同じ土星を、2つの望遠鏡で見たら全然違った

2024年の後半、宇宙天文学の世界でちょっと面白いことが起きた。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とハッブル宇宙望遠鏡が、ほぼ同じ時期に土星を観測したのだ。結果として得られた画像は、同じ惑星とは思えないほど違っていた。

ハッブルが2024年8月22日に撮った土星は、教科書で見慣れた淡い黄色の姿だった。氷でできた輝くリング、極地方のうっすらした青み、穏やかな縞模様。「ああ、土星だな」という安心感がある。

一方、JWSTが同年11月29日に赤外線で撮った土星は、暗いオレンジ色の球体だった。極地方は灰緑色に光り、縞模様の配置もまるで違う。同じ天体なのに、波長を変えるだけでここまで表情が変わる。この事実が、惑星の「中身」を知る手がかりになる。

2つの望遠鏡が見た土星の大気構造

可視光は「表面」、赤外線は「内臓」を見る

なぜ見え方がこれほど違うのか。答えは光の波長にある。

ハッブルが捉えるのは可視光、つまり人間の目と同じ波長帯だ。この光は土星の大気の上層で反射される。だから私たちが見ているのは、大気のごく表面にあるアンモニアの結晶や炭化水素が太陽光を跳ね返した姿にすぎない。

JWSTの赤外線はもっと深くまで届く。大気の何層もの雲を透過し、深部の化学物質や温度分布まで捉えることができる。いわば、ハッブルが土星の「顔」を見ているのに対して、JWSTは「内臓のレントゲン写真」を撮っているようなものだ。

NASAの研究チームはこの2つの画像を重ね合わせることで、土星大気の立体的な構造を史上もっとも詳細に描き出した。これは1つの望遠鏡だけでは不可能な仕事だった。

土星の大気は「層」でできている

電磁波スペクトルと各望遠鏡の観測範囲

土星の大気を上から順に見ていくと、驚くほどきれいな層構造になっている。

一番外側は高層エアロゾル(微粒子)の層だ。JWSTが捉えた極地方の灰緑色は、この高高度の微粒子が赤外線を独特のパターンで散乱しているためだと考えられている。ちなみにこの灰緑色、可視光では全く見えない。

その下にアンモニア(NH3)の結晶の雲がある。土星が黄色く見える主な理由はこれだ。アンモニアの結晶が太陽光を反射して、あの特徴的なクリーム色をつくっている。

さらに深いところに硫化水素アンモニウム(NH4SH)の層がある。そのまた下に、水の雲が広がっている。地球の積乱雲と同じH2Oだが、土星では大気の深い場所に閉じ込められていて、可視光では見えない。

そして大気の奥の奥には、液体金属水素の海が広がり、中心にはおそらく岩石と氷でできたコアがあると推測されている。「おそらく」と書いたのは、さすがにここまで深いと、JWSTでも直接観測できないからだ。

「リボンウェーブ」と15年前の大嵐のなごり

今回の観測で特に目を引いたのが、北半球の中緯度を蛇行する「リボンウェーブ」と呼ばれるジェット気流だ。

地球のジェット気流も蛇行するが、土星のリボンウェーブはスケールが違う。地球の直径の何倍もの幅で、くねくねと惑星をぐるりと一周している。この気流が大気の物質を攪拌し、層構造を部分的にかき乱している。

もう一つ興味深いのが、リボンウェーブのすぐ南に見える小さな斑点だ。これは2010年から2012年にかけて発生した「大春嵐」(Great Springtime Storm)の名残だと考えられている。15年近く前の嵐の痕跡が、いまだに大気中に残っているのだ。

地球で15年前の台風の痕跡が残っているなんてことはまずない。でも土星は地球の9.5倍の直径を持ち、大気の深さも桁違いだ。一度起きた大規模な擾乱は、ゆっくりと、しかし確実に、何十年もかけて消えていく。

北極にはボイジャーが1981年に発見した六角形のジェット気流もある。40年以上にわたってほとんど形を変えていない。土星の大気現象のスケール感は、地球の常識をことごとく覆す。

