豆星は軽くて、ひと晩に何度もくるくる回る。町の人は、いつも親玉星を指して「貫禄がある」と拝んだ。豆星のことは、だれも見ていない。
その年の、向き合いの日が来た。一年に一度、トクさんが町へまっすぐ正面を向く、めでたい日だ。広場じゅうに人が集まって、待った。けれどトクさんは、あんまり遅い。昼を過ぎても、まだ斜め。速い子らは、とうとう飽きて、くるくる回りながら遊びに行ってしまう。夕方に残っていたのは、同じようにゆっくりの、年寄りばかりだった。
日が暮れるころ、トクさんが、やっと正面を向いた。がらんとした広場へ、去年とおなじ言葉が、堂々と響く。
「——皆の衆。壮健か」
遠くで帰りかけた人たちが「さすが親方だ」と手を合わせる。トクさんの前には、もう、だれもいない。
ミナは、それを見て、もう、ゆっくり回りたいとは思わなくなった。かわりに、ありったけ速く、くるっと回り込む。トクさんのたった一つの正面へ、ひょいとすべりこんだ。
「トクさん。皆の衆、あたしだけだけど。ここにいるよ」
トクさんの、ゆっくりとしか動かない目が、とまどったように、ミナをとらえた。生まれてはじめて、間に合っただれかを。その上の空では、豆星が、待つあいだにもう一周、くるっと回っていた。