ガス惑星と氷惑星、中身のレシピがまるで違う

ガス惑星と氷惑星の内部構造比較

ここで少し視野を広げて、太陽系の外側の惑星たちを比べてみたい。

木星と土星は「ガス惑星」と呼ばれる。大気の主成分は水素とヘリウムで、木星は約90%、土星に至っては約96%がこの2つの元素でできている。残りはメタンやアンモニアなどの微量成分だ。

面白いのは、土星の平均密度が水よりも低いことだ。もし宇宙サイズの巨大なプールがあったら、土星は浮く。直径が地球の9.5倍もある天体が水に浮くなんて、初めて聞いたときは信じがたかった。水素とヘリウムという軽い元素が圧倒的に多いからこそ起きる現象だ。

一方、天王星と海王星は「氷惑星」に分類される。ここでいう「氷」は、家庭の冷凍庫にある氷とは別物だ。水、メタン、アンモニアが超高圧で圧縮された状態を指す。大気の表層こそ水素とヘリウムだが、内部の大半は高温・高圧の「氷」のマントルで占められている。

海王星の内部では、メタンが極端な圧力で分解され、炭素がダイヤモンドの結晶として降り注いでいるかもしれない。「ダイヤモンドの雨」だ。地球では何億円もする宝石が、海王星では文字通り空から降ってくる。もちろん、その場に行けば数百万気圧に押しつぶされるので、拾いに行くのは現実的ではない。

同じ太陽から生まれたのに、なぜこうも違うのか

ここで素朴な疑問が浮かぶ。木星も土星も天王星も海王星も、同じ太陽系の同じ原始惑星系円盤から生まれたはずだ。材料は同じなのに、なぜ出来上がりがこんなに違うのか。

答えの鍵は「形成された場所」と「タイミング」にある。

太陽に近い場所では温度が高く、水素やヘリウムのような軽い気体は簡単に吹き飛ばされてしまう。だから内側の惑星(地球や火星)は岩石が主成分になった。

木星と土星が生まれた領域は十分に寒かった。ここでは大量のガスが重力で集まり、巨大なガス惑星に成長できた。特に木星は早い段階で十分な質量を獲得したため、周囲のガスを際限なく引き寄せ、太陽系最大の惑星になった。

天王星と海王星はもっと外側で形成された。太陽からの距離が遠いぶん、原始惑星系円盤の物質密度が低く、ガスを大量に集める前に円盤そのものが消散してしまった。だから表面は水素とヘリウムの薄い大気だが、内部は水やメタンやアンモニアの「氷」が主体という、中途半端な構造になった。

同じ材料でも、レシピ(場所とタイミング)が違えば全く違う料理ができあがる。太陽系の惑星たちは、その生きた証拠だ。

2つの望遠鏡が開く、惑星科学の次の扉

ハッブルは1990年の打ち上げ以来、35年以上にわたって太陽系の外側の惑星を定点観測してきた。OPAL(Outer Planet Atmospheres Legacy)と呼ばれるプログラムでは、毎年のように木星、土星、天王星、海王星の「定期健診」を行っている。

そこにJWSTの赤外線観測が加わったことで、惑星科学は新しいステージに入った。可視光だけでは見えなかった深層大気の化学組成、温度分布、エアロゾルの挙動がリアルタイムで追跡できるようになったのだ。

土星は現在、北半球の夏から秋分(2025年)を経て、南半球の春へと季節が移り変わっている。2030年代には南半球の夏を迎える。ハッブルとJWSTは、この季節変化に伴う大気の変動を継続的に記録していく予定だ。

地球では季節の変化は3ヶ月ごとに訪れる。だが土星の一年は地球の29.5年分だ。一つの季節が7年以上続く。その緩やかな変化を捉えるには、何十年もの辛抱強い観測が必要になる。ハッブルの35年の蓄積と、JWSTのこれからの数十年。2つの望遠鏡の時間軸が重なることで、私たちは初めて惑星の「一生」のスケールで大気を理解できるようになる。

同じ太陽系に住んでいるのに、隣の惑星のことすら私たちはまだよく知らない。でも、知らないからこそ調べる意味がある。2つの目で見る太陽系は、片目で見るよりずっと奥行きがあって面白い